第5話 土中の牢獄
「はぁ……はぁ……クソっ!」
どれくらいの時間掘り続けただろうか。地上を目指しているつもりが、一向に太陽を拝むことができなかった。スキル使用による特有な疲れなのか、肉体的な疲労感だけでなく、頭もずっしり重くなってきた。
一旦もといた場所へ戻って休みながらひとが来るのを待つことにした。
「おいウソだろ……」
しかし、あろうことか元の場所がわからなくなってしまったのだ。
『最悪だ……。知らないうちに山にでも入って、アリの巣みたいに地中に迷路を作っちゃったのかもしれない』
俺は自分の愚かさを呪いながら座り込んだ。
このまま飢え死にしてしまうのだろうか。なぜこんなことになってしまったのか。そんなネガティブな感情だけが俺の頭のなかをひたすら渦巻いていた。
『異世界で命尽きても、また転生できるのかな……』
そこへ、なにか物音が聞こえてきた。
俺は全神経を耳に集中させて音を逃すまいとした。今度はさっきよりも明確に音を捉えることができた。それは何かの足音だった。俺は最後の力を振り絞ってその音のするほうへツルハシを打ち続けた。
突如、すさまじい日光が穴のなかへ流れ込んできて、あまりの眩しさに目が焼けた。
「ぐぁっ!」
その痛みは強烈で、両目だけでなく頭全体に激痛が走る。その場にうずくまり、ただ痛みに耐えることしかできなかった。
周りで何か音がする。
『だ、誰かいるのか?』
痛みにもだえていると急に襟を掴まれ、穴から引きずり出された。
「あ、ありがとうございます」
まだ痛みは引かないが、振り絞るように礼をした。しかしその言葉はむなしく宙を漂うだけだった。
何かがおかしい。何とか目をあけると、そこには大きな人影のようなものが立っていた。よく見るとそいつの顔には目が三つあり、肌は青色で、木をこん棒のようにして握っていた。
「あっ……」
突然の出来事に、思考も動作も停止した。
そんな俺を容赦なく、こん棒で二の腕付近を振り抜いてふっ飛ばした。
「ぐっ……!」
今まで生きてきて、これほど痛い思いをしたことはなかった。だが、この衝撃で目が覚めた。
『逃げないと……!』
殴られた左腕をおさえながら懸命に駆けた。
「くそっ!」
そんな俺の行く手をカカシのようなモンスターが立ちふさいだ。
別の道から逃げようとしたところ、そのカカシが電撃の球体を飛ばしてきた。
電撃は俺の左胸を直撃し、一瞬で全身をめぐった衝撃のせいで息ができず、声すら出せないまま膝から崩れ落ちるように倒れた。
「……かっぁ……」
体がしびれて動かず、地面に伏せた状態のまま立ち上がることができない。
モンスターに囲まれたのが足音と声でわかった。
『こんな終わり方なのか……?』
薄れていく意識。
そんななか、何かを切り裂く音がかすかに聞こえた。
何かが俺とモンスターのあいだに立ちふさがったのが、かすかに開いたまぶたのすきまから覗いた。
身の毛もよだつようなモンスターの叫び声を最後に俺の意識は途絶えた。
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