アザミちゃん

ぐり吉たま吉

第1話 スランプ

人間どもが行き交う横浜の交差点の信号機の上に、邪悪な笑みの女がいた…。


彼女の姿を見ることが出来たのなら、パーカーを羽織り、ミニスカートのまだうら若き少女の様に見えたであろう…。  



「はぁ…書けない…皆殺しの設定は難しい…」


彼女はニヤリと口角を上げ、男に向かって吐息を吐いた…。


吐いた吐息は茎と葉に小さく鋭いトゲがある血の色をしたアザミの花へと姿を変えた…。


アザミの花はゆらゆらフラフラと風に乗って飛んで行き、男の手に触れすぅーっと消えた…。


男は信号機を見上げ、彼女に向い手招きをした…。


「お久しぶりです。創造主様…」


彼女は男に頭を下げた…。


「アザミ…ちょっとついて来い…」


男は彼女へそう告げると、先にどんどんと歩いて行く…。


「待って下さい…主様…」


男は構わず先へ進み、公園のベンチへ腰掛けた…。


彼女は男の前でひざまずく…。


「いいから、横に座れ」


「お許しがでたのなら…」


彼女は男の隣へ、ベンチへ腰掛けた。


周りから見たら、男はひとりで座っている様見える…。


彼女の声も誰にも聞こえない…。


男は周りを見渡した…。


独り言を言う変な男と思われたく無かったからだ…。


誰もいないと確認し、男は彼女に話し掛ける。


「アザミ…お前、最近サボってるだろ?」


「いえ、そんなことは…」


「言い訳するな!じゃ、なんで次の話が書けないんだよ!」


「それは、主様がスランプなのかと…」


「あぁー、それ言っちゃう?んじゃ、お前消して、話、終わらせちゃうよ?」


「申し訳ありません…主様、ご勘弁を…」


「まぁいい…スランプなのは認めてる…つか、お前、俺の書いた通りに取り憑いて狂わせるだけじゃ無くてさ、自分でも考えて誰かを騙して殺し合いさせろよ」


「お言葉ですが、それは私には出来ません。創造主たる主様が全てお決めになることですから…」


「つか、邪悪な悪魔のくせに、固っ苦しいな…その主様は止めろ!俺の名前、知ってんだろ?」


「ハイ、ぐり吉様…」


「ぐり吉はペンネームだ。少し恥ずかしいから本名で…いや、主でいいや…」


「かしこまりました…」


彼女は深々と頭を下げる…。


「ところでさ、アイデアが浮かばないんだよ。何かヒント無い?いつも、あそこで人々の思いを聞いてるんだろ?」


「まぁそうですけど…」


「誰か何か言ってなかった?」


「先日、主様の読者らしき方が通られまして…」


「おぅ!なんて思ってた?」


「それが…言っても良いかどうか…」


「言え!何でもいいから言え!」


「そうですか?私を叱らないで下さいよ?」


「判ったから言え!」


「その方が言うには…」


「うんうん…」


「主様のアザミは、すぐに陰部ばかりを傷つけて、作者は変質者だと…」


「はぁ~?って、それは俺も思っていたんだよな…でも、殺し方を考えただけで、リアルな俺はそんなこと、やりたい願望は無いぞ!」


「主様は殺し方がワンパターンだと…」


「そうだよな…もっとバリエーションが欲しいよな?」


「話自体に無理がある…」


「うーん…」


「主様はブサイクジジィだ…」


「それは俺も認めてる…つか、読者は俺を知らんだろ!!お前は俺をおちょくってるな!アザミは消す事に決定な!!」


「ひゃー、申し訳ありませんでした。つい、茶目っ気で…」


「まぁいいや…アイデアが悪いってことだな…でも浮かばないんだよな…どうしたもんかな?」


「ボツにしたのを書き直したらどうでしょう?」


「うーん…いっその事、アザミとkeepの若菜と冬花を連れて、異世界へ転生して俺が悪魔と悪霊を呼び出すチープな召喚士になる話でも書くかな?」


「keepの悪霊と仲間になるのは、勘弁ですかね?だって、彼女達って怖いんですもの…それなら、私と素敵なイケメンのラブストーリーはどうでしょう?」


「悪魔のくせに、恋愛だと?やっぱお前、俺をナメてるだろ?作者とアザミの殺し合いでお前を消したろか?嫌ならどこかで、アイデアを拾って来い!」


彼女は慌てて交差点へ戻り、人間どもの心の歪みに耳をそばだてた…。


「スランプだからって、アザミに八つ当たりしてもダメだった…」


男はベンチに座ったまま、ため息をついた…。


すると、背中から声がした…。


「うぅあー、ああうあー」


「おぉ、航太おかえりー、もうすぐママも帰って来るから、3人で帰ろう、」


「うぅ!」


「今日の晩ごはんは、何かな?美紀ちゃんの料理は美味しいからな…晩ごはん食べたらスランプ治るかな?」


男は走り回る航太を眺め、スナックミカの続きを考えた…。


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