沈む太陽 ~生と死を奪い合え、極限サバイバルゲーム~
白い彗星
平井 昇1
『おめでとうございます。あなたは異世界への招待券を獲得しました。
これから皆さんには、サバイバル……すなわちデスゲームをしてもらいます。生き残った一人だけが、元の世界、つまり今いる現実世界に帰ってくることができます。
さらに今回のゲームでは、一人頭一億円の賞金がかかっています。一人殺せば、殺した者が殺した者の一億円を獲得できるシステムです。もう一人殺せばさらに一億円。このシステムは、直接殺していないプレイヤーの賞金も、ゲームの展開により変動します。
つまり、すでに二億所持しているプレイヤーを殺した場合。殺したプレイヤーには、殺されたプレイヤー一億分プラスそのプレイヤーが所持していた二億、計三億円を獲得することになります。
このサバイバルに参加しているのは三十一名。最終的に自分以外のプレイヤーを全て殺し、勝ち残ったプレイヤーは、その手に三十億の賞金と、自由を手に元の世界に帰ることができるのです。
それではみなさん、輝かしい未来のために、見事デスゲームを勝ち抜いてください』
「ざっけんなよ!」
手に持つスマホに映った画面……そこに表記されている文面を見て、スマホの持ち主である
当然といえば当然なのだが、その機械的な文章に苛立ちは募っている。しかし、その怒りをぶつけられるのは、物言わぬスマホだけだ。
とはいえ、怒りをぶつけられるスマホも、自分のものであるため、地面に叩きつけたり乱暴なことはできない。しかも、たとえ怒りを物理的にぶつけたとして、スマホが壊れてしまえばどうなるのか?
失格扱いになるのか、もしそうならば失格したらどうなってしまうのか。そうでなくても、手掛かりはスマホに届いたこのメール文だ。宛先不明で、アドレスもでたらめなのは一目瞭然だ。
なので、より正確に怒りをぶつける相手を示せというならば、それはこの文章を送ってきた人物、ということになるだろう。
だが悔しいことに、送り主も、メールのアドレスも、もっと言えば文章さえも、すべてが意味不明で。少なくとも昇に心当たりはない。
こんなメールを送られる心当たりも……こんなデスゲームに、参加させられる心当たりも。
「くそ、くそ、くそ! なんだってこんなことに……!」
昇の息が荒くなっているのは、なにも怒りに呼吸を忘れているから……というだけではない。
単純な話。今昇は、走っている。それも、全力で。
スマホを片手に、時折後ろを振り返りながら全力で走る。現役男子大学生、高校時代には陸上部であった昇には、体力と足の速さには自信がある。
……それも、平地ならばだ。ここは森の中。走るには不慣れな足場で、視界も良好とは言えない。状況だって、把握しているどころかわからないことだらけだ。
それでも、足を止められない理由がある。
それこそが、スマホに届いたメールに書かれていた、文面の中にある。
『これから皆さんには、サバイバル……すなわちデスゲームをしてもらいます』
最初にこれを目にしたとき、目を疑った。だってそうだろう。
デスゲームなどと……手の込んだいたずらだ。誰しもが、そう思うだろう……現状に、不可解な出来事が起こっていなければ。
昇は目覚めたら、この『島』にいた。手元にあったのは、スマホと側に置いてあった、小さなクーラーボックスに入ったペットボトル数本の水だけだ。
おかしい。昇は確かに、自分の部屋で眠った。部活帰りで、疲れた体はベッドに沈むや、すぐに眠ってしまったのだ。本来、次に目を覚ますときは、空腹によるものだろうと思っていた。
そして、目覚めたのはやはり空腹によるもの……ではなかった。アラームだ。セットした覚えのない。少なくとも、こんな時間には。
目覚めた昇の視界に映ったのは部屋の天井……のはずだった。だが視界の先にあったのは部屋の中どころか、外……それも、なんらかの島と思われるこの場所にいた。眩しいくらいの青空、自分が寝ていた浜辺、そして海……夢かと思ったが、頬をつねっても痛いだけだ。
どうしてこんな場所にいるのか、もちろん気になったが……目覚めた昇のスマホに今度は着信があった。そして届いたメールが、冒頭の文章だ。
メールが届くということは、電波が入っているということ。なので、誰かに救助を……そう考え、昇は親に、友達に連絡を取ろうとした。
しかし誰にも連絡がつくことはなかった。そして気づいた……アンテナが、立っていないことに。あり得ない……しかし、電話やメール、一切の機能が使えなくなっていた。
機能しているのは、宛先に【運営】と書かれた何者から届いたメール。そして……
「俺の……人の命が、一億だと!? ふざけやがって!」
スマホのホーム画面に表示されている【平井 昇:所持金一億円】の文字のみ。さらに、画面の端にはうさぎともパンダとも思える生き物がデフォルメされて映っている。
マスコットのつもりだろうか。人にデスゲームを強要しておいて、マスコットなどとふざけている。
……この島にいることも、スマホが通じないことも現実で。でも、これがいたずらの可能性は残っている。
だってそうだろう、生き残り一人のデスゲームなどと、ふざけている。
……ふざけていると、思いたかった。
「くそっ……あの野郎、どこまで追ってくるんだよ!」
今、昇が必死に逃げている理由が、そしてデスゲームを認めざるを得ない最大の理由が、これだ。
昇は……目撃してしまった。人が、人を殺してしまう場面を。
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