侍ガールは今週も逢瀬を重ねる

@asashinjam

魔王なるものを倒しけり

「長浜の子、 永子よ、 お主は自身の夫を殴り倒し

鼻を圧し折った、 これに関し弁明する事は有るか?」

「在りませぬ、 私の夫、 となった男は

我が家を侮辱した故に誇りを守る為に殴ったに過ぎませぬ」

「相分かった、 しかしながら其方の夫は身分高き男

その男を殴った罪は非常に思い、 其方を流刑とする」

「かしこ参りました」


―――――――――――――――――――――――――――――


「・・・・・」


長浜ナガハマ 永子ハルコはベッドで目を覚ました。

彼女が目を覚ました場所は彼女に与えられし離宮ニグレドの宮。

この広い宮殿の寝室にて彼女は目を覚ました。


「・・・・・」


彼女は起き上がり、 ベルを鳴らした。

ベルを鳴らすと外から二人のメイドが入って来た。


湯浴み風呂朝餉朝食

「「はい、 かしこまいりました」」


二人はテキパキと準備を行い浴場と朝食の準備を始めた。

ハルコは汗を流し、 朝食を食べ終わると勉学に勤めた。


「おはようございます、 ハルコ様」


ハルコの従者であるシオンがやって来た。

8歳の子供ながらも王室の血を継ぐ彼は所作も完璧だった。


「おはよう、 シオン」

「今日も勉学ですか? 熱心ですね」

「いい加減断りの手紙を自分で書きたくてね」

「断りの手紙・・・御婚礼の話ですか?」

「その通り・・・やになるよ」

「仕方ないですよ、 貴女は世界を救った英雄ですから」


ハルコは夫を殴り流刑になったがその途中に異世界の召喚された。

異世界のサファイア王国で召喚された彼女は一月足らずに世界中を巡り

四天王を倒して魔王を討伐したのだった。


「大した事ではない

私の居た世界では既に宿儺すくなと言う大蜘蛛を倒し国を作った

此方の世界の魔王とやらが私の世界の宿儺に当たる者ならば

宿儺を倒した者の子孫である我々には単なる獣に過ぎん」

「凄いですね・・・でもそんな貴女に大勢の男性が求婚するのも無理ない話ですよ」

「だからと言って順番が可笑しいだろう、 いきなり贈り物等はしたない

丁重に送り返すのが筋と言う物だろう」

「勿体無い・・・王家でも珍しい大きな宝石が山と届いていたじゃないですか」

「お前達は過剰なんだよ、 料理も装飾も

下卑ている位の輝きの宝石いしなど初めて見たわ」

「綺麗だと思いますけどねぇ・・・

でもハルコ様の評判はますます上がっていますよ」

「そうなのか?」

「お淑やかだと評判ですよ」

「寧ろ贈り物を受け取ったら淫らな女だと思われるだろう」

「私だったら受取りますね」


メイド長のジェットが現れた。

黒髪長髪長身眼鏡の美人である。


「おやジェットさん、 意外ですね

貴女はお淑やかだと思っていましたが・・・」

「お淑やかでも貴女が送り返した宝石一つで文字通り小さな国を作れる位の

価値があるのです、 送り返すのはお淑やかを通り越して頭が可笑しいかと」

「あの宝石いしにそれだけの価値があると?

それこそ頭が可笑しいでしょう」

「・・・前から気になっていましたが私にはもっと雑な言葉遣いで結構です

王宮からの派遣ですが私は貴女の従者なので」

「貴女の年齢は?」

「18です」

「私は13です、 裳着もぎ

即ちこの世界で成人を迎えていますが貴女の方が年長ですし敬うべきかと」

「13で成人・・・世界が違えば常識が違いますね」

「寧ろ同じ方が怖いですよ」

「そうですね、 所でハルコ様

貴女が贈り物を送り返している事を知った貴族の男子の中には

考え直して手紙だけを書いている方々が居ます」


そう言って5つの封筒を取り出すジェット。


「御覧になりますか?」

「・・・・・」


封筒を受け取るハルコ。

その内の3つをジェットに返す。


「宛名すら見ずに返すのですか?」

「それは論外ですよ」

「論外って・・・何故?」

「紙質が悪い」

「質が悪い、 ですか?」

「えぇ、 これこそ重要な所でしょう

しかしながらコレは恋文、 と考えていいのですかね?」

「恐らくは」

「では読んでみますか・・・」

「では私は失礼します」


ジェットは立ち去った。


「・・・・・・・・・・」


ハルコは手紙を読み進めて見た。


「・・・・・シオン」

「はい」

「この文章の中に黒豹ブラックパンサーという表現が有るがコレは一体?」

「黒い大きい猫の様な猛獣です」

「黒い猫の猛獣・・・想像がつかないな」

「珍しい猛獣ですから」

「ふむ・・・・・白雪姫ヶ岳プリンセススノーホワイトと言うのは?」

「白い山に万年雪が積もっている、とても美しい山です」

「うぅむ・・・・・」


頭を悩ませるハルコ。


「知らない単語が多くて良く分からん文章だ・・・」

「魅せて頂いても宜しいでしょうか?」

「構わない」

「では失礼して・・・」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

前略、 初めまして、 私は白樺ホワイトアッシュの森に

居を構えるバイオレット伯爵の長男アッシュと申します

この度は貴女への想いを筆に載せて思いを伝えようと思います。


過日の戦いから貴女を見てずっと忘れられません。

貴女は星々の海スターオーシャンを走る

黒豹ブラックパンサーの様に駆け回り

魔の者達を次々と葡萄酒ワインの海を作るが

如くに打ち払い続けながらも

貴女の白雪姫ヶ岳プリンセススノーホワイトの様な

白く美しい体に心奪われました。


是非とも私の妻になって頂きたく思います。

敬具

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「・・・・・貴女の美しさについて称える文章ですね」

「ふむ、 だがしかし知らない言葉を並べ立てられて少々

意味が分からず困惑するな・・・」

「・・・一度会ってみてはいかがですか?」

「そんなはしたない真似出来るか」

「いやいや、 婚約前にデート、 つまり逢瀬を重ねる事は

この世界では一般的ですし

何より白雪姫ヶ岳プリンセススノーホワイト

バイオレット伯爵の領地に有ります

貴女はこちらの物を知らないので知っておくのも良いかと・・・」

「ふぅむ・・・」


考え込むハルコ。


「ならば返事を書いてみるか、 添削を頼む」

「了解しました!!」

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