飛車角、夢落ち

鳩原

第1話飛車角、夢落ち

 ある将棋部の部室にて。麗しい女子生徒とその後輩らしきちんちくりんがおりました。


「先輩、将棋で勝ったら何でも一つ俺のお願いを聞いてくれるって本当っすか!?」

「ん、ほんと。何でもやってあげる。」

「あ、あの、ハンデとかって……」

「ふふ、本気で勝ちに来てるね。そうね……飛車角落ちで。」

「ぜ、絶対勝ちます!」

 

一時間後。


「ぐ、ぐ、ぐぅ」

「小一時間前の威勢はどこ行った、頑張れ。」

「ま、参りましたあ。」

「お疲れ様。あれだね、最後から六手目で桂馬を成らせなければまだあったね。」

「……あーっ、確かに!」

「これ、詰め将棋の本。貸してあげる。」

「え、いいんすか、ありがとうございます!絶対リベンジします!」

「えー、流石にもうあの条件は無理だよ。」

「そ、そんなあ~」


そして翌日。


「ねえ、勝負しない?○○君が勝ったら何でも一つ言うこと聞いてあげるよ。」

「え、でも先輩、昨日、もうやらないって……」

「昨日?昨日は私途中で気分が悪くなって早退したけど?」

「冗談やめてくださいよ、だってほら、貸してもらった本が、ってあれ?」

「そんな本どこにもないじゃない。きっと夢だったんだよ。ほら、良いから早く。」

「??おかしいなあ、夢だったのかなあ?」


一時間後。


「先輩、俺が夢で対局した時と同じ手打ってますよ!」

「ええ、そんなことある?」

「本当ですよ、ほら、ここで桂馬を進めて……」

「成る?」

「成りません!」

「なかなかやるな、マジで手の内見えてるってこと?」

「すごくないすか?」

「うん、すごいよ、負けました。」

「よっしゃーっ、え、何してもらおうかなあ。」

「まあ、適当に考えておいて。そんなことより、○○君、強くなったなあ。」

「たまたま夢に見たってだけですよ。」

「いやいや、それも実力だからね。負けたんだから仕方がない。お願い一つ聞いてあげるよ。」

「じっくり考えてるんでちょっと待ってください。あ、今のは違いますよ!?」

「わかってるよ。本当しょうがないなあ。」


とか言いつつ、彼女の膝の上には昨日後輩に貸した後、こっそり鞄から抜き取った詰め将棋の本が。彼女の耳が少し赤くなっているのにうかれて気付かない後輩君でした。

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飛車角、夢落ち 鳩原 @hi-jack

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