【4000PV突破!】アンネ・ビシソワーズの一生 ~ナーロッパ大陸最大の王国が何故滅んだのか~
黒岩漁
冒頭または終盤にかけて数ページ前の話
「ただいまよりアンネ・ビシソワーズの処刑を行う!」
――ナロウ歴1790年。
私は今、ギロチン――首を落とす処刑道具だ――に首をしっかりと固定され、今に落とされようとしている。
周囲はやれ私の事を『魔女』だとか『淫売』だとか『男女』だとか叫んでいるし。
私は正真正銘の女だぞ。それと魔法使えません。残念!
しかし、国民にそう言われるとは思わなかった。
そう言われてしまうと胸が痛くなるのは、きっと私が国を、民を愛しているからなのでしょう。
寄付とか農地の改善や税の調整だとかやっていたのですよ?
でも、すぐに普及しないのは仕方ない。
民は常に分かりやすく、即効性のある政策を求めているのですから。
年単位でかかるなんて上は知っていますが、民はそんなに待てません。
命がかかっているのですから。
そりゃ不満の一つや二つあってもおかしくない。
けれど、それが積み重なったら?
なんて事をあなたに言ってもしょうがないですよね。
贅沢が普通ですから。
この目で生活すら見たことない、窓越しで綺麗で安全安心な世界が全てですものね。
これをなんて呼びましょう?
そう!マザコン!何か違う気がするけど。
まあ、どうでもいいです。
支配する方としては、民は無知で愚かな方が統治しやすいのです!
馬鹿な方が扱いやすいですものね。貴族もですが。
無論、余計な知恵をつけされない事を条件に、ですけどね。
でも、王家の為に血を絶やさないでくれ給え。
適当な事を言えば、勝手に守って下さいますし、いう事聞かなければ脅して、それでもダメなら罪をでっち上げて捕える。
最悪、それを理由に処刑すれば良いのですから。
伝統のある統治法。まあ、それが手っ取り早いですし。
既得権益は守りたいですもの。分りますよ。ええ。
ましてや貴族でも王族でもない民衆が持った時には脅かされますからね。
その時は何かしらの理由をつけて奪ってましたね。
皆さま、不満でしたよ。税以上に稼いだものが取られているのですから。何もしてない人、貢献もしない人にお金、あげたくないでしょう?
私も嫌です。
ですが、愚かな民衆がなんやかんや持ち上げてくれますし、何も疑わず
けれど、私はそう思いません。
何故なら、その中にも才能があるのですから。
せっかくなら生かさない訳にもいかないのです。
外の声が聞こえないことほど、幸せな事はないのです。
黙っていれば美味しい食事が出て、綺麗な水で沸かされた程よい温度のする風呂に入れ、綺麗で清潔な衣服やベッドで寝られる。
まあ!なんて贅沢なのでしょう!私、追い出されてからそんな事ありませんでしたよ?
何とか整えて色々と出来るようになった時は、もう涙が出ました。
感謝しきれませんね。
あなたは以前、私にこうおっしゃっていましたね。
『民は私たちを支えるためにある』と。
確かにそうです。
ええ、そうですとも。
だから、何度も説得しました。
このままだと、あなたと王家が危ういと。
だからこそ、あなたに婚約破棄をされた時、悲しくなりました。
同時に思いました。「国からあなた方を引きずり落とす」と。
ですがそれはおまけの理由。
本命はと言えば――
「はッ、良いザマだ。見ろマリ。婚約破棄されたからヤケクソで攻めてきたアホを」
「まあ。野蛮で未熟で愚かな事」
王国の王子で私の元婚約者であるイケメン第一王子――いや、第14代目の王であるルイ・セ・モアが私に向かい侮蔑する様な笑みを浮かべています。
別にいいですよ。どうせ一時の浮つきで女を変えたクソの事なぞ知った事ではありません。
問題はポッとでの女――マリー・べキュー・バリーが何故王妃と言う地位に就いたか。
それをつい、私の晴れ舞台である婚約発表場で探り、ついに発表!の、あと一歩のところで……見事私は終わったのでした。
え、彼女は悪くない?悪いのが私?冗談では?
しかし、場には王子の取り巻きが合わせたように、庇います。思わず呆然としましたよ。
説得するための言葉や証拠は全て『偽造』扱い。色んな方々から時間かけて、裏どりしたのですけどね。
そもそも、マリーの周囲は怪しすぎますし。けど王子は真実の愛とやらを取りました。
家の事はどうでもいいのでしょうね。それが通じるのは子供の頃まででしてよ?
そのあと?まあ、婚約破棄ですね。家柄私の方が良いし、教養もありましてよ?
しかも私、そうされるまで、帝王学だの社会学だのマナーだの色々学んできましたし、王子に好かれようと色々調べたりしましたよ?
危ない方に引っかからない様に調べたりしました。
愛人がいくらいようと構いません。
だって私の事を一番に!いの一番に!私の事を愛してくださるですもの!
婚約破棄されるその時までは。
私の事を支えてくれた友を思い出す。
まずはメイドで年上の幼馴染、シャルロット。追放された時、私の事を一番に気にかけてくれた上に、まさか着いてくるとはとは思わなかった。
彼女が居なければ私は永遠に近い、陰鬱とした一生を送っていたかもしれないと思うとすごく助かった。
泣かないで頂戴、私まで悲しくなるじゃない。凛々しくて、何事にも動じず、物事を見せてくれたあなたがそうでどうするの。
黒髪がきれいで背がすらりとしてて、カッコ良いマドレーヌ。あなたの武勇と戦略、そして自由かつ大胆で私の事を信じてくれた。
そして、私の親友。最初はただの品無しガサツ令嬢と思ったのは秘密。
出会ったときは私の事を罵倒せずに受け入れてくれたこと、忘れません。
そして、私の事を支えてくれた皆様。
こんな婚約破棄された私に着いてきてくれてありがとう。
今はきっと、麦が取れる頃でしょう。
それが終わればコメを植えると良いですよ。
幸い、肥沃な土地ですので。
ブドウも取れます。
食べるにも飲むにも困らないはずです。
魔法が無くても大丈夫。代わりがありますからね。
いいじゃない。
私はここで終わりだけど。
皆は終わりじゃない。
民は年貢を、貴族は税に、王家に対する不満がある。
魔法が使えるだけで貴族とは甘い考えですよ。
それをしっかりと丁寧に淡々とやれば良いだけ。
燃え上がったタイミングで消えてしまったけどね。
けど、それは消えない。
いつか私たちの様な集団なり組織なり、外からか中からか知らないけど、いつか起こる。
民を無視し、放蕩し、贅を尽くし、それを当たり前と思っているあなた達を打倒す時が必ず来る。
いつ爆発するか分らない火薬庫の様に。
水をかき集めても消えない。むしろ燃え上がり、苦しんで死ぬ。
そこから新しい秩序が出来るだろう。
その時になったら私もおとなしく処刑されよう。
旧いモノは捨てないとね。
どんなものも新品が一番なんだから!
「言い残す事は?」
処刑人に言われ、私は余裕を持った笑みで叫ぶ。
「国王崩御!国王万歳!自由を!平等を!財産を!」
王子の顔が歪む。
そう、歪んだ顔。
見たかったものですよ。
その表情!
マリーもしてくれるとは思いませんでした。
先に逝った者たちに、天国《ヴァルハラ》で自慢出来ます。
最期に良いものが見れました。
そして刃が振り下ろされる――
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