第8話 未来への展望

リセットボタンが社会に浸透して数十年が経過した。人々は、リセットという概念とうまく付き合う方法を学んでいった。

教育システムは、さらに柔軟になった。学生たちは、自分のペースで学び、必要に応じてリセットを使いながら、自分に最適な道を見つけていった。

仕事の世界では、「マルチキャリア」が一般的になった。人々は、複数の分野でキャリアを積み、リセットを使って新しい挑戦を続けた。

家族の形も多様化した。複数の人生を経験した人々が、深い理解と愛情を持って家族を形成するようになった。

しかし、新たな課題も生まれていた。

リセット回数の個人差による社会的格差は、依然として解決されていなかった。政府は、この問題に対処するため、「リセット権」を基本的人権の一つとして憲法に明記し、全ての市民に最低限のリセット回数を保証する制度を導入した。

また、リセットを使わずに生きることを選択する「ノーリセット主義」も現れた。彼らは、一度きりの人生を大切に生きることの価値を主張した。

科学技術の発展により、リセットのメカニズムの解明が進んだ。研究者たちは、リセットが実際には「並行宇宙間の意識の移動」であることを突き止めた。この発見は、さらなる哲学的、倫理的議論を引き起こした。

太郎とリサは、今や70代になっていた。二人は、リセットボタンを使わずに歳を重ねることを選んでいた。

ある日、二人は海辺を歩きながら、これまでの人生を振り返っていた。

「私たちの選択は正しかったのかな」とリサが尋ねた。

太郎は優しく微笑んだ。「正しいも間違いもないんじゃないかな。私たちは、自分たちの選んだ道を歩んできただけさ」

リサは頷いた。「そうね。リセットは私たちに新しい可能性を与えてくれた。でも、結局のところ、大切なのは日々の積み重ねなのよね」

「ああ、その通りだ」太郎は同意した。「リセットは道具に過ぎない。それをどう使うかは、私たち次第なんだ」

二人は、夕日に照らされた海を見つめながら、静かに笑い合った。

その時、彼らの孫娘が駆け寄ってきた。

「おじいちゃん、おばあちゃん!私、将来の夢が決まったの!」

太郎とリサは、孫娘の輝く目を見つめた。彼女の未来には、まだ無限の可能性が広がっている。リセットボタンがあろうとなかろうと、人生は常に新しい挑戦と発見に満ちているのだ。

二人は、孫娘の手を取り、一緒に家路についた。彼らの背後では、波が静かに打ち寄せ、新しい時代の幕開けを告げているかのようだった。

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リセットボタン かなかの @kanakano1001

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