第33話

 私たちの馬車はヘカテーの両親にゴーレムを作らせたという男のホロのついた馬車を追っていた。


「それでヘカテー、あれが本当にあなたの両親にゴーレムを作らせた人なの?」


「うん...... 断ったけど何度も頼みにきた...... それで一度だけ作って渡したことを父様は後悔していた...... あんなものを作るんじゃなかったって」


 そう目を伏せていった。


「そう、ありがとう」


(ゴーレムを作らせた、なんのために、それにロキュプスクとのつながり...... 何かあるの)


「お坊ちゃん、この先は国境だけどどうするね。 越えると料金がかなり高くなるぞ」


「誰が坊っちゃんだ! ってそうだった。 ああ構わない。 いってくれ」


 私たちは国境をこえブレイルド共和国へと入国した。


「国境をこえるなんて、こっちの国の人なのかな......」


「わからない。 ただ身なりは普通だった......」


 ヘカテーはそういった。


 前を走っていた馬車がとまり、小太りの男がおりる。


「あっ、おじさんここで!」


 私たちもすぐおり男を追う。


 男は周囲を警戒しているように確認すると足早にあるく。


(警戒してるな...... どうしよう、このスピードでついて歩いてるとさすがにばれる) 


 そう思っているとヘカテーが袖をつかむ。


「ヒカリ、私あの人の魔力覚えた......」


「そうか、ならその魔力をたどれば、でかしたヘカテー」


 かなり離れてヘカテーの魔力便りに男を追う。 男は色んな路地をいったりきたりしている。


(これ追跡されてることを想定してる?)


 私はその場で立ち止まり、近くの店で買い物をしてごまかす。


 そして追跡を続けた。

 

「その角で止まった......」


 ヘカテーにいわれて見ると、ある大きな屋敷があった。 近くを歩くひとをみかける。


「なんかずいぶん大きなお屋敷ばかりですね。 僕の国より豊かな人が多いのかな」


 キョロキョロと周りをみながらそう聞いた。

 

「ああ、ここらは貴族さまのお屋敷ばかりだからね」


 あまり興味はなさそうに話した。


「そうなんですか、あのお屋敷なんかものすごいじゃないですか」


 小太りの男がはいったであろう屋敷を指差す。


「あれはギエンレルト伯爵の屋敷さ」


 眉を潜めてそう男の人はいった。


「なにか問題でも?」


「いや、あまり大きな声じゃいえないがね。 共和国の重臣だが、何を考えているかわからん得体の知れない人だよ」


(共和国の重臣......)


「でもさっきはいられた人は柔和なそうな小太りの人でしたが......」


「ああ、見た目はな」


(やはりあの男がギエンレルトか......)


「あの人らのせいで重い税をかけられるからたまったもんじゃない」

 

 そう男は吐き捨てた。


「最近、この国も軍備を増強してるらしいですからね。 まあどこのの国もそうですよ。 困りますね」


「そうだよ。 庶民のことなんて考えちゃいない。 しかも他国を併合しちまうから、その国の難民やら犯罪者やらが増えて暴れてる。 抗議でもしようものならすぐ牢やいきだ。 あんたらも気を付けなよ」


 そういう男の人は視線をはずした。 先に巡回してるらしい兵士のすがたがある。 


「ですね。 じゃあ離れて観光します」


 そういうと手を振ってくれる。 


(共和国の重臣とロキュプスクがつながってる)


 私たちは急いでバーレルへと戻った。

 

 

「ロキュプスクどのがギエンレルトどのと......」


 ヘスティアは眉間にシワを寄せた。


「知ってるのヘスティア」


 私は帰ってすぐ、アズワルドのギルドでみんなを集めていた。


「ええ、ギエンレルトどのはブレイルドの軍事担当の大臣です。 かなりきな臭い話しがありますね」


「ということは、裏のつながりがあるってことね」


 私がいうと、シアリーズは首をふった。


「ブレイルドとも国交はあるし、会ってるだけでは追及できないわよ。 ごまかされて終わりね」


「でも、それほど警戒してまで、なぜ直接会うのでしょうか?」


 ペイスがそう首をかしげた。


「そこだ。 それはわざわざ人を介せず直接会う必要があったということ、それをつかめれば動かぬ証拠となるな」

 

 カンヴァルがそういうとペイスは考えている。


「でも話の内容はわからないですね」


「でも、ロキュプスクが何かギエンレルトに渡したみたいなの。 あれを手に入れれば証拠になるかも」


「しかし、渡したものがただの金品なんかだと、我々が罪にとわれてしまう」


 ヘスティアが厳しい顔でいう。


「ただのお金を直接渡さないんじゃない」


 シアリーズはそういった。


「......だったらやりようはいくらでもあるね」


 私が笑いながらいうと、なぜかみんなは大きなため息をついた。



「もうすぐ来ます!」


 ペイスの声と馬車が近づく音がする。 霧が立ち込めるなか、私は道の真ん中にに倒れていた。


「とまれ! ドウドウ!」


 馬車が止まった。 馬車から人が降りてくる。


「おいお前大丈夫か!」

 

 馬車の運転手が声をかけてくる。 


「ええ、モンスターに襲われて......」


「ええ!? ここら辺のモンスターはあらかたいなくなったはず...... あれ、なんだ...... 眠い」


 運転手は倒れる。 


「どうしたのだ!」


 ギエンレルトが降りてきた。


「あなたの持ってるもの渡してくれる」


 私が立ち上がり剣を抜いた。


「貴様盗賊か!! だが!」  


 その時馬車の荷台から、全身黒ずくめの鎧をきたものたちが十人ほど降りて剣を抜く。


(やっぱりいたか...... 眠りの魔法も効いてない。 魔法耐性でもかけてるの)


 後ろから馬車が来て顔を隠したシアリーズとヘスティアたちが降りる。


「なっ! 貴様らただの盗賊ではないのか!」


 乱戦となった。 騎士らしき敵はかなりの強さで剣も魔法も使う。


「かなりやるね。 正規兵か。 でもうちの新人ぐらいだ。 私たちなら」


 私たちは瞬く間に叩き伏せた。


「そ、そんな、我が国の精鋭騎士たちだぞ! そんな簡単に倒されるなんて!」


 ギエンレルトはおののいている。


(これが精鋭、シアリーズたちはやっぱりかなり強かったんだ)


 私は逃げようとするギエンレルトを捕まえ、抱えた箱を奪い取る。


「やめろ! それは!」


「うっさい」


 当て身で気絶した。


「一応その人貴族よ」


 シアリーズが笑顔でいう。


「うん、でも、貴族なら何人かぶちのめしてる」 


「それどころかなん棟か、屋敷も崩壊させてますしね」


 ペイスがそういうと、シアリーズはあきれている。


 

 取りあえず箱の中身を確認する。 中には小さな球体が入っていた。


「なんでしょうか?」


「これは、ま、まずい! 他国の貴族と騎士から奪い取ったのに、なんでもなかったら...... よしペイスみんな逃げるよ!」


「無理だぞ。 ギルドごと逃げるのは」


 カンヴァルがあきれている。


「これ...... イコルだ」


 眠りの魔法を使ってもらうために連れてきたムーサが玉をみてそういう。 


「えっ? イコルってモンスターに入ってるあれ!?」


「うん、でもこれ、ものすごい魔力を圧縮している。 それこそコアモンスター何体分も......」 


 ヘカテーは驚いている。


「どういうこと? そんなものなんでロキュプスクがギエンレルトにこんなもの渡したの?」


「わかりませんが、魔法アイテムの正規の貿易以外は違法です。 これでギエンレルトを拘束できます」


 ヘスティアはそういう。


「よかったわね。 国外逃亡しないですみそうよ」


 そうシアリーズが微笑む。


 私たちは、バールレ王国へと戻った。



「それでロキュプスクはいついなくなったの」


「......執事たちの話によると兵士たちが屋敷に来る前に、でていったそうです。 僕は寝ていましたので、兵士たちが屋敷にはいる音で目が覚めたときにはもう......」


 そうトライデンは肩を落としていった。


「それで何かわかったことは」


「......別宅の地下に工房のようなものがあり、そこで働いていた錬金術師たちが捕縛されました」


「錬金術師が、この玉を作ってたの」


「錬金術師たちはロキュプスクにいわれて、魔力の玉の複製を作っていたそうです。 元となるものはロキュプスクが持っていったらしいですが」


 ヘスティアがそういった。


「これ...... 父様のゴーレムにはいっていた......」


 そう机の玉をみてヘカテーはいった。


「なるほど、ヘカテーの両親にこれを作らせたのか...... てことはゴーレムを作っていたのかも」


「兵士としてかな」


 カンヴァルはそういう。 


「可能性はありますが、わかりませんね。 なにかわかったら伝えましょう」


「ねえ、トライデンのこと......」


「わかっています。 彼に危害が及ばないようこちらで対処します」


 そういってヘスティアたちは帰っていった。  

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