第十九話『千歳をも色香に籠めて』
信玄の死により家督を相続した武田 勝頼を、“長篠の戦い”で討ち果たした信長は、将軍 義昭の
其の代わりにと、東大寺の
『正倉院に押し入り無理矢理
其の木片を二つに割り、片方を贈り物として献上してきた信長の心遣いに、天皇は
貴重な香木の切り取りを許された事実は、朝廷が信長を認めたという証――。
信長が朝廷の経済的な後ろ盾となり、天皇の権威が天下静謐を進める信長の後押しをするという“共存共栄関係”が構築され、信長勢力の更なる拡大が見込まれた。
◇
そして奥の間で二人、密談を始めた。
「大量の鉄砲・弾薬の調達、大儀であった。お陰で宣教師に聞いた異国の戦術で勝利できた
「信玄公は死に際に自身の死を“三年は秘匿に”と申されたそうです。虎ありてこその武田の権威だとお気付きになられていたのでありましょう。先代が異才であればある程に、跡取りは見劣りし批判に晒されます」
「うむ。そこで
信長の決断に光秀は露ほどの驚きもなかった。
「誠に失礼ながら、信長様の威光にあやかり御当主としての威厳を築いてゆかれる事は、素晴らしきお考えに存じます。古参の家臣ほど信長様への崇拝から、信忠様にとりわけ厳しい目を向けておりますゆえ」という光秀の切言を、信長は分かっていたような頷きで応答。
「信忠は義理堅く勤勉であるが、真面目過ぎる人柄は面白味に欠ける。だが素直な良い子に育った。帰蝶が手塩に掛けてくれたお陰じゃ。
……光秀は何も聞かぬが、
「いえ、その様な事は……」
「初めは弟 信勝と斉藤を抑え、
泰平の世の為と助けた義昭に裏切られ、その
自責思考の深くに降りた信長の胸臆を、光秀は潜り込み迎えに行く。
「家督を外れ他家の養子や僧となっておっても、跡継ぎが早逝すれば突如呼び戻され当主を任されるのは武家ならば当然の事。良心の呵責に苛まれるような事にござりませぬ。継承が上手く行かねば御家は転覆致すのですから」
心情よりも正しさを優先する信長は、冷厳だと捉えられ理解されない事の方が多い。理解されない孤独を受け入れるのは容易い信長でも、自分の中の正しさが揺らぐ時は脆弱になるのだと光秀は感じた――。
“本能寺の変”には『黒幕』がいた――。
この作品は史実を基にしたフィクションであり、作者の妄想が多分に含まれます。何卒ご容赦頂けますと幸いです。
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