第34話

 それから数日たち、ヘスティアがやってきた。


「で、どうなにかわかった?」


「......ギエンレルトはなにもしゃべらないのです。 その上ブレイルドはかなり強弁に返還を求めてきている。 それに反発した貴族と重臣たちの多くが主戦論へと傾きつつあり危険です」


「それって戦争始まっちゃうじゃん!」


「何とか王が抑えていますが、向こうが先に仕掛けてくる可能性もあり、みなピリピリしていています」


「大変なことに......」


 ペイスは不安そうに呟くと、シアリーズは聞いた。


「ヘスティアどの、戦争を止める手だてはないの」


「まずロキュプスクを見つけて捕え、ブレイルドがなにかを企んでいるという証拠を見つけられれば、ブレイルドの正統性を崩しえるかも知れないですが......」


「でもどこにいったかわからないんじゃ」


「それが、どうやら捕まえた錬金術師たちの話では、別の場所に工房があるらしいのです。 しかし、調べようにもその場所はブレイドルとの国境近く、緊迫したこの状況で兵士や騎士団を動かせないのです」


「なら私たちが捕まえにいくよ」


「やってくれますかヒカリ」


 すまなさそうに、ヘスティアがいった。


「戦争なんて起こさせるわけにいかないからね」


 私たちはロキュプスクを追うため工房へ向かうことにした。


 

「ここ? こんな山のなかにいるの?」


「ヘスティアさまの話だと、昔見つけられた古代遺跡で、ダンジョン化してなかったので放置されていたようです」


 ペイスがそういった。


「ほら、あそこ」


 山のと中腹に洞窟のような場所が見えた。


 中へと慎重に進む。 石の柱と石畳のようなものがある以外は、中はなんの変哲もない狭いただの洞窟だった。 


「特に変わったところはないですね。 まあ、強いていえば人工的に作った柱や床あるだけ、あとはなにもないですね」


 ムーサは杖を握りしめ、周囲をみている。


「どこかから...... 魔力を感じる」


「本当ヘカテー、でも奥には壁があるだけだけど」


 シアリーズが壁までいきさわった。


「何か隠しているのかしら...... あらこれ」


 そういい何かをさわると、地響きがして、石の床に下に降りる階段が現れた。


「隠し階段か......」


 私たちは長い階段をおり地下へと進む。 そこは洞窟から一変し、仄かに明るい石壁が続く通路のようだった。


「これは旧魔法文明のもののようですね」


 ムーサは壁を調べながらいった。


「はやく先にいこう」


 その通路をでると、天井の高い部屋へとでた。 そこは実験道具のようなものがおかれ、奥には台のようなものがおかれていて、そこに人影がみえた。


「ロキュプスク!!」


 それはロキュプスク本人だった。


「ここまで......」


「あなたは一体何をしようとしてる!」


「なにも知らぬ愚か者たちよ...... われらの邪魔はさせぬ」


 そういうと腰から何か筒を出した。


「あれは!? 魔法銃!!」


 ロキュプスクは魔法銃を放つ、巨大な炎と水球がこちらに向かってくる。 私もガンブレードを撃つと、魔法は相殺され中央で弾けた。


「くっ...... なぜ貴様がその銃を......」


「こっちのセリフ!! みんな攻撃を!」


 私とシアリーズ、カンヴァルが前にでて剣で攻撃する。 ロキュプスクはおいていた巨大な鎌ををふり三人をはじきとばした。


「なっ! 固い!!」 


「それだけじゃないわ! なんなのこの力!」


「ああ、三人も吹きとばすなんて!」


 ロキュプスクは表情をかえず銃を構える。 


「アクアスプラッシュ!」


「エアロショット!」


「ストーンブリッツ!」


 ペイス、ムーサ、ヘカテーが放った大量の水弾と空気弾そして石のつぶてが、ロキュプスクをとらえて吹き飛ばす。


「やった!」


「いや!」


 シアリーズが制す。 倒れたロキュプスクはゆっくり立ち上がった。


「嘘だろ! 完全に魔法が当たったぞ!」


「魔法耐性...... でもそんな魔法使ってないわ」


「まずい!!」


 ロキュプスクは魔法銃を放つ、その黒い魔法は周囲を粉々にするのが見えた。


「二人とも離れて!!」


 私たちが離れると、ロキュプスクの魔法銃から黒い弾が放たれ地面を粉々にした。


「なんだあれは!?」


「あんなもの魔法耐性が上がっても食らえば死ぬわ! どうするヒカリ!」


 シアリーズがそう叫ぶ。


(この人強い! いや強いなんてもんじゃない! このままじゃ全滅、かといって殺せば情報も......)


 ロキュプスクは突進して巨大な鎌を振るってきた。 

 

(しまった! 余計な考えで!)


 その時そばを影が通り、ロキュプスクはそれを鎌で防いだ。 


「たあ!!」


 さらに矢が射られロキュプスクが防ぐ。 後ろをみるとアルテが弓を向けそこにいた。


「アルテ!?」


 ロキュプスクは銃をアルテに向けた。


 ガキィ!!


 それを槍で弾いたのはトライデンだった。


「み、みなさん、かまいません! 父をロキュプスクを切ってください!」


「トライデン...... わかった! みんな攻撃を!」


 私たちはそれぞれ攻撃を加える。 私は予知で攻撃をみなに伝え隙を攻撃する。


(よし! ここ!!)


 私の剣でロキュプスクの鎌を弾いた。


「私が!!」


 そういってトライデンはロキュプスクの首を狙い槍でないだ。


 キィン


 首に当たった槍の切っ先が折れて地面に刺さる。 ロキュプスクの首をみると、肌の下に銀色の金属のようなものがみえた。


「なっ! これ人じゃない! なら!」


 私は近距離から首にガンブレードを突きつけ放った。

  

「ライトニングブラスター」


「ガァァアア!!」


 私の放った雷光はロキュプスクの首を飛ばし、その首は地面を転がる。 ロキュプスクと思われていたものは地面に両ひざをついたまま動かなくなった。


「これ...... 父様のつくったゴーレム」


 近づいてきたヘカテーがいうと、首がとれた体からイコルを取り出した。 

  

「じゃあ本物は......」


「父上はここです......」


 奥の台のそばでトライデンはいった。 近づいてみると服をきているが白骨化している遺体があった。


「これがロキュプスク......」


「ええ、家の紋章の服を着ていますし、この指輪は母の形見......」


「じゃあ、もうとっくに......」


 ペイスがことばにつまる。


「しかし、何か外傷があるわけではなさそうだ」


 カンヴァルのいうとおり、確かに遺体には損傷はみられない。


「おそらく、病死だとおもいます。 父は体をやんでいましたから、ある時から、急に動けるようになったのは不思議に思っていました......」


 トライデンは少し目を潤ませてそばに座る。


「どういうこと......」


「これみたいね......」


 シアリーズは机にあった本を持ってきた。


「それは......」


「どうやら日記のようね」


 私たちは読んでみる。


『来るべき日のため対応策をとらねばならない』


(来るべき日、対応策......)


『巨額の資金をつぎ込んだかいあって、ブレイルドとの遺跡の共同調査で、かつての武具を手に入れる。 少し光明が見えた』


(武具って魔法銃かな)


『私はもう長くない...... はやく進めねば、かつての魔法文明と同じことがおこるだろう。 しかし国に伝えたとて動かすのは難しい......

やはり私が進めねばならない』


(かつての魔法文明......)

 

『この未曾有の危機を避けるためには不正もして清濁のみこんで金を得る必要がある。 ブルジュラや他の大商人に力を与えてでも...... 病の私はそれまでいきてはいられまい...... それに私の代わりをするゴーレムも何とか手に入れた』   


 日記にはそうかかれていた。


(ブルジュラのいってた偉い方ってロキュプスクだったのか...... それほどまでしてお金を集めて何を......)


「これだけだと、何なのかわからないけど、どうやらただ何か悪意があってやっていたわけてはなさそうだね」


「そのようです......」


 トライデンは少しだけ安心したようだった。


「でもアルテ急にどうしたのこんなところへ」


「ヘスティアからこの事を聞いて、いてもたってもいられず、軟禁されていたトライデンに聞いてここにきたんです」


「ずいぶん無茶だよ」


「先生の弟子ですから」


 そういって静かに笑った。

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