日常に戻る時
おかえりなさい!旦那様!奥様!と帰ると、嬉しそうに屋敷の皆が出迎えてくれる。
「変わりはなかったか?」
アデル様は執事に尋ね、ハイと返事を聞くと、すぐに身を翻し、騎士団、傭兵団のところへ行ってしまう。
「少し休まれればいいのに……」
そう屋敷の者が呟くが、言ったところで、仕事へ行ってしまうわよねと私は嘆息する。
「えーと、皆にお土産買ってきたの!」
私は荷物をほどく。キャー!わー!と留守番組の人達は歓声をあげて盛り上がる。
「可愛いチョコレート!」
「このお酒もらって良いんですか!?」
「ストールの手触りフワフワ!」
「耳当て付きの帽子もあるぞー!」
孤児院では1年に1度、子供達がプレゼントをもらう時がある。その時のように皆がワクワクして物を見ている。
子供達は元気にしてるかな?素敵なプレゼントはもらえた?風邪などひいてないかしら?アデル様にお願いして、様子を見に行きたいな。
「奥様、ありがとうございます。滅多に王都へ行かないので、嬉しいです」
「すごく喜んでもらえて、私も嬉しいわ」
一緒に行っていたメイドのアンリがにっこり笑って唐突に言い出す。
「奥様のそのネックレスお似合いでしょう?」
『まさかアデルバード様が!?』
そうなのよー!とアンリがバラす。ざわめく使用人たち。
「今まで、アデルバード様が他の方にプレゼントしたのを見たことあるか!?」
「いや!?知らないぞ!」
「そもそも他人に興味を示されたこともあっただろうか!?」
「奥様はすごすぎる!」
……思ってた反応とな゙んか違うわ。驚愕する人達の反応は懐かない猛獣をよく手なづけた!というようなものだった。
私とアデル様はそれぞれに別々に過ごす生活に戻った。でもなんとなく自分の部屋が今までよりも広く暗く感じ、寂しい……と呟いてしまった。
今、アデル様はどうしているのかしら?と、ふと考えてしまい、気付けばアデル様の部屋のドアをノックしていて、大胆な行動をとっていな私だった。緊張し、ドキドキする。
「ニーナです。入ってもいいですか?」
「別にかまわないが、なんだ?どうした?」
扉をそーっと開けると、暖炉の前でじっと火を見つめていたのか、椅子に座ったままこちらを向いた。
「特に用事はないのですけれど、なんとなく」
「なんとなくって……なんだそれ!?」
フッと笑いそうになるアデル様。だけどかすかに唇を動かしただけで、止める。まるで、自分に楽しむな笑うなと言い聞かせているようだった。
「ちょっと顔を見て、会話を楽しみたいと思ってしまったんです。ダメでしょうか?」
「それ何が楽しいんだ?」
「別に良いんです。アデル様が暖炉の火を見つめているなら、私も一緒に見つめるまでです!」
「勝手にしろ」
ボソッとそう呟くアデル様は再び静かになる。私も椅子に腰掛ける。
「あの……孤児院の子達に会いたいのてすが……」
「それは無理だな」
冷たく言い放たれてしまう。
「ニーナは魔物に襲われて死んだことになっている。そう商人に伝えた。孤児のニーナはこの世に存在しない。そのほうが身元がバレないからな」
「そう……なんですね」
パチパチと爆ぜる暖炉の炭。赤やオレンジ色の炎を二人でしばらく静かに見ていた。
もうあそこに生きていたニーナがいないと思うと……なんだか寂しいような悲しいような気持ちになった。子供達も私が死んだと思っているのかしら?泣いていないかしら?
そうしんみり考えていたはずだったのに、部屋は暖くて、ウトウトといつの間にか寝てしまっていた。
朝には自分のベッドにいた。どうやら……部屋までアデル様に運ばせてしまったらしい。『また寝てた!?なにやってるの……私は!?』と思わず頭を抱えた。子どものようにぐっすり寝てしまう自分に呆れてしまう。
「昨夜はお手を煩わせてすみませんでした」
私が謝るとアデル様は手袋をはめつつ、窓の外を向きながら言った。
「別に構わない。ニーナの寝顔はなんだか安心するからな」
え?と聞き返すと、素早く扉から出ていってしまった。
アデル様は前より自分の思いを口にしてくれたり、近づくことを許してくれてる。そう私は感じた。
それが嬉しくて、時間がある時はアデル様の部屋に顔を出して、二人でゆっくりお茶を飲んだり本を読んだりするようになった。そこに会話はなくとも、一緒にいる時間がゆったり流れていった。
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