第29話 グラトニースライム

『23号室。応援頼む』


 応援要請は灼熱の剣からだった。

 俺達は23号室にスクーターに乗って駆け付けた。

 いたのは馬鹿でかいスライム。


「【リフォーム】」


 槍はスライムを貫通したが、ダメージにはなってないようだ。


「無駄だ。このグラトニースライムには全ての攻撃が効かない。ビッグスライムと間違えた俺達が間抜けだが、負けて終われない」


 厚木あつぎさんそう述べた。


「いったん退きましょうよ」

「仕方ないか。おいお前ら退くぞ」


 灼熱の剣は部屋から撤退したが、グラトニースライムは部屋の外に追いかけてきた。

 幸いなのは進むのが遅いことだ。


 住人もいることだし、こういうのをうろつかせたままではいけない。


「このスライム、攻撃力はどうですか?」

「体を触手みたいに操って飛ばして来るが、威力はさほどじゃない。厄介なのは酸だ。触手に触られるとみんな溶けてしまう」


 灼熱の剣のプロテクターや服、武器も溶かされているのに気づいた。


「触られると火傷しそうだ」

「ああ、もう何度も食らった。幸いポーションで治るから、怪我はないが」


 どうしよう。

 火みたいなものだと考えるか。


「【リフォーム】、壁」


 リスキルで厚さ1ミリぐらいの壁を出して、グラトニースライムの背後を封じた。


「もういっちょう【リフォーム】、壁」


 グラトニースライムの前面も封じた。

 これで閉じ込められた。

 グラトニースライムが出てくる兆候はない。


 さて、どうしよう。

 考えていたら、今日の討伐を終えた大船おおぶねさんと、どらにゃんの尻尾が駆け付けた。


「グラトニースライムだそうです」

「核が透明で場所が分からないらしいぜ」


 大船おおぶねさんがそう言った。


「どうやって倒すか知ってますか?」

「そんなの凝固剤で水気を吸い取ったら、いいはずだ」


「そんなのなら、ダンジョンの回収機能で水気を吸い取れます。【リフォーム】。これでいいはずです。何時間ぐらい掛かりますかね?」

「ほとんど自然乾燥みたいな物だろ。1週間は掛かるんじゃないか」


「灼熱の剣の方々、依頼は達成ということで今日は上がりましょう」

「くそ、今回は赤字だ」


 厚木あつぎさんは悪態をついた。

 冒険者も楽じゃないな。


 仕事を上がって部屋でコーヒーを飲んでくつろいでいたら、インターホンが鳴らされた。


「どなた?」

「区役所のダンジョン課の橋本はしもとです。今日からお世話になります」


 俺は扉を開けた。

 声に覚えがあると思ったら、橋本はしもとさんはいつも俺の提案を熱心に聞いてくれてた人だ。

 何となく嬉しくなった。


「ようこそ、分譲ダンジョンに」

「これ、つまらない物ですが」


 菓子折りを差し出されたので受け取った。

 それはひよこの形をしたお饅頭だった。

 久しぶりにこれを見た気がする。


「つまらなくないですよ。俺は好きです」

「あー、浮気センサー反応」


藤沢ふじさわも一緒にお茶を飲んでいくか。橋本はしもとさんもどうです」

「飲みます」

「上がらせて頂きます」


 ちゃぶ台を出して、お茶を淹れる。

 お茶請けはさっき貰ったひよこの饅頭だ。


「こういう可愛いのって、食べるのがちょっとつらいですね」

「そんなことを言ったら何も食えない。橋本はしもとさんはどうです」

「食べちゃいたいぐらい可愛いので、遠慮なく食べますね」


「そうだ。機能のアンケートを作ったんだ」


 出した紙には、髪の毛乾かし、匂い取り、埃取り、窓設置、服自動収納、食器自動収納、本自動収納と書いてある。


「高機能ですね。ハイテク住宅より凄そうです」

「売りのひとつにしようかと。何か要望があればリフォームしますよ」

「喉が弱いので加湿器機能が欲しいですね」

「なるほど。熱帯をイメージしたフィールドとかもありますから。加湿は出来ると思います」


 色々と要望があるもんだ。


「それとリモコン回収機能がほしいです。たまに探すんです。大抵はソファーの隙間とかなんですけど、たまに意表を突いて、ソファーの下とか、蹴飛ばして飛んでもない場所にあったりします」

「妖怪、リモコン隠しの仕業が多発ね。やってみましょう」


「先輩、私は植木自動水やりが欲しいです」

「フィールド型だと植物の世話の機能もあるから可能だろう」


 本当に色んな要望があるな。

 俺はAIが欲しい。

 事務仕事とかをダンジョンがやってくれるようになれば。


 ちょっと無理そうだな。

 それともダンジョンコアをリフォームしたら可能なのだろうか。

 やってみたい気がする。

――――――――――――――――――――――――

俺の収支メモ

              支出       収入       収支

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

繰り越し               11,312万円

依頼金          300万円

上級ポーション               307万円

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

計            300万円 11,621万円 11,321万円


相続税        2,000万円


遺産(不動産)         0円

ダンジョン        -90億円


 ダンジョンの資産価値が段々プラスに向かって行く。

 プラスになる日は来るんだろうか。

 相変わらず、ポーションは湧いている。

 これだけが救いだ。

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