30歳童貞だった俺が高校時代にタイムリープしたので人生をやり直そうとしたら、妹の友達の小生意気なコギャルが俺にゾッコンだった件。実は彼女は初心な方言少女で天然カワイイ!
河原 机宏
第1話 タイムリープ
俺の名前は【
家に帰ってコンビニで買った弁当を食べて風呂に入って寝る。
そして気が付けば毎日サービス残業を繰り返して大した収入でもないのに夜遅くまで仕事をする。
そんな生活を始めてもう八年になる。
俺の実家は関東地方の片田舎にある。思春期に入ってからこんな田舎からとっとと出て都会で暮らしたいと思っていた。
それで高校卒業後は東京の三流大学に入って一人暮らしを始め、自堕落な生活を過ごし今の会社に入職して現在に至る訳なのだが……。
「俺っていつの間にか立派な社畜になっていたんだな。――子供の頃は大人になればもっと自由に何でも好きなことが出来ると思っていたけど……実際はこんなもんかぁ」
別にこれまでの生活が全て最悪だったわけじゃない。
大学生活はアルバイトに明け暮れたり、友達とバカやったりオタク生活を満喫していた訳でそれなりには充実していた。
ただ、女性には縁が無く三十歳になる今でも人生において彼女なる存在が出来たことはない。そんな状況なので当然童貞だ。
経験だけをしようと思えばそういう店もあるのだが、彼女も作れないチキンハートの俺がそんな場所に行く勇気があるはずもなく、気が付けばこんな状況になっていた。
今思えば、人生で一番彼女が出来そうだったのって高校二年生の頃だっただろうか。
あの時にもっと積極的に動いていたら彼女が出来て、あの閉鎖的な環境ですら楽しめるようになって、今とは違う人生を送れていたのかもしれない。
「……はぁ、やめやめ。いまさら後悔したってあの頃に戻れる訳じゃないんだし。明日も仕事だからな。もう寝よ」
今日も夜遅くに帰宅しコンビニ弁当を食べてシャワーを浴びてベッドで横になる。
ふと目を開けると見慣れた天井が視界に入った。実家を出てからこの部屋で暮らしているのでとても見慣れた光景だ。
疲れているせいかすぐに睡魔が襲ってきて静かに瞼を閉じ眠りについた。
「――ちゃん」
……ん? 何だ? 人の声がする。とても聞き慣れた女性……いや、女の子の声だ。
気怠い気分の中、重い瞼をなんとか開けるとそこには年齢が一つ下の妹がいた。しかし何かがおかしい。
「お兄ちゃん、早く起きてよ! 春休みは昨日で終わり。今日から二年生になるんだからしっかりしてよね。私も今日からお兄ちゃんと一緒の高校に通うんだから!」
ベッドから上半身だけを起こすと、そこには高校の制服に身を包んだ妹の【時任
茶色のボブヘアでそこそこ整った顔立ち。スタイルはそこそこだったと思う。
そんな年齢が一つ下の妹が……アラサーの妹が高校の制服を引っ張り出してきて何故か朝っぱらからそれを着て俺に披露している。
これはもう立派なコスプレですよ。
「結……お前、アラサーだって言うのに……既婚で子供までいるってのに、どうして今更高校の制服を着て俺に見せてんだよ。そういうのは旦那としっぽりやれ。俺を巻き込むんじゃない!」
「はぁっ? ちょっと何寝ぼけてるのよ! 私はまだ十五よ。結婚もしていなけりゃ子供だっていないわよ。変な夢でも見たんじゃないの?」
「……へ?」
そう言われれば確かに妹は若く見える。というか実際若い。本人が言っているように十代にしか見えない。
見れば見るほど、高校の頃の妹の姿そのままだ。
それに部屋の中を見回してみると、ここは一人暮らしをしているアパートの部屋ではなく実家の俺の部屋だった。
棚には漫画の単行本がずらりと並んでおり、昔のゲーム機がテレビの前に置いてある。懐かしき我が城がそこにあった。
でもどうしてだ。実家の俺の部屋は俺が一人暮らしを始めて早々に家の倉庫に成り果てていたはず。とても人が寝泊まりできる環境ではなかったはずだ。
「本当に大丈夫? とにかく早く顔洗って朝ご飯食べようよ。急がないと学校に遅れちゃうよ」
「あ……ああ」
戸惑いながらベッドから降りて洗面所に向かう。懐かしい実家の間取りに感動しつつ目的地に着いた。
「そういや、仕事にかまけて何年も実家に帰ってなかったな。結が実家の側で暮らしてるから大して意識してなかったけど、電話くらいはしようと思えばできたよな……」
実家で暮らす両親の事を考えながら洗面台の鏡で自分の顔を見る。そこには三十歳社畜のくたびれたおっさんではなく、十代半ばの少年が映っていた。
「…………」
驚きのあまり声が出ず、無言で顔に手を触れてみる。
肌に張りがある。鏡に映る少年の顔にはしわはなく髪の毛もさらさらで白髪が一本もない。明らかにティーンエイジャーだ。
「……俺、もしかして十代の……高校二年の頃に戻ってる!? ウソだろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
驚きで大声を出してしまうと後ろから妹が「お兄ちゃん、うっさい」と非難してくる。これは実家で日常的に行われていた兄妹のやり取りだ。懐かしい。
顔を洗い高校の制服に着替えて階段を下りる。居間にはまだこたつが置いてあり、そこに父さんと妹が座っていた。
「おう、おはよう翔」
「え、あ……おはよう、父さん」
数年ぶりに会った父は若くなっていた。というか、俺が高校二年ということは約十三年前に戻っているという事になる。
十三年前の父の顔を見て随分と若いなぁとしみじみ見てしまう。
「どうした? 真剣な目でこっちを見て。顔に何か付いてる?」
「いや……そんなんじゃないけど」
「気にしなくて良いよ、お父さん。お兄ちゃんったら起きた時から変なんだから。私なんかアラサーの子持ち扱いされたのよ!」
結が怒って顔を赤くしている。そんな妹からさっきのやり取りを聞いた父は笑っていた。
「ははは、そうかそうか、結が子持ちかぁ。つまりそれって俺にとって孫という事になるなぁ。いつかそんな日が来たら嬉しいなぁ」
「ちょ、お父さん! 真面目に聴いてよ、もう!」
「はいはい、朝から元気ねあなた達。翔、顔はちゃんと洗った?」
キッチンから朝食を運んできたのは母さんだった。父さんと同じでやはり若い。こうして見てみると妹は母親似なのだとよく分かる。
二十九歳の結は、今目の前にいる母と似ている。
母さんがキッチンから残りの朝食を持ってこようとしたので、先にキッチンに行って持ってきた。
「あら、ありがとう翔。助かったわ」
「お兄ちゃん、どうしたの? そんなに気が利く性格じゃなかったじゃない。寝てる時に頭でも打った?」
結が心底心配そうな顔で俺を見る。俺が皿を持ってくるだけでどうしてそんなに正気を疑われるんだ。
「打ってないよ。一人暮らしをしていれば料理が勝手に自分の前に並べられるなんて事ないからな。皿を運ぶなんて普通だよ」
そう言うと三人がキョトンとした表情で俺を見る。それを見て、また余計なことを言ってしまったと後悔した。
料理が並べ終わり四人でこたつの周りに座ると「いただきます」と言って食べ始める。
そう言えば、実家にいた頃はこうして家族全員が揃ってからご飯を食べていたっけ。
温めたコンビニ弁当を一人で食べるのがいつの間にか当たり前になっていたけど、家族で食べるご飯ってこんなに美味しいものなんだな。
朝食を食べ終えて支度を済ませると、妹と一緒に家を出て高校まで歩いて行く。幸い時間には余裕があるので状況を整理することにした。
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