第6話
変わらぬ日常。
戦い、傷つき、逃げ、休む。
しかし、今の彼にはもう一つ、彼にとって重要な行為が増えていた。
束の間の休息、魔女と騎士は見たこともないお互いの世界の話をするようになっていた。それが今の現実を変えられないことは二人とも知っている。
騎士は遠征した先々の話をした。
「どうしたの? 今日はいつもよりずっと暗い」
冗談っぽく魔女が言う
「いえ、此度の戦いで、騎士団はついに私だけになってしまいました。もう団ではないですね」
彼は今日、初めて禁忌を犯した。
仲間の首を刎ねたのだ。
森の中で酸を吐く黒犬と戦っていた彼らは、今回も苦戦を強いられていた。何とか目の前の敵を倒し、彼は息をつくことができたが、背後には死体が山積みになっていた。その中から、彼は唯一の騎士仲間へと向かう。
その騎士は顔が酸で焼け、呼吸も絶え絶えだった。両手の指は敵の鋭い牙で失われている。回復に一晩はかかりそうだが、それでも連れて帰れば元通りになる。彼が肩を取ろうとしたとき、倒れている騎士は彼に向かって懇願をした。
「たの、む、だれもみて、いない、くびを」
「大した傷ではない。すぐに治る」
「もういいんだ、もういいんだ、お願いだ」
彼にしても、この騎士にしても、この程度なら何度も経験してきた。だから、死ぬことはないというのはわかっている。
ただ、蓄積された痛みは体ではなく心を蝕んでいた。
騎士は長く戦えば戦うほど、無意識に死にやすそうな戦い方をし始めるのだ。騎士も首を刎ねられれば終わりだ。意識的には微塵も思っていないとしても、無謀な戦い方を好むようになる。
「魔女の加護を」
彼はお決まりの言葉を告げ、いつものように倒れた騎士を担ごうとしたところでふと動きを止める。
気が付けば、彼は剣を振り上げ、味方の首へと下ろしていた。
死んだ騎士は満足そうに目を閉じていた。
「また独りになりました」
「何言ってるの! 私がいるじゃない!」
魔女が胸を張る。
小柄な魔女は自分で叩いた胸が痛いのが咳き込んだ。
「そうですね」
彼が答えるが、何故か魔女は悲しそうな顔をしていた。
翌日、魔女は城から姿を消した。
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