第31話 鍛冶屋
キメラを倒してから数日後、日が暮れたあと俺の自宅にミレイユとルシェがいっしょに尋ねてきた。
「えっ。ふたりは知り合いなの?」
「そうだよ~。でも、いっしょにきたのは偶然なんだ。幼馴染なんだけど最近はぜんぜん会ってなかったからね~」
「ルシェさんに会ったときは驚きましたけど、目的地まで同じだったとは……」
「確かに偶然にしてはすごすぎるな。ふたりとも、また石を壊してほしいってこと?」
「まぁ立ち話もなんだし、入ろうかっ」
「それ俺のセリフじゃ……」
ふたりを家の中へ招き入れ……というよりは勝手にあがられた。
「今日はリヴィちゃんに用があってきたんだ~」
「あ、私もです。またいっしょに冒険したいなと思って」
「そういうことか。でも、毎日ここにきているわけじゃないよ。この前のキメラ戦はかなり体力を消耗していたみたいだから、たぶん今日もこないんじゃないかな」
興味津々で聞いてきたミレイユに先日の冒険を話、特に演奏魔を中心に話していると、ドアがノックされた。
「あら、先客がいたのね」
そこには、すっかり元気になったらしいリヴィの姿があった。
「やっほ~。さ、あがってあがって」
「……」
自宅のようにふるまうルシェに呆れながら、各々がソファやイスに腰かけた。
そして、いつの間にか増えた仲間たちと一緒に今夜の冒険の計画を立てることに。
ふと、ただの成り行きだけど、美少女に囲まれて異世界生活を送る、という当初の夢は叶ったな、なんてことを思った。
あとはチートスキルさえあれば完璧なのにな……。
「ダンジョンの前に、昨日のキメラがドロップした王のたてがみについてなんだけど」
「王のたてがみ! どこで手に入れたんですか?」
リヴィが取り出したアイテムを見たミレイユが驚いた。
「そんなに珍しいものなのか?」
「最上級クラスの素材ですよ! 最高ランクの武器を作るのに使うんです。もしかして、それで鎌を新調するんですか?」
「そうしたいのだけれど、三人でキメラを倒したから私だけのものじゃないのよ」
「なんだ、そんなことなら俺はいらないからふたりで分けてくれ。どうせ武器なんか作っても使えないし」
「私も、王のたてがみは別にいいかな~。それで武器作るには他の素材が足らないし、売るのもなんか面倒くさいからね~」
この展開は予想していなかったのか、リヴィは意外そうな、拍子抜けしたような表情を見せた。
「……本当に、いいの?」
「もちろんだよ~」
「三人でやったっていっても一番の功労者はやっぱりリヴィだからな」
「そういうこと~」
「ありがとう」
リヴィは柔らかい笑みを見せ、大事そうに王のたてがみをジッパーに収納した。
「そうと決まったら、早速鍛冶屋へ向かいませんか? もしすいていたら、その日のうちに完成するかもしれませんよ! こんなにランクの高い武器を見るのは初めてなのでワクワクします!」
「よし、いこうか」
この町にも鍛冶屋はあるが、今回作る武器のランクが高すぎて取り扱えないらしい。ポータルを使って、ダンジョン終わりによくリヴィとご飯を食べにいく港町のザラミルへ飛んだ。
「いらっしゃいませ!」
鍛冶屋というから職人系のガタイが良い大男がいるのかと思ったが、小柄でかわいらしい女の子が迎えてくれた。
リヴィは昨日キメラを倒して手に入れた素材を使って新しい鎌を依頼した。
ジッパーから取りだした大量のオリハルコンと多額のお金は俺たちの度肝を抜いた。リヴィはこのために鎌を新調せず素材とお金を貯め続けていたそう。
「こんなにも光栄なお仕事、すぐにでも取りかかりたいんですけど、今はちょっといそがしくて……。早くても一ヵ月後の完成になっちゃいますけど、だいじょうぶですかぁ?」
「ええ。よろしく」
「かしこまりました~!」
リヴィ以上に残念そうにしているミレイユもそうだが、俺はリヴィと鍛冶屋がやり取りをしているあいだ、何か考え込んでいる様子のルシェが気になった。
「王のたてがみは半分もあれば足りるので、残りは今お返ししましょうか?」
鍛冶屋によるとキメラがドロップした素材がかなり大きいものだったみたいで少し余った。それは鍛冶屋に預けておいて、最初に王のたてがみを使う武器の素材を集めた者が使える決まりにした。
「それじゃあ、ダンジョンにいくか?」
「ちょっとまって~。その前に、ソウタくんの死神化を鑑定してもらおう」
「死神化を鑑定って、役所で?」
「そうそう」
ルシェに提案された通り、俺たちは役所に向かった。なかでもミレイユは死神化した状態で鑑定することに強い興味を持っているようで、興奮した様子だった。
役所に着くと、いつもの受付嬢がいつもの受付に座っていた。
「三人も美女を引き連れてこられましたか。さすが転生者様でございます」
「はは……。えっと、ステータス測定をお願いしたいんですけど」
「かしこまりました。こちらへどうぞ」
いつものステータス測定の部屋へ通された。
死神化した状態で測定をしてもらうと、穴掘りスキルが威力をそのままに、死神のスキル値に変わっていた。
単純にリヴィの魔法が強いから強いのかと思ったが、これの影響もあって強大な威力を持つことができていたらしい。
「死神の力に加えて、穴掘りスキルの破壊力……。とてつもない力を持っているにしては、クラーケンと戦ったとき苦戦したわね。もう少し楽に勝てても良かったようなものだけど」
「これは推測の域を出ませんが、作業用のツルハシでは強大な力を持て余してしまっている可能性がございます」
「そういうことなのか。でも、作業用じゃないツルハシなんてあるのか?」
「ないと思います! 武器としてツルハシを使うひとなんて、ソウタさんぐらいじゃないですかね?」
「うん、ソウタくんぐらいだよね~。鍛冶屋さんに頼んで、オリハルコンでツルハシを作ってもらったらどうかな?」
「良い案かと存じますが、恐らくオリハルコン程度ではまだ足りないかと。様々な経験をしたことで、以前よりもツルハシの熟練度や穴掘りスキルの威力がひとつ上のステージに上がっています。これほどまでの威力を死神の力とあわせてコントロールするには、滅黒石レベルの素材が必要になってくるかと存じます」
「滅黒石? なんかかっこ良さそうだな」
「王のたてがみと同じ、最上級クラスの素材です!」
「でも鉱石ってことは、鉱脈を掘ればいいんだろう? あんな凶暴なキメラを倒さなくていいぶん、楽そうだけど」
「滅黒石は本当に手に入らない。正直、私も新しい鎌にはオリハルコンではなくてそちらの素材を使いたかったの。でも無謀すぎて諦めたわ」
「そうなのか……。まぁ死神化を完璧にコントロールするのは無理だとしても、ツルハシでダンジョンに挑戦する以上は少しグレードアップさせたいな」
「いいね~。じゃあ、今夜は素材集めにいこうよ~」
ルシェの意見に反対する者はいなかったので、俺たちはツルハシを強化するために素材が手に入るダンジョンに向かった。
「どうぞお気をつけて」
受付嬢に見送られて役所を出発した。
今夜もきれいな月が出ていた。
街の外へ出て夜風がルシェの髪を揺らしたとき、異様に心がざわついた。
……この不安は、一体どこからきているのだろう。
何か、見落としているのだろうか。
「あっ……」
最近は以前ほど人を疑わなくなったせいだろうか。気づくのが遅れてしまった。
「……なにか引っかかると思ってたんだ。その原因が今ようやくわかったよ」
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