第3話 部屋の中心で広島弁を叫ぶ
こうして三人で下校する事になったのだが、帰路を誰かと一緒にするなんてあまり経験がなかったので新鮮な気分だ。
「そういえば先輩ってオタクですよねぇ? 今お勧めのアニメって何ですかぁ?」
「そうですオタクです。んー、そうだなぁ。家に戻って確認してみないと分からないな」
懐かしい。これだ、こんな感じで伊吹は俺に対して変なマウントを取ろうとしていた。
かつての俺ならオタク扱いされた事にびびって黙っていただろうが、社会人経験者の今となっては別に何てことはない。
「そうなんですか。それじゃ、これからお家に行ってもいいですかぁ?」
「別に構わないけど、結と遊ぶんだろ? 俺に断る必要はないでしょ」
「それはまあ、そうなんですけどぉ……」
「ちょっとお兄ちゃん、今の言い方って何だか冷たくない? 伊吹が可哀想でしょ!」
結が妙に食ってかかってくる。何かがおかしい。妹は怒りっぽい性格ではあるがいつもならこんな事で一々目くじらを立てるような奴ではない。
その一方で、俺の中の伊吹のイメージが少しずつ変わってきた。ずっと小生意気な事ばかり言って絡んでくるコギャルかと思っていたが、所々で押しの弱さが垣間見える。
本来は口数が少ない……と言うかまともに言葉を発しているところを見たことがない奥手な少女だったので、内面まではコギャルになりきれていないのかもしれない。
そんなこんなで家に到着すると俺はとっとと自分の部屋に戻り、状況整理をする事にした。
最初は夢かと思ったが意識ははっきりしているし、いつまで経っても夢が覚める気配はない。
となると信じられない事だが俺はやっぱり過去に戻ってしまったらしい。
だったらやることは決まっている。かつては暗黒時代だった高校生活を楽しいものにする。青春というものを今度こそ謳歌してみせる。
そう自分に言い聞かせながら、ふとある事を思い出した。
タイムリープした今を二周目とするのなら一周目の今日、確か伊吹がこの部屋を襲撃してきたはず。
そして俺の見られて恥ずかしい品々を白日の下にさらしマウントを取ってきたはずだ。
思い返せばそれが決定打になって俺は彼女を遠ざけるようにしたんだ。
――であればだ。この二周目も同じように俺の城に突してくる可能性が高い。だったら罠を仕掛けてみるのも面白いかもしれない。
女子高生相手に少々大人げないかも知れないが、社会を知らないお嬢さんに大人の恐ろしさを多少味わわせてみるのも一興だ。
マウントを取られる前に取る。――それが大人の特権だ。
「よし、それなら急いで罠を仕掛けようとするか。どんな反応をするか今から楽しみだぜ、へへへ……」
それから十数分後、ドアをノックする音が聞こえてきた。
「――誰だ!!」
『へっ? あ、いえ、伊吹です。少しお邪魔してもいいですかぁ?』
「構わんよ。――入りたまえ」
『失礼します…』
何かの面接官になった気分で仰々しい態度で椅子に座り、俺のテリトリーに入ってきた獲物もといコギャルを値踏みするように見る。
――ふむ、やっぱりちゃんと見てみると中々……いや、かなり可愛い。それに制服の上着を脱いでシャツ姿になっているお陰で胸の大きさがより際立っている。
で、でかい……それに歩く度にたぷたぷ揺れてるぅ……はっ! いかんいかん、俺好みのムチムチボディに見蕩れていた。落ち着けぇ翔。ここで冷静さを失ったらアカン。
圧迫面接官の気分になって、付けいる隙を与えないようにしなくては……。
俺の異様な雰囲気を感じ取ってか、伊吹はおどおどしながら俺の部屋に入ってきた。
「伊吹ちゃん一人だけか。結は一緒じゃないのか?」
「結は部屋でお昼寝してまーす。それで暇だから先輩の部屋に遊びに来ちゃいました」
少しずつ調子を取り戻してきた伊吹が俺の部屋を見回す。そして机の上にあるパソコンに目を付けると吸い込まれるようにそこに向かっていく。
予想通りだ。一周目ではパソコン起動のパスワードを何故か彼女が知っていて、保存しておいたエッチな画像の数々を見られて笑われたという恥ずかしい思い出がある。
その裏では妹が暗躍しているのは明白だ。あいつなら俺のパソコンのパスワードを知っていてもおかしくない。
伊吹は結の指示が書いてあるであろうメモ書きを確認しながらパソコンを起動させた。
そして俺が丹精込めて集めたエッチ画像のファイルを開いた時、予め仕掛けておいた罠が発動した。
――さあ、これでも食らえ。
『あっ、あああああああああん! あ、あ、あ、あ、そこ……凄いぃぃぃぃぃぃぃぃん!!』
パソコンに保存しておいたエロ動画が再生され、裸の男女のくんずほぐれつな十八禁ハッスルシーンが映ると艶めかしい女性の声が部屋中に響き渡った。
「はひっ!?」
予想通り、伊吹は面食らった顔をして変な声を出していた。
女子高生といっても、所詮ついこないだまで中学生だった少女だ。恐れるに足らん。
少しばかりエッチな画像が出て終わりだと思っていたのだろうが、そうは問屋が卸さない。
画像だけでは味わえない、動画による視覚、聴覚への刺激を堪能して帰りたまえ。
「…………」
「――あれ?」
どうしたことだろう。伊吹は動画を食い入るように観たまま動かない。何かめっちゃ集中してるぅ!
「こ、これがAV……ウチ、始めて観た。凄い……男の人と女の人があんな風に……ごくっ」
気のせいだろうか。伊吹の喋り方が今までと違うような気がする。それに態度もコギャル特有の
両手を胸の所で組んでハラハラした様子で動画に見入っている。怖い物見たさといった感じだろうか。その姿はまるで小動物のようだ。
そんな伊吹を見て以前の大人しかった頃の彼女の姿とダブって見えた。やっぱりこの子の内面は以前とあまり変わっていないのかもしれない。
『あん、あん、あん……あーーーーーーーーーーん!!』
エロ動画に映っている女性の嬌声が鳴り響く。これは非常に気まずい。
俺の予想ではこの動画を観た伊吹は恥ずかしがったり嫌悪感を示すなりしてこの場を去るだろうと考えていた。
ところが実際の彼女はめっちゃ集中して男女の仲良しシーンを観ている。こんな事になるなんて誰が予想しただろうか。
「……セッ○スってあんな風にするんや。保健体育じゃふわっとした感じでしか教えてくれなかったけぇ、よう分からんかったけどこんなに激しいんや……ウチもいつかあんな風にするんやろか……」
やっぱり聞き間違えじゃない。伊吹の言葉遣いが今までと違っている。この話し方には覚えがある。
確か……そうだ、仕事の取引先の人が同じような話し方をしていた。確か彼は広島出身……そういえば伊吹も広島出身だから、これは広島弁ということか。
「……伊吹ちゃんって広島弁で話すんだね。知らなかったよ」
「……へ? ――あああああああああああああああっ!!!」
指摘するとしばらく呆けた顔をしていた伊吹が突然悲鳴のような大声を上げる。俺が知っているコギャル相良伊吹のものとは思えない絶叫だったので滅茶苦茶驚いた。
「これは……その……違う……違うんじゃ……ウチは、コギャルで……その……違うんじゃけぇぇぇぇぇぇぇぇぇん!!」
伊吹は顔を赤くして泣き出してしまう。その時部屋の扉が勢いよく開くと結が急いで入ってきた。
あれ、お前寝てたんとちゃうの? もしかしてずっとそこで監視してた?
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