第三十三話『本能寺の変』
突如、境内の四方八方から
――!!
「何事じゃ! 敵襲か――」
「いえ、
「何が起きておる!?」
「話は後で――! 仕掛けた火薬がもうじき爆発します!」
言うが早いか
信長を先に降ろした
「さあ、どうぞ。こちらにございます」
「見えておるのか?」
「お任せくださりませ。
暗闇の中、信長は
立派な甲賀忍となった手を、信長は固く握り返す。
大きな掌へ、喜びよりも寂しさを感じてしまう身勝手に嫌悪――。
何もしてやれなかった後悔が目頭に押し寄せ、閉じたままの瞳から露泪を吹き散らし走った……。
◇
地上に出ると、用意された馬で大津まで急ぐ。信長は華麗な手綱さばきで疾駆。自分の馬でないにも
美しい騎乗姿勢で馬と一体となり光芒を放つ父の背中。時折、慈愛に満ちた表情で振り返る父の眼差しに見惚れる。母や
そこはかとない魔力に魅了され集中を乱す程に、
琵琶湖を船で渡り切ると、また馬に乗り換え
そしてようやく日本海に浮かぶ南蛮船の上に、光秀の姿を見つけた。
「光秀――、お主を信じて此処まで遣って来たぞ! これはどういう事じゃ」
「かたじけのう存じまする。お話しは中で――」
「では、私は是にて」
息子との時間がずっと続くと思っていた訳でもないが、何故だか――、このまま側に居てくれるような気になっていた。
「
………………。
愛していた――!
――ずっと、お前を想う……」
信長は目の高さ程に大きくなった子を、しっかりと抱き
「父上……! どうぞ御達者で――」
敢えて、振り返らぬ事を心に決めて……。
◇
―南蛮船内 日本海南下中―
「自害ですか……」
「…………」
少し不機嫌そうな光秀に、たじろぐ信長。
「いつからこの計略を――?」
「…………」
「
「――! 気付いておったか……」
「恥ずかしながら、私は何も。
ただ、
◇
―二週間前、安土城―
「光秀、
帰蝶は帰り支度をする光秀を呼び止め、奥へ通した。
「秀吉殿から援軍要請が。準備の為、城へ戻ります」
「その傷……」
「信長様が足蹴に」
光秀は頬の傷を人差し指で触りながら、意味ありげに笑う。
「まだ続けておられるとは。
「信長様と芝居を打ちましたら、すぐに。皆は信長様と私の不仲を、家臣団の結束の危機だと感じ、取り成して参りました。
しかし唯一、逆の動きをした者が。――秀吉殿です」
「やはり。そんな事だろうと思いました」
「ただ彼は
今日も腐った魚に取り替える姿を甲賀の忍が見ております。家康殿の
「そうでしたか。……私は、ここの所ずっと、何やら胸騒ぎがするのです……」
「秀吉殿なら大丈夫です。信長様の御命を狙うような事は決して――。私が邪魔なだけで」
「しかし、信長様のご様子がおかしいのです……。先程も、珍しく丁寧なご挨拶を。これまでの感謝と謝罪まで述べられ、もう二度と会えぬような……。
◇
「丁寧な挨拶か――。そのような事で気付かれてしまうとは……。
比叡山を焼き討ち、“第六天魔王となった信長”が、全ての恨み憎しみ怒りの矛先となり、神罰仏罰により本能寺にて命を落とす――。
そして千年の歪みに揺れるこの天下は、神、仏、天皇を敬う世をようやく取り戻し、清い心が麒麟を呼ぶのじゃ。
「そのように見栄えの良い
もっと無様に死ななくては。麒麟の尻尾すらも掴めませぬ! 恐れながら、信長様のご寵愛を一身に受ける殿方とは――」
信長は上がりそうな口角を下げ、努めてぶっきら棒に答える。
「言わせるか――。光秀……お前じゃ」
「では私が、“第六天魔王 信長”を葬り去りましょう――」
“本能寺の変”には『黒幕』がいた――。
この作品は史実を基にしたフィクションであり、作者の妄想が多分に含まれます。何卒ご容赦頂けますと幸いです。
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