第16話 初デート
自宅の近くにあるバス停から乗車しバスに揺られること十数分。本日のデート地である大笑水族館に到着した。
この水族館はかなり大きな施設でサメの飼育数は国内でもトップクラスで有名だったりする。
それにイルカショーが毎日行われていて、それも人気が高く県内外からも多くの人が訪れている。
俺の記憶が確かならここに来たのは小学生の時以来か……。海の生き物よりもアニメ鑑賞やゲームにのめり込んでいったので同じ町内にあるのに来る事がなかった。
バスを降りて時計を確認するとデートの待ち合わせ時刻の十分前だった。待ち合わせ場所である水族館のメインゲートに向かう。
そこで俺はある事実に気が付く。――人多くね?
駐車場はほぼ満車。当然人も多い。人気がある水族館だったとしてもさすがにこれは多すぎだろう。
「……あっ、そうかゴールデンウィークか!」
忘れていた。俺は今ゴールデンウィークという名の連休中だ。そりゃ当然、他の国民も当てはまるわけで連休となればレジャー施設は人でごった返す。
会社員の時はブラック企業勤めで祝日とは縁遠い環境にいたために、社会人は普通に仕事だと思い込んでいた。
これじゃ、どこに遊びに行っても人、人、人で溢れてるじゃないか。
水族館の落ち着いた雰囲気で二人でまったりと過ごそうとしたのに、デートが始まる前から計画が頓挫しつつある。
「とにかく伊吹と合流しないと……」
こうして周囲を見てみると家族連れやカップルで来ている人が多い。かつての俺ならこんなリア充の海の中にいたら窒息していただろう。
しかし残念だったな。今は俺もリア充の仲間なのだ。だから全然息苦しくない。
メインゲート付近までやってくると何やら男連中の視線が一箇所に注がれているのに気が付く。
皆目を丸くしたりニヤけたりしては、ご機嫌斜めな彼女さんに館内に強制連行されていった。
「一体何があるんだろ?」
興味を持った俺もちょっとした野次馬根性で彼等の視線の先にあったものを見てみる。その存在を目にした瞬間、俺は息を呑んだ。
そこには白いワンピース姿の伊吹が立っており、そのあまりの可憐さに一瞬で魅了されてしまった。
『それはデート服と言うにはあまりにもエロすぎた。清楚でロングスカートでそして胸元が強調されすぎていた。それはまさに童貞を殺す
はっ! いかんいかん、あまりの衝撃に変なスイッチが入ってしまった。それにしても困ったぞ。
あそこには合流目標である伊吹がいる。すぐにでも彼女に駆け寄って「待った?」等とリア充が言いそうな台詞と共に颯爽登場したいところだが、果たしてあそこに行って俺は無事で済むのだろうか?
今の伊吹はまさに太陽のような神々しさを放っている。
俺のような
そんなしょうも無い事を考えていると太陽が俺に気が付き向こうから近づいてきた。ふわっ! まぶしっ!!
「かー君、おはよう」
「お、おはよう……ていうか時間的にこんにちは……かな? 久しぶりだね、伊吹」
「うん? 昨日も
「え? あ、そうだっけか。それはその、あれだよ。待ち遠しくて一日ぶりだったとしてもまるで久しぶりに会ったような感じというか……」
しどろもどろになる俺の言葉を聞いて伊吹が嬉しそうな顔になる。
「そんなにウチと会うのが待ち遠しかったん? へへ……ウチも昨日の夜から早くかー君に会いたくて仕方がなかったじゃけんよ」
太陽の笑顔の前に早速萌え死にそうになる。
至近距離で伊吹を見下ろすと一見清楚に見えるワンピースなのだが胸元が大胆に開いて彼女の豊かな胸の谷間が一目瞭然なのが分かる。
眼福……圧倒的眼福! 俺は今日死ぬかも知れない。あの谷間に落ちて死にたい。
「あ、それ……」
平常心を保つため伊吹の谷間様から視線を逸らすと彼女の持っている大きなバッグが目に入る。それは多分彼女が事前に用意してくるといった物なのだろう。
「うん、お昼に食べるお弁当じゃよ。水族館の休憩スペースで食べられるみたいじゃけぇ、途中で食べよ」
「ありがとう、今から楽しみだよ。重そうだし俺が持つよ」
「ありがと。かー君はやっぱり優しいね」
これくらい普通だと思うのだが、それでも丁寧にお礼を言ってくれる伊吹の優しさに心が洗われる気持ちになる。
それなのに俺ときたら、彼女の外見に童貞を殺す服だのデート前から煩悩だらけになっていた。反省しなければ……。
心頭滅却し純粋な気持ちでデートに赴こうとした時、伊吹が俺の左腕に抱きつくようにしてくっついてきた。
俺の左腕を挟み込むように柔らかくて大きな双山が押しつけられてくるのが伝わってくる。
「ちょ、伊吹さん!?」
「えへへ、前からこうしてみたかったんじゃ。せっかくのデートじゃし……ダメ?」
「全然ダメじゃないです!」
いやーもうね。デート開始早々から伊吹に翻弄されっぱなしですよ。っていうか、まだ水族館に入っていないので物語的にはオープニング終わったとこ。
それなのに俺の理性は既に六十パーセントを下回っている。これがゼロになったら俺は正気を失いオオカミになりかねない。
初デートでそんな事になったら相手を幻滅させてしまうだろう。
ここは何としても人として男として最後までスマートに対処しなければ……非常に自信は無いがやるしかないのだ。
「それじゃ入ろうか」
「うん!」
かくして俺たちの初デートが始まった。順風満帆にいくかと思えたこのデートの結末がまさかあのような展開になるとは、この時の俺は予想だにしていなかった。
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