第27話 ファイアーツルハシ

ルシェに場所を聞いてジッパーで移動した先は、確かに身を切るような寒さだった。


見渡す限り一面が氷で、月光を反射してキラキラしていた。


ルシェの指示は的確だったようで、ダンジョンの入り口には間もなく到着した。


珍しくリヴィに急かされて岩を破壊して、ダンジョンの扉をくぐると、そこは神殿のような、厳かな建物があった。


「扉をくぐった先が建物なんて、変な感じだな」


「橙色の扉は何もかもが特別よ。内容もごく簡単なものもあれば、上級者でもきついほど難易度の高い場合もあるから、気を引き締めて」


「わかった」


長い階段を上った先で、神殿の扉をくぐった。内部も神殿のような造りになっていて、今までのダンジョンとは異なり人工的な雰囲気だった。


「早速おでましのようね」


リヴィの視線を辿ると、西洋の騎士を思わせるモンスターが二体、こちらに対して剣を構えていた。


リヴィの攻撃に備えて穴掘りスキルを発動しようとしたところ、背後から光の弓矢が二本放たれ、騎士の頭部を貫いた。二体はたちまち崩れ落ちて消滅した。


振り返ると、自身の体ほどの大きな弓を構えたルシェの姿があった。


「ここのモンスターは弱いから安心して~。ちゃっちゃと最深部までいって、お宝もらって帰ろう~」


遠距離から敵を攻撃できるのであれば、リヴィとの相性は良さそうだ。


しかし、俺との相性は最悪だろう。それは戦闘スタイルやスキルの問題ではなく、俺の気持ちの問題だ。


このひと、常に俺の背後にいるってことは、その気になればいつだって俺のことを射れるということだ。さっきの騎士みたいに。


お宝と聞いてワクワクしていたが、ものすごく憂鬱な気分になってきた……。


「ソウタ、どうかした?」


遠くのほうでリヴィの声がしたと思ったら、ふたりは既に次の部屋に入ろうとしていた。


「ああ、ごめん」


ふたりのもとへ駆け寄り、次の部屋へ入った。


次も騎士型のモンスターがいたが、先ほどは剣を構えていたのに対し、今回は杖を持っていた。


「私もこのモンスターは初めて見るのだけれど、同じ種類でも違う武器を使うのね」


「そうみたいだよ~。剣士、魔法使い、僧侶、タンクは確認済みだよ」


「剣士と魔法使いはわかるけど、僧侶とタンクってなんだ?」


ルシェは弓を引いて狙いを定めながら、俺の質問に答えてくれた。


「僧侶っていうのは、主に回復魔法を使う魔法使いのこと。タンクっていうのは、盾を装備して味方を守る役をする勇者のことだよ」


説明しながらも寸分の狂いなくふたたび頭部を貫いたルシェ。


「そうなんだ。ありがとう」


「いいえ~」


次の部屋では、盾を装備した騎士が現れた。さっき言っていたタンクというやつだろう。


俺は多少の気恥しさを覚えながらもルシェにお願いごとをした。


「あ、あのルシェ……」


「ん~?」


「その、さっき庭で話した、ファイアーツルハシを試してもいいかな」


「あはは。本当にやるんだ。いいよ~」


ルシェが俺のツルハシに触れた。すると、持ち手以外の部分が赤く光った。


「よし」


「がんばって~」


ツルハシをモンスターに打ち付けた。


攻撃は盾に阻まれたが、炎の力を信じて力任せにツルハシを押しつけた。


「おらぁぁああああっ!」


じゅうっと焦げるような音とにおいがするだけで、何も起こらず気まずい時間が流れた。


「ん……」


諦めて一歩下がると、ちょっと盾に焦げ目がついただけだった。やっぱり死神のエンチャントじゃないと効果がないのか……。


そんなことを考えているうちにも、盾の騎士二体は、がら空きの頭上から振らされた光の矢によって崩れ落ちていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る