第22話

「でも、二人がどこにいるかわかるの」


「おそらく、郊外にあるブルジュラ一家の別邸ね」


 私とシアリーズは町を走り、郊外にある屋敷がみえる場所へきた。  その屋敷のまわりには複数の武器をもった男たちがうろついている。


「かなりの数だね。 倒すのはわけないけど......」


「おそらく人質にされているからてしょうね。 どうせここから手を引けというだけでしょう。 ヒカリだったわね。 あなたは帰りなさい」


「アルテもヒュアデも私の友達なの、帰れるわけないでしょ」


「しかたないわね......」


 二人で堂々と屋敷に近づく、男たちがこちらに近づき回りを囲んだ。


「きたかシアリーズ...... 他の奴らは」


「私たちに何かあれば、いやでも姿を現すわよ」

 

「ちっ、それでそっちのガキは.....」


「ヒュアデとアルテの友だちよ」


「まあいい、お頭が待っているこい。 まず武装をといてからだ」


 そういって武器と防具を渡し、男たちに囲まれながら、屋敷に向かった。

 

 屋敷はモンスターの剥製や金のつぼや鎧など、悪趣味な調度品が並ぶ。 


(典型的な成金だ)


 ひとつのおおきな部屋にはいると、目の下にくまがある小太りの男がソファーにふんぞり返って座っている。 回りに人相の悪い男たちが20人ほど部屋の壁にたっている。


「おねーちゃん!」


「先生!」


 そのお頭とみられる小太りの男の後ろにヒュアデとアルテが男たちに後ろ手にされて首にナイフを突きつけられているいる。


「二人とも待っててね」


 私が答えると、小太りの男はにやついた。


「お前は誰だ? 私が用があるのはシアリーズなのだがな」


「私はヒカリ、この子たちの友達よ」


「ヒカリ.... どこかで聞いたな」


「お頭! こいつライトニングバーサーカーですぜ! 貴族の家を吹き飛ばしたって噂の......」


 そう耳元で男が小太りの男に伝えた。


「ああ、あの頭のおかしいってやつか」


「誰が頭がおかしいって!」


「どうってことはない...... 噂なんてのはあてにならん。 まあいい、シアリーズあんたに話があるんだ」


「なにかしら」


「わかっていると思うが、我々の邪魔をしてもらいたくないんだよ」


「我々の邪魔...... ああ、あの弱いものいじめのことね」


「......口の聞き方に気を付けろ女......」


 ブルジュラが凄んだ。


「まあいい、我々はあいつらに仕事を与えて助けているんだ」 


「助ける...... 脅して危険な仕事、手伝わせたりしてることのこと?」


 私がいうと、ブルジュラはにやつく。


「お嬢さん、この世界には何かを得るには何かを失わなければならないそういう決まりがある。 あいつらがあそこで生きていけるのは、我々が仕事を斡旋しているからだ。 そのままならどうなる、金も得られず食うこともできない、当然その見返りは必要だろう」


「仲介料でお金をほとんど奪って、他の仲介業者を関わらせないようにしてるのに、何が助けるなの」


「ならばお前がやればいい。 できるのならな」


「ええ、できるよ」


「なに!?」


「私は冒険者ギルドを設立したからね。 仲介業もできる」


「ちっ! ならばそれもやめてもらおう。 こいつら、いやスラムの他の住人どもも無事に生活させたければな」


(こいつ! 落ち着け、倒すのは簡単だけど、それじゃいたちごっこだし...... まだかな)


「それで私たちが、あなたたちに手出ししなければいいということかしら」


 シアリーズがそういうと、ブルジュラはニヤリと笑う。


「そうだ。 その上この国から出ていってもらおう。 でなければ信用できんからな」


「......わかったわ。 その二人を返してくれればね」


「ずいぶん、ものわかりがいいな」


 そうにやつくと、ブルジュラがアゴをしゃくり、二人が離された。


「そっちのガキもいいな」


 勝ち誇った顔でこちらにそういってきた。


「えっ? やだけど」


「なっ!」


「それはシアリーズとの取引でしょ、私は別よ」


「ちょっとヒカリ」


 シアリーズが二人を抱える。


「なめくさって! わからせてやれ!」


 男たちが木の剣を構え一斉に飛びかかってきた。


「シアリーズは二人を守ってて」


(頭きたから、本気でやってやる。 魔法銃のように......)


 私は魔力をねると、思いっきり放った。


「サンダーボルト」


 放たれた雷の渦は、部屋をめちゃくちゃにしながら男たちを吹き飛ばした。


「なっ! バカなっ!!? お前たち、早くあいつを取り押さえろ!」


 ブルジュラがソファーから転げ落ち、男たちに命令するが、男たちは怯えて頭を抱え縮こまっている。


「なにして......」


「あんたがかかってきなさいよ」


 私がブルジュラの前にたつ。


「こ、こんなことをしていいと思っているのか! 必ず後悔させるぞ!」       


「もうめんどーだから全員埋めちゃおう...... それなら、報復なんてできないもんね」


「や、やめろ!! わかっているのか! 私はこの国と繋がりがあるのだ! もしわたしになにかあれば、その方が黙ってはいないぞ!」


 ブルジュラがそう叫んだ。


(この反応、嘘じゃない。 その方......)


「誰なの。 その方って」


「ふん、きさまらなぞ。 その方の命でいつでもその首が飛ぶ」 


「ふーん」 


「ははっ、わかったか!」

 

「ヒカリ、それなら私がやるわ。 どうせこの国から出ないといけないし、あなたが手を汚さなくてもいいわ......」


 そういうとシアリーズは右手をブルジュラに向ける。


「や、やめろ!! シアリーズお前たちがこのまま去っても、他のものたちが狙われるのだからな!」


「くっ......」


 シアリーズは右手を下げた。


「ぶわぁっはは、そうだ! おとなしくしていろ! 所詮この世は、強者が支配する! お前たちは抗ったとて無駄だ!」


 ブルジュラはその下卑た笑い声を響かせた。


「うん、そうだね。 じゃあお前も抗っても無駄だね」


「なんだと? どういう意味だ」


「あの子、アルテってこの国の王女さまだよ」 


「へ? 何をいって...... そんなわけがあるか、姫がスラムの住人と繋がりなどあるわけがないわ!」


「いや、ある」


 ドアが倒されると、そこにヘスティアと騎士団がいた。


「なっ! 騎士団!」


「ブルジュラ、その方は紛れもなく我が国の王女アルテ、ルナミスさまです」


「なっ、なっ、なっ、そんな!!!」


「王女を捕らえるなど、その暴挙許されるものではない! 捕らえなさい!」


「くっ!」


 ブルジュラは唇をかむと、懐から丸いなにかを取り出して投げつける。 それは紫の煙を吹き出した。


「これは!?」


「魔法アイテム! 逃げるつもりか!」


 周囲の景色が歪む。 


「幻惑!? ヘスティア、シアリーズ、みんな! 姿勢を低くしていて!」 


 私は魔力を両手に込めた。


「ライトニングストーム!!」


 私の放った雷の竜巻は周囲の煙とすべてを吹き飛ばした。


「うあぁぁぁあ!!!」


 そう叫びながらブルジュラは空から地面に落ちてきた。


「逃がさない!」


 ヘスティアがブルジュラをとらえた。 ほとんど吹き飛んだ屋敷の中、騎士団はブルジュラ一家のものたちを捕縛していった。 


「先生!!」


「おねーちゃん!」


「アルテ、ヒュアデ!」

 

 アルテとヒュアデが飛び付いてきた。


「平気だった」


「武器を取り上げられて、なにもできませんでした......」


 アルテは落ち込んだようにいった。


「しょうがないよお嬢。 わたしを助けるためだったんだもの」


 ヒュアデは泣きながらそういう。


「そう。 でもアルテがいてくれたお陰で、こいつらをみんな捕まえられたから、これでスラムの人も助けられるよ」


「王女という立場だっただけですけど......」


「前にいったでしょ。 それもアルテの武器、使えるものはなんでも使って目的を果たせばいいんだって」


「そう...... ですね。 確かに目的のひとつは果たしました」


 そうつぶやいた。


「ひとつ?」


「ええ、王女としてこのスラムをなんとかしたかったんです。 でもあたしの話しは家臣たちには相手にされない...... 王女としての価値がないとどうしようもなかった」


(この子が王にこだわったのは、自分のためにじゃなくて、他人のために......か)


「アルテいい子!!」


「い、いえ、は、はい! あ、あの!」


 私が抱きしめると、アルテは顔を真っ赤にしてじたばたする。


「ふぅ、どうやら間に合ったようですね」


 ヘスティアがそういって近づいてくる。


「うん、ありがと、ヘスティア」


「ムーサが突然きたときは驚いたぞ」


「ごめん、ごめん言づてを頼んでおいたの。 でもブルジュラがいってた偉い方って......」


「後で聞き出しておきます...... アルテさま、今日のところは私とお帰りください」


「わかった...... シアリーズどのも今日はすまなかった」


 そう私たちに頭を下げアルテはヘスティアたちと去っていった。


「......まさか姫君と知り合いだとはな」


「まあね。 でシアリーズ私たちに力を貸してくれる?」


「......そうね。 前にもいったが私たちが目的を果たし、生き残れたらね......」


 そう厳しい眼差しでシアリーズは、日が落ちようとする遠くの空をみていった。

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