元天才子役の男子高校生、女装をして、女優科高校に入学する。 

三日月猫@剣聖メイド2巻6月25日発売!

プロローグ 一週間後の話

 

 春。桜が咲き誇り、新生活が始まる季節。


 暖かな陽光に目を細めていると、真横を、キャッキャッウフフと楽し気に会話している女子高生たちが通り過ぎて行った。


 そんな彼女たちが校門に入って行くのを見送った後、オレは、目の前に聳え立つ城のような巨大な建造物を仰ぎ見る。


 「―――ここが、私立、花ノ宮女学院高等学校、か」


 この高校は、大手芸能プロダクションが直営している学校で、女優科・アイドル科・声優科といった芸能科専攻コースには、将来有望な芸能人の卵たちが多く在籍している。


 県外から多くの美少女が集まることから、地域周辺では「お姫様学校プリンセススクール」なんて名前で呼ばれていたりもする。


 まぁ、近辺の男子高校生にとっては、この学校に通う煌びやかな彼女たちはけっして触れることができない、ショーケースに並んでいる華やかなお人形‥‥といったところだろうか。


 オレのような彼女いない歴=年齢の男子校生徒には、こんな場所、絶対に縁の無い場所だろう。


「お姉さま! おはようございます!」


「今日も麗しい御姿を拝見できて嬉しい限りです、お姉さま!」


 そんなお姫様学校を眺めていると、ふいに背後から挨拶される。


 振り返ると、そこにはキラキラと目を輝かせている女子生徒二人の姿があった。


 オレはぎこちない笑顔を作り、声を掛けてきた女学生二人にペコリと会釈し、挨拶を返す。


 「‥‥おはよう、ございます」

 

 すると彼女たち花ノ宮の女学生たちはキャーッと、黄色い声を上げて、校門を潜って行くのであった

 

 オレはそんな女生徒たちの背中を見つめ、ハハハと、乾いた笑い声を上げる。


「‥‥絶対に縁の無い場所‥‥だったはずなのだけれどな。」

 

 そう、オレは何故か、今、この高校の校門の前に立っている。

 

 それも、この学園の制服を着て、プラチナブロンドのウィッグを被り、女装をしながら、だ。

 

 どうしてこんな状況になったかだって? ハハハッ、そんなもんこっちが聞きてぇよ!


 何でオレは、こんな情けない恰好をして、このキャッキャッウフフと女生徒たちが闊歩するお花の匂いがするお嬢様学校に通わなきゃならないんですか!?

 

 オレ、見た目が白人っぽいハーフなだけであって、中身はごくごく普通のどこにでもいる男子高校生ですよ? 

 

 成績がオール平均点の目立ったものがないただの童貞野郎なのに、何で? 何でこんなところにオレはにいるの? 

 

 本当に意味が分からねぇよ、こんの‥‥ちくしょーめぇッ(総統閣下)!!!!!


「フフフッ、思ったよりも様になっているじゃない、ねぇ、お姉さま‥‥?」


 頭を抱えてしゃがみ込んでいると、いつの間にか目の前に、腰まで伸びた長い黒髪の美少女が立っていた。


 彼女は紅い瞳を細めると、緑色の口紅が塗られた口元に手を当て、嗜虐的な笑みを浮かべる。


「もともと貴方は綺麗な顔立ちではあったけど‥‥まさか、女装ひとつでここまで化けるとは思わなかったわ。今の貴女は間違いなく、この学園に通う一女子生徒ね」


「うるせぇ!! こんな状況になったのも全部お前のせいだろうが!! お前のせいで、オレは、オレはなぁ!!」


「あら? そんな乱暴な言葉遣いをしても良いのかしら? あの写真、今すぐネットにバラまいてしまっても別に良いのよ?」


「‥‥すいません、何でもないッス。許してください」


「素直でよろしい。まぁ、悪いようにはしないわ。私、これでも貴方を気に入っているもの。だから、むやみやたらに斬り捨てたりなんかしないわ」


「へいへい。せいぜいあんたの犬にでもなって、無様にワンワンと吠えてやるさ。ただの学生のオレにできるのなんて、それくらいしかないのだからな」


「ただの学生‥‥ねぇ」


「あ? なんだよ」


「いいえ、何でもないわ。それじゃあ‥‥行きましょうか」


「あぁ」


 オレと黒髪の美少女は、同時に一歩踏み出し、学園内へと足を踏み入れる。


 これから始まる、学園生活の一年間。


 オレは、花ノ宮女学院女優科専攻の一年生 「如月 楓きさらぎ かえで」として生きていくことになる。


 女優科、というところが、何ともまぁ複雑な想いがある点だが‥‥仕方がない。


 愛する妹のためにも、オレは女装し、隣に立つこの悪女と約束した任務を成功させる。


 それが、こいつ、日本屈指の大金持ちである花ノ宮財閥のご令嬢―――花ノ宮 香恋との契約だからだ。

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