第14話

「ヘスティア様がこちらでお待ちです」


 広い邸宅を歩き、ひとつの大きな部屋の前でとまると、執事のサイデルさんがそういった。 扉を開けると青いドレスの淑女がそこにいた。


「ヒカリどの!」 


「ん? 誰?」


「私です、私! わからないのですか?」 


「えっ? ヘスティアさん!?」


 ドレスでどこからみても清楚なお嬢様のヘスティアさんがいた。


(はえー、メイクと服でこんなにイメージが変わるのね。 私も変わるのかな?)


「それでどういう用件で来られたのですか」


 そうしげしげみていると、ヘスティアさんが聞いてきた。


「そうだ!」


 私はここまでの話を詳細にした。


「そのような暴挙を!」


 拳を握り怒りを噛み殺しているようだ。


「それで何とか依頼を復活させたいの! なんとかならないかな」


「......申し訳ない。 あのギルドを統括しているのは、大貴族のロキュプスクどの。 手を出そうにもなにもできないのです......」


「そんな大物が関わってたのか......」


「元々魔法学者で錬金術の幅広い知識を武器に大貴族家の令嬢と婚姻を結び、今の地位となった切れ者です」


「なんてこったー! おわった!」


 私は頭をかかえた。


「すみません...... 私のせいでもあるから何かしてあげたいのだけれど......」


「まあ、仕方ないです。 こうなったら勝手にダンジョンとかモンスターを倒して商業ギルドに嫌がらせを行おうと思います」


「そんなことをしたら、今度こそ脱会させられますよ」


 あきれたようにいった。


「でもくやしい!! 何かないかな! そうだ! ギルドって他にないんですか!」


「商業ギルドはひとつしかないですね。 確か元々、貴族が商人から頼まれて作ったらしいので......」


「元々作った...... そうだ!」


 私は思いつき立ち上がった。


「なら、新しいギルドを立ち上げればいいんだ!」


「えっ!? だが、どうやって!」


「何とかしたかったんですよね」


 私がニヤリと笑うと、ヘスティアさんはたじろぐ。


「ま、まさか私に! ダメです! ダメです! それはダメです!」


「ダメだということは、なにか方法はあるんじゃないですか」


 私が詰め寄ると、しばらく黙っていたが、ヘスティアさんは大きなため息をついた。


「......やはり知らなかったのですか、多分ペイスどのが黙っていたのですね。 確かに、方法があるにはあります」


「ペイスが黙ってた? まあいいか、それ! 教えて!」


「......しかしほぼ不可能に近いですよ。 実はコアモンスターの中には長い間驚異となっている【魔獣】と呼ばれる強力なモンスターがいるのです」


「【魔獣】......」


「それは国が指定しており【魔獣】を討伐したものは、何でも報奨をとらせると言う王命があるのです」


「じゃあ、そいつを倒せればギルドが設立できるのね!」


「ええ、だが、ムリです! その魔獣に騎士団が向かい壊滅させられたんです」


「あいつらなら大したことないでしょ」


「そうではありません。 かつての騎士団です。 およそ百年前、その時の騎士団は勇猛でいくつものダンジョンを制した猛者たちだったのですが、それが百名一気に失った。 それ以降魔獣に手出しするものはいないのですよ」


「なるほど...... それ程の人たちでも打ち倒せなかったモンスターか......」 


「そういうことだから、あきらめ......」


「むう、そんなに強いなら、私とペイス、カンヴァルに、ヘスティアさんもきてくれますよね。 ムーサちゃんはさすがにだめよね......」 


「いくつもりなのですか......」


 唖然とした顔でこちらをみている。


「ええ! だってくやしいじゃないですか! せっかくここまでがんばったのに! それになんか腹立つんですよね。 貴族だか何たか知んないけど、そんな勝手にルールつくって従わせようなんて!」


「ま、まあそうですが...... いやそうですね。 確かに腹立たしい。 どうせ除名されて家に従う命なら、あなた方に託してもよいかもしれない」


 そういってヘスティアさんは立ち上がる。


「そうです! 私たちでやりましょう! ではさっそく装備をブラミスに発注しなくちゃ! いっそがしくなるぞ!」


 私はヘスティアさんと別れて屋敷をでた。


 

 ヘスティアさんと話をして一ヶ月あと、ルデングル西にある巨大な遺跡前に私達七人はやってきていた。


「ここだね。 みんな準備はいい!」


「こうなるからヒカリには伝えなかったのに......」


「あはは、そうだねペイス、この子がそれを知って動かないわけないしね」


「笑い事じゃないですカンヴァル! ヒカリはムーサさんまでつれてきて」


「大丈夫だよ。 ムーサはこの一ヶ月、三つ潰したダンジョンに一緒に行ったんだから、今は魔法もいくつか使えるしね。 ねっムーサ」


「は、はい、わ、私も何かお役に立てれば! この【魔獣】と遺跡の話、歴史書で読みましたから!」


 そう私達はこの一ヶ月、訓練とこの遺跡の情報を集めた。


「すみませんペイスどの、私がいったばかりに...... それよりオノテーとレイアは本当に共に来るつもりですか」


 ヘスティアがそういう。


「もちろんです! ヘスティアさま! 今日のために訓練を積んでいたのです!」


「ええ私達はあなたの部下であることが誇り、もはや騎士団には何の未練もありません」


 オノテーとレイアはヘスティアを追い押し掛けてきたのだった。


「そうですか.....」


「なに辛気くさい顔してるのよヘスティア! 絶対に生きてかえるんだからそんな顔しない!」


 私がいうとヘスティアは覚悟を決めたようにつぶっていた目を開けた。


「そうですねヒカリ、今さら迷っても仕方ないですね」


「ええ、いくわよ!」


 私達は遺跡の中へと入る。 次々とモンスターがやってくるそれらを倒しながら前へと進む。 


「やはり、モンスターがでてきたね。 外であれだけ倒したのに」


「ですが、大丈夫ですか、何体も外にでていきましたが」


「大丈夫ですペイス、ここから先にあの巨大な石壁があったでしょう。 あそこの上からバリスタや投石器でモンスターの侵攻を阻んでいるのです」


「ペイスさん、ヘスティアさまがいうように、百年以上あの壁を破られたことはないです」


 ムーサがそういう。


「それにしても、ヘスティアさま、この剣や鎧、とても軽い上にこの強さ! 我々の使っていた武具とはまるで違う!」


「ああ、それにこの体の強さ! 我々でもこの強いモンスターたちと渡り合える!」


 オノテーとレイアがそう興奮気味にいった。


「そう! それはこのカンヴァルが作った! ピュートーンから作った、スケイルメイルとスケイルシールド、メタルクラブから作ったゴーレムランスとゴーレムレイピアなんだからね!」


 カンヴァルは胸を張る。


「それにムーサとヘーラの身体強化、物理耐性、魔法耐性のオールストレングス、マテリアルディフェンス、マジックスクリーンをかけられてるからね。 これなら魔獣とも戦えるはず!」


 私がいうとみなうなづき笑顔になる。 二十階まで降り少しだけ休憩する。 ペイスが食事を振る舞っている。


「で、ムーサ、この後どこにいけばいい?」


「この先の分かれ道を右です」


「それにしてもムーサどのがいてくれて助かりますね」


「ええ、この遺跡の構造やモンスターを覚えていますからね」


 ヘスティアにペイスがそういうと、ムーサが首をふる。


「それは、昔ここに来た騎士団の人たちが魔法で情報を外に転送したからです。 それを写本したものを読んだだけです」


「でムーサ、ここが五十階からなる迷宮なんだけど、この先からトラップかあるんだよね」


「ええ、毒や麻痺、眠り、落とし穴、爆発、矢や魔法、スキル封印、強制転移...... 場所は覚えていますが、宝箱は不明なのでさわらないでください」


「くぅ、宝箱はダメなのか......」


 私は目の前に落ちている宝箱をみて落ち込んだ。


「今回の目的は魔獣です。 魔力も体力もできるだけ温存して望みたいですから」


 そうヘスティアはいう。 


「そうだぞ! 私だって欲しいモンスターの素材を泣く泣く置いてきてるんだからな」


 カンヴァルが不満げにいった。 


「しゃあない。 切りかえて先に進もう!」


 私たちはそれから三十階、四十階と下へと降りていく。

 

「うわっ!」


 カンヴァルが声をあげる。 そこには骨だけになった騎士の遺骨が落ちている。 


「ああ、また骸骨だね」


「ここに来るまでかなりの数をみましたね」


 私とペイスが話すとヘスティアがうなづく。


「トラップやモンスターの餌食となったのでしょう」


「確か五十階までたどり着いたのが百名中二十人あまりだったと、書かれていました。 そこで本は終わっています......」


 私たちにムーサがそういう。


「魔獣の正体はわからず......か、カンヴァルどのなにをしているのです?」


 ヘスティアは聞いた。


「この剣、魔法剣だな。 見てくれ」


 カンヴァルは折れた剣をムーサに渡した。 


「はい、えっと調べますね。 【鑑定】」


 ムーサは少し目を閉じ剣に触れる。


「これは炎の魔法を付与された剣です」


「ムーサどのはそんなこともできるのですか!?」


 ヘスティアたちは驚いている。


「そうムーサはダンジョン探索中に鑑定のスキルを手に入れたの」


「毎日夜まで色々調べていたからでしょうね」


 ペイスはムーサを優しげに見つめている。


「ちょっと剣を渡して」


 カンヴァルは剣を受けとると、折れた剣に手をかざしヘスティアの剣へと触れた。


「それは......」 


「カンヴァルは【魔性転移】のスキルを覚えていて、物質の魔法性質を他の物質に移しかえることができるんです」


 ペイスがいうと、ヘスティアたちがさらに驚いている。


「ほれ、剣に炎の魔法付与が移ったよ!」


「すごいですね!」


「ええ、元々普通の人たちですよね」 


「ああ、実戦だとこのぐらいの力を得るのか」


 ヘスティア、オノテー、レイアの三人はそう納得したかのようにうなづいている。


 そして五十階への階段の前にきた。


「よく、息ができるね」  


「空気孔と魔法なのでしょうね。 それでも少し呼吸がしづらい気もします」


 ひしゃびしと足元が濡れている。


「うわっ、ビックリした濡れてる!」


「ヒカリ、あなたがその穴から水を流せばいいんじゃないって言って、空気孔から、大量の水を流し込んだからですよ」


「そうか、あれか! ペイスが水の魔法を覚えたから、前に確認のために来たときモンスターを溺死させられるかと思って...... 大量に流し込んでみたやつか!」


「無茶苦茶なことを考えますね...... ペイスどのも大変ですね」

 

 ヘスティアが困ったようにいうと、ペイスは笑顔になる。


「もう慣れました」  

 

「よし!! 下に行くよ! みんな準備はいい!」


 みんなの反応をみて私たちは五十階へと降りた。

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