第14話 女装男、ギャルに一目惚れされる。
謎のオレンジ色の髪の少女と出逢い、売れ残った『納豆ラーメン』とかいうわけのわからないカップラーメンを渋々と自販機で購入した、騒動の後。
オレは、穂乃果とその友人たちと再び合流し、四人で昼食の席に付いていた。
穂乃果の友人である二人の少女―――陽菜と花子は、話してみるととても性格が良く、心の根が優しい生徒たちだった。
金髪の派手な見た目とは裏腹に、気さくで話しやすい、タレント・モデルコースの一年生、春日 陽菜。
自分を真祖の吸血姫だと言い張る、兼業でVtuberをやっている声優科コースの一年生、中二病の佐藤 花子。
どうやらこの二人は、穂乃果とは中学時代からの友人らしい。
仲睦まじく会話する三人を見ていると、何処か、他人が入り込めない固い絆のようなものを感じてしまう。
そんな彼女たちの姿に、オレは思わず、自身の中学時代の友人たちの姿を頭に思い浮かべてしまっていた。
(彰吾、委員長‥‥元気にしてるかなぁ)
以前通っていた学校に休学届を出したのは、一昨日の土曜日だったから―――彰吾も委員長も、今日、オレが休学するという報せを聞いて、恐らくは学校で驚いていたことだろう。
二人に詳しい事情を話せずに今日この日を迎えてしまったことは、今でも本当に申し訳なかったと思う。
でも、女装して女子高に通うだなんてこと、言えはしないしな‥‥。
彼らに何て言うのが正解だったのだろうか。
‥‥家の事情、が、ベストな落としどころか?
そう、次に会った時にどう友人たちに説明すべきかと頭の中で思考を巡らせていると、向かいの席に座っていた陽菜が、キョトンとした顔でオレに声を掛けてきた。
「ん? どしたの、楓っち。急に遠い目しちゃって?」
「あっ、いえ。みなさまの仲睦まじい姿を見ていたら、つい、私も中学校時代の友人を思い出してしまって‥‥少々、ノスタルジックな気分に陥ってしまっていました」
「お姉さまのご友人さん‥‥きっとお姉さまに似て、礼儀正しくて物腰丁寧な、お綺麗な方ばかりなのでしょうね~~~!! 想像ができますぅ~~~!!!!」
そう言って頬に手を当て、隣の席からキラキラな目を向けてくるお団子少女、穂乃果ちゃん。
うぅぅ、そんな純粋な目を向けないでくれ‥‥オレの友人には、朝っぱらからグラビアアイドルの写真集を机に置いてくるような、年中発情男とかがいるんだよ‥‥君の期待しているようなまともな友人なんていな――――いや、いるか。委員長は真面目で礼儀正しいか。あの堅物おさげちゃんだけは穂乃果ちゃんの御眼鏡に敵う人材かもしれないな、うん。
そう、頭の中でいつもプンプンと怒っている印象のおさげ髪の少女を思い浮かべていると、陽菜が優しい声色でオレに声を掛けてくる。
「楓っち‥‥そ、そんな寂しそうな顔しなくても良いんだよ!! この学校では、アタシたちがいるんだからっ!! ね、花子!!」
「花子じゃないです、フランチェスカさんです。‥‥まぁ、そうですね。確かに、楓さんのような美少女が傍にいたら、何かしら私に益はありそうです。良いでしょう。特別に、このフランチェスカさんのパーティに入れてあげます。このパーティは役立たずだからといって追放はしません。優良物件です。ぶいっ」
そう言って、無表情のままブイサインをしてくるオカッパ頭の少女、佐藤 花子。
そんな彼女に、陽菜は眉間に手を当て呆れたため息を吐くと、オレにニコリと微笑んできた。
「本当に、この中二病女は‥‥。とにかく、これからよろしくね、楓っち! あっ、そだそだ、レイン、やってるよね?」
「あ、はい、勿論やっていますよ」
「おー、じゃあ、今からコード交換しようよ! この四人でグルチャ組もうぜー! イェイ!」
スマホ片手にウィンクしてきた陽菜に頷くと、オレはポケットからスマホを取り出し、レインを起動させる。
そしてQRコードを表示し、その画面を陽菜の前へと差し出した。
「これです。どうぞ、陽菜さん」
「ありがとー! 友達登録完了、っと! ‥‥‥あれ?」
「? どうかしましたか?」
「や、何か楓っちのレインのヘッダー、すんげーイケメン男とちっさくて可愛い女の子が二人で映っているツーショット写真なんですけど‥‥誰これ? もしかして彼氏?」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥あ゛」
何やってんだ、オレはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!!!!!!!
何で、昨晩名前は『カエデ』に変えておいて、ヘッダーは更新しておかなかったんだぁぁぁぁぁぁ!?!?!?!?
いかに、オレの家宝である『マイゴッドルリカちゃんと遊園地に行った時のツーショット写真』といえども、こうなることを予期して、予めに違う写真に更新しておくべきだっただろうがぁ!!!!!
何でこんな初歩的なミスやってんだよ!!!!! バーカバーカ!! オレのバーカ!!!!
「ん? でもこの人、金髪に青目‥‥あっ、分かった! 楓っちのお兄さんでしょ、この人!」
頭の上に豆電球が浮かんだような、閃いた顔をする陽菜。
オレはそんな彼女の言葉に一瞬固まった後、慌てたようにコクリコクリと何度も頷いた。
「そ、そうです! その通りです、陽菜さん! その写真の人は、私の兄なんですっ!!!!」
「やっぱりそうなんだ! てか‥‥お兄さん、めちゃくそかっこいいな‥‥なんだよこのスタイル、この小顔‥‥。うぅむ、やっばい、めちゃアタシのタイプかも‥‥。ねね、楓っち、今度暇なときで良いからさ、お兄さん紹介してよ!! 現役女子高生モデルに興味ないか、聞いておいて!!」
「しょ、紹介、ですか!?!? い、いやー、その、あ、兄は多忙でして‥‥なかなか暇がないといいますか‥‥あ、あはははは‥‥」
「むー、マジかぁ。忙しいんだぁ」
スマホを眺めて、うーんと悩まし気な吐息を吐く陽菜。
オレはそんな彼女を横目に、急いでスマホを操作し、当たり障りのない画像――――ネットで拾った黒猫の写真を適当にヘッダーに差し替えておいた。
これで、まぁ、何とかはなっただろう。
TLに投稿していた画像は事前に消しておいたし、昔からの友人との繋がりは、既にレインでは消去している。
多分、これで抜かりはないハズだ。
クリーンになったレインのアカウントを見て、ホッと、安堵の吐息を吐く。
「お姉さま! 私ともレインのコード、交換してほしいですぅ!」
「あ、はい、勿論良いですよ、穂乃果さん。どうぞ」
「わぁ、やったぁ! すっごく嬉しいですぅ!! ではではさっそく、QRコード、読み取らせてもらいま――――」
「‥‥待ってください、楓さん。さっきから、このフランチェスカさんは、貴方に対してものすごく気になっている点があります」
そう言って、突如、花子はオレをジッと鋭い眼光で睨みつけてきた。
そんな彼女の異様な様子に、オレはゴクリと唾を飲み込み、静かに開口する。
「き、気になっていた、こと、ですか‥‥?」
な、何だ? ま、まさか、オレが男であることに気付いたというのか!?
背後でゴゴゴと効果音を鳴らしていそうな、まるでス〇ンド使いのようなオーラを出し始める、花子。
オレはそんな彼女に、恐る恐ると言った様子で再度口を開く。
「な、何でしょうか、花子さん‥‥?」
「フランチェスカです。‥‥‥‥‥‥あの」
「は、はい‥‥」
「それ‥‥伸びますよ」
「伸びる?」
彼女の視線の先にあるのは、オレの前にある、お湯を入れてフタを閉じていた納豆ラーメンの姿が。
そのラーメンを見て、花子はどこかうずうずとした様子で声を発した。
「さっきから、それ、どんな味がするのか気になっていたんです。このフランチェスカさんに少し分けてくれても良いのですよ、青き瞳の者よ」
「‥‥‥‥‥‥そ、それくらいなら、はい、良いですよ」
な、何だ、ラーメンを睨んでいたのか‥‥。
何かすんごい眼力で睨んできたから、てっきりオレの正体がバレてしまったのかと思って焦ったぜ‥‥。
オレはその後、穂乃果、花子とも無事にレインを交換し、軽く雑談を交わした。
そしてゴーンゴーンと正午の終わりの鐘の音と共に、昼食会はお開きとなる。
ちなみに花子さん曰く、納豆ラーメンは『美味』、だったらしい。
オレはと言うと、かなり微妙でした‥‥ただただ臭いが凄まじかっただけのラーメンでした、はい‥‥。
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