第13話 天誅を下す

「お兄ちゃん、いつからあそこにいたの!?」


「お前たちが来る十分位前からだよ」


「それじゃあ、アタシ達のやり取りを最初からずっと見てたんですかぁ!? どうして――」


 俺の後に続いて啓斗が出てきたのを見て伊吹と結は納得した表情を見せる。

 すると徐々に冷静さを通り戻したイケメン三人組が俺に食いついてきた。


「ええ~君が伊吹ちゃんの彼氏? 何か冴えない感じだけど、伊吹ちゃんこんなのが本当に彼氏でいいの?」


「相良さんだったら絶対もっと良い相手と付き合えるって。例えば俺たちの誰かとかさぁ」


「そうそう。こんなこと言ったら悪いとは思うけど、彼といてなんか楽しいことある? デートの時どこに行ってるの?」


 話を振られて沈黙が流れる。

 まだ、デートには行ったことがない。一応考えてはいるんだけど……。


「す、水族館とか……?」


 予定しているデートプランを話すと三人組はため息を吐いたり笑ったりしていた。そんなに駄目なプランだったのだろうか。


「何だそれ。普通すぎるじゃん。人生初めてのデートじゃあるまいし」


 余計なお世話だ。こちとら人生初のデートなんだよ。見た目は高校生で中身は三十歳のおっさんだけど、生まれて初めて立てたデートプランなんだよ。

 ちくしょうこいつら、初デートはとっくの昔に卒業済みですか。リア充め爆発しろ。


「水族館かぁ。先輩、ウチ……じゃなかった、アタシとのデート考えてくれてたんね」


 伊吹は目を輝かせ嬉しそうにしている。こんな形での初デートのお知らせになってしまい申し訳ない。

 俺と伊吹の間に良い雰囲気が流れていたのを感じ取ってなお三人組は諦めようとしない。ここで下がったら俺に負けた事になるとか考えてるんだろうな。

 その証拠に連中の怒りの矛先が俺に向いている。


「君さあ、あんな所でこそこそ隠れて盗み見するなんて恥ずかしくないの?」


「そうそう、俺だったら情けなくてそんな事できないよ。しかも前もってスタンバイしてるとかウケるんだけど」


「見るからに小心者だよね。伊吹ちゃん、こんな奴と一緒にいたって楽しい事なんてないよ。俺に乗り換えちゃいなよ」


 見事なまでに俺に攻撃が集中する。その侮蔑的な発言に伊吹の顔が怒りで赤くなっていくのが分かった。

 素に戻った彼女が広島弁で怒ったら、こういうアホな連中は面白半分で茶化す可能性がある。

 伊吹はこの町に引っ越してきて間もない頃、同じクラスの男子に方言をネタにされて傷ついた過去がある。そんな事があって以降、彼女は口数が少なくなってしまったのだ。


 その再現は可能な限り避けたい。こういう連中の相手は俺だけで十分だ。


「まったく……こんな冴えない男一人相手に三人で噛みつくとか。――ダサッ!」


「「「なんだと!?」」」


 ちょっと煽り返したら面白いぐらいに反応する。煽り慣れてはいるようだけど煽られるのは免疫がないらしい。

 これは思ったよりも簡単に決着がつきそうだ。何せ俺は時間稼ぎをすれば自動で勝利が転がり込んでくるのだから。


「それにお前等三人は結構仲が良かったりするんだろ? 聞いた話じゃトリプルデートを頻繁にやっているそうじゃないか」


 ちょっと早いかも知れないけど爆弾投下。これでぐうの音も出ないだろ。

 

「トリプルデート? それってつまりあの人たちは彼女さんがいるって事……?」


 伊吹が指摘すると三人組の顔が真っ青になる。しどろもどろになりながら言い訳を始めるが、そこには先程までの攻撃的な雰囲気はない。

 

「ちょ、嘘でしょ? 彼女がいるのに伊吹にちょっかい出してきたの? しかも三人とも仲が良い友達ってどういう事?」


 結が追撃を加える。さすがは我が妹、合いの手の入れ方が素晴らしい。


「ちょっとこいつらに関してあまり良くない噂を耳にしたんでね、念のために隠れてたんだよ」


「良くない噂……?」


「こいつら相当遊び慣れているみたいでね、二股三股とかやっているらしい」


 この情報を提供してくれた裕太に感謝する。そのお陰でタイムリープ前の高校時代に耳にした話を思い出すことが出来た。

 同学年の男子三名が本校他校の女子生徒相手に色々とやって問題を起こした件。その当事者がこいつらだった。

 こんなろくでもない奴等と伊吹をこれ以上関わらせるとか反吐が出る。――なので今後つきまとわれない様に大ダメージを受けてもらう。




「ちょっとあんたら何やってんの!?」


 怒り口調でこの場に女子生徒三名が乱入してきた。伊吹にちょっかいを出してきた男子生徒にそれぞれ鬼の形相で迫っていく。

 彼女たちがやって来た方を見ると裕太がサムズアップして笑っていた。俺もサムズアップしてニヤリと笑う。多分、今の俺は悪人の如き笑みを浮かべている事だろう。

 

 裕太には予め三人組の彼女たちに声を掛けてもらっていた。

 それでこいつらが潔く退かなかった場合、メールで連絡して彼女たちをこの場に乱入させる手筈になっていた。

 いやー、ホントこんな結果になってしまって心が痛むわー。でも、自業自得だからしょうがないよね。


「いやさ、俺も本当に困っているんですよ。彼等が三人がかりで俺の彼女に言い寄るもんだから。これってどういう状況なんですかね?」


「「「何ですってぇぇぇぇぇ!! ちょっとお前等こっち来い!!!」」」


「「「ちょ、ま……助けてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」」」


 三人の野郎共は怒り心頭の彼女たちに連行されていった。断末魔の叫びが校舎裏に響き渡り、まもなく静かになった。


「これが因果応報ってやつよ。これであいつらはおしまいだな」


 我ながら大人げなかったかもしれないが、他人に迷惑を掛けたのだからそれなりに報復は受けてもらわなければならない。それが世の中のルールってもんですよ。

 退場者と入れ替わりに裕太が俺たちのもとへ合流する。


「お前中々過激な事するなぁ。作戦通りにメールが送られてきた時はアドレナリンがドバドバ出てきたぜ。今日一で面白い出来事だった」


「悪かったな、放課後まで付き合ってもらっちゃって。今度学食ランチ奢るから勘弁して。デザートも付けるからさ」


 裕太は笑いながら帰って行った。この場には呆気に取られた伊吹、結、啓斗が残っていた。

 事情を説明すると用意周到な手段を取った俺に対し驚いていた様子。少しばかりやり過ぎたかも知れないなぁ。

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