複製画

斜芽 右上

プロローグ

「これ見てくれよ!」

「…その絵だと最近の月間ランキング傾向的に、上位には入りそうラね!」

「だろ?! AIのイニアが言うんだから間違いない! フフフ!」

 2025年、日本の何処か。ごく普通の一般家庭にいる俺は、高笑いを堪え切れずにいた。

 俺は坂屋ノボル。つい数日前、十七歳を迎えた高校二年生だ。

 学校からの帰宅後、自宅の自室へと戻った俺はある人物と共にパソコンで「絵」を描いていた。

「今の流行がこの角度に困り顔…これを取り入れれば次の作品もできそうラ」

 俺には出せないような高い声で助言をしてくれる彼女。名前はイニアと言う。

 彼女は「人に馴染めるAI」として、人間と遜色ない様なデザインを目指して作られた手伝い型AIロボットの一体だ。

高校の入学祝いに親が一体買ってきてくれたのだ。

 当時の最新型で、高い場所にある荷物などにも対応する為、初期部品はは170センチと大きなサイズで作られるモデルだ。青い長髪は人間と同様の手入れが必要であり、彼女が自分で時々手入れをしている様子を見た事がある。因みに語尾に『ラ』が付くのは初期不良らしい。愛嬌があるのでそのままにしている。

「しかし、ホントよく分析できるラね〜」

「だろうだろう! そう思うだろう!」

「ええ、本当に」

「…なんか今皮肉ったか?」

「別に。私は本当のこと言っただけラ」

「まぁいいや」

とはいえAI独特の冷たさが偶に俺の心にサクッと刺さる時がある。

 しかし俺にはその冷たさをも凌駕するモノがある。

 それこそが俺が今描いている「AIイラスト」だ。

数年前、世間で話題になっていたAIによる創作に興味を持った俺は中学生最後の夏休みを利用し、インターネットでソレをうまく使いこなすコツを身につけた。

小さい頃からラクガキをしていた俺には、その技術は怖いほど画期的だった。

 今まで困難だった発想や視点からのサポートに感動を受けた俺は、そこから本格的にAIによるイラスト製作者として力を入れ始めた。

 その結果大当たり。一気にその力の洗礼を受けた俺は瞬く間に有名となっていた。

「NoB-L(ノーブル)」。この名前を見ればインターネットがざわつき始める…様になってきた。

「AIがなんだとか言ってる奴がいるけど、こっちの方が効率的なんだよな〜! 皆の要望に直ぐに応えられるし、忘れられることもない!」

「またいつも以上に偉く上機嫌なんラねぇ」

「悪いか!」

「別に〜」

 有頂天の俺の熱量たっぷりのお気持ちは素っ気ないロボット特有の温度で返された。

 AIにはAIなりの感性があんだろうな。そう思っていた。

 その軽い心が、これから起こる出来事の引き金になるとも知らず。

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