第一章 中学校第一学年

ホームルーム:妹VSお兄ちゃんs'①

「もーーーーっ! いったい、どういうことっ!? 私、何も聞いてないんだけど!?」



 あの興奮状態の入学式から数時間後、私は高級ホテルの一角にあるレストランに来ていた。

 施設の外観だけではなく内装にもこだわり抜いた豪華なレイアウトが施され、全面ガラス張りの窓からは地上四十八階から見える空と光の景色が広がっている。

 とても中学生が入れるようなお店ではないが、入学式のお祝いということもあって、今日の夕食は高級ホテルの個室を貸し切り、兄妹でディナータイムを楽しむことになっていた。


 しかし、本日の主役であろう私は、これからの学校生活が気ぜわしくなることに大いに頭を悩ませ、そしてこの状況を作った兄たちに憤慨している最中だ。

 何せ、今日の職員発表。あろうことか、妹の学校に兄が教員としてやってくるなんて。

 しかも、入学式後の学級活動で時間割と教科担任が書かれたプリントを見た時は、声を出すことも忘れるくらい衝撃を受けるはめとなった。


〈一年三組 教科担任一覧〉

 国語 王番地 きり

 数学 王番地 はる

 英語 王番地 かおる

 理科 王番地 あきら

 社会 王番地 れい

 体育 王番地 ゆう

 音楽 王番地 そら

 美術 王番地 ゆかり

 技術 王番地 あおい /家庭科 小林 みどり

 *なお、技術と家庭科は隔週で交互に行うこととする。


 教科担任名は、『王番地』だらけ。もちろん、クラス中、仰天驚愕。

 唯一、家庭科のみ『小林』という名前で、学級担任の先生だった。私のクラスを受け持ってくれる、唯一の身内以外の人。


 ……それ以外は全員身内。あり得ない。

 心なしか、小林先生と一瞬目があった瞬間、何とも言えない苦笑いのような表情を浮かべていた。


「ほんっと、信じられないっ! どうりで、いつもだったら誰が出席するかで揉める学校行事、それも入学式なのに出席の話をまったくしないと思った!おかしいと思ったもん! しかも、何で私のクラスに先生としてお兄ちゃんたちが担当できるわけ!? 普通は外れるでしょ! というか、同じ学校に来ないでしょ! そもそも、お兄ちゃんたち教員じゃ無いじゃんっ!」


 豪華ディナーのフルコースが次々と運ばれ、今テーブルの上には目にも鮮やかなグリーンアスパラガスのクリームスープが温かい湯気とともに春の香りを部屋中に引き立てていた。

 しかし私はその香りでひと落ち着きすることもなく、興奮状態のまま非常識な兄たちに対してワンブレスもつかずに捲し立てる。

 だか、当の本人たちは何処吹く風。怒った私の顔を見てもにこにこと笑いかけて来たり、『そんな顔もたまらない』と訳の分からないセリフを言ったり。

 あまつさえ、写真撮影まで始めようとする者まで出始める始末だ。


「せっかく運ばれてきたスープが冷めるぞ。ほら、座りなさい」

 兄弟の中では、どんな場面でも常に冷静さを保って対応することができる夕お兄ちゃん。今の状況の中でもキリッとした表情を変えず、私を諌めようとする。

 でも、違う。諌めてほしいのは私ではなく、他の兄弟たちだ。


「怒ってる顔もかわい~ね、光ちゃん♡」

 いつも私と喋るときは、何故か見えないハートマークが語尾についているように感じられる空お兄ちゃん。流石に中学生にもなったので、そろそろその言い方はやめてほしい。


「薫、式での写真は取れましたか?せっかくの晴れ舞台ですから、記録はたくさん残して置かないと」

「バッチリ、OK! 光ちゃんの制服姿は、永久保存版だもんねっ!」

 兄弟の中でも、とにかく私の姿を記録に残したがる春お兄ちゃんと薫お兄ちゃん。写真も動画も、何ならボイスレコーダーまで。

 これまでの学校行事での記録以外にも、普段の日常の姿を撮ったり、新しい服を買ってきては家でファッションショーのようなことをして撮影したり。何なら盗撮まがいのことまでしてるんじゃないかと疑っている。


「今日は最高に、可憐で愛愛しくてキュートな姿でしたねぇ。あっ、『今日も』か」

「明日から毎日毎時間、光の生の制服姿を見て過ごせるなんて、最高だな」

「十分前にも同じ言葉を聞きましたよ、霧。あと、気持ちはわかりますが言い方はアレですよ、怜」

 兄弟の中では一番外見と内面がマッチングしない、霧お兄ちゃんと怜お兄ちゃん。脳内が毎回パニックなるからやめてほしい。

 そして、そんな兄弟の中で最もツッコミ役が多い紫お兄ちゃんが、恍惚の表情を浮かべている二人に対して今回も比較的冷静に切り込んでいる。表情はその二人とまったく同じようにニヤけているが。


「これ、美味しいよ?光りんに食べさせてあげるね、ア~ン」

「あっ、ずるいぞ!オレのもやるよっ!」

 兄弟の内、最もマイペースに自分の独自路線を突き進む明お兄ちゃんと葵お兄ちゃん。いつも私は自分のペースをかき乱されている。今回も、そう。

 誰も彼も、話を聞いてくれない。いつもは冷静沈着で何事にも動じないはずの兄たちが、私が絡むと途端におかしくなる。


「〜〜もーーーーッ! ヒトの話を聞いてってばっ!! 私を何だと思っているの!?」




「「「溺愛している妹」」」




 溺愛中毒とは、まさにこのこと。

 今日も、お兄ちゃんs'には勝てません。


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