秘密の部屋
厳しい寒さがやってきた。
「奥様、よく動きますねぇ」
「動いていたほうが、体は暖かくなるもの」
凍っている井戸のバケツに触れて、熱を送る。この微妙な火と風の魔法のかけあわせが、なかなか難しい。燃やさないよう気をつける。
さらに凍ってる食料庫の鍵も溶かす。水魔法と火魔法のかけあわせ。
「奥様がきて、便利になりましたー。すいません、なかなか乾かないので、洗濯物の乾燥もできますか!?」
「困った時の奥様ですね。あっ!こっちの暖炉に火をお願いできますかー?」
……なんか便利な道具扱いになってる気がするわ。ま、まぁ……良いよね。孤児院の時はほぼ1人で、いろんなことをしてきたので、今はメイド達とこうやってワイワイ楽しく………いや、待って!?私の役目はそういえば仮の妻!ワイワイ楽しくやってる場合ではない!?
「でもすることないものね……」
妻として特に何かを求められるわけでもなく、しなさいと言われるわけでもない。
奥様ー!次、こっちの玄関の入り口の階段の氷を溶かしてくださーいと呼ばれる。
ハイハイと便利屋ニーナは行くのだった。
屋敷の中も気温がグッと下がって、廊下で吐く息が白い。窓から見える景色は雪で真っ白。
こんな日でもアデル様は魔物討伐へ行ってる。たまに休みたいとか思わないのかな?不平不満言っている姿を見たことない。
ボーッとしていたら、西の端の部屋まで来てしまった。
「この部屋……」
入ってはいけないと言われた部屋。足が思わず止まる。扉の゙向こうには何があるのだろう?
アデル様が大事にしているもの?それとも見られたくないもの?なにかしら……気になりだすと気になるもので、屋敷の皆にも聞いてみる。
証言その1。メイドのアンリ。
「誰一人、入れてもらったことはありません」
「掃除とかはどうしてるの?」
アンリはものすごく微妙な顔をした。
「アデルバード様が自身でされてるそうです。とにかく入るなということですし、あの部屋に居る時は声もかけるなと言われてます」
証言その2
「はあ?放っておくのがいいと思うけどー?男には一つや二つ、奥さんにだって見せなくない物ってあるだろ?」
……それってなに?と聞くと、ラズは聞くなよぅと顔を赤くして、さ!仕事をしよう!と調理場へ帰った。
証言その3
剣と魔法の授業が終った後、ジノに聞いてみる。
「アデルバード様が秘密部屋を?さあ……なんなのか知りません」
本当に知らないようだった。
皆に、知らないのね……すごく気になる。取っ手に手を知らず知らずのうちにかけた。施錠の魔法ならば、もしかして私の中にある、セレナの記憶の知識で解錠できるかもしれない。
……グッと力を込めて。
「なにしてるのかしらね……私は……やめとこう」
そう言って、クルッと踵を返した。アデル様が見てほしいとは思わないなら、そっとしておくべきね。
私に見せてくれる時はきっと信頼を得たとき。扉を自然に開けてくれるまで待とう。
そう思い、扉を背にして歩いていった。
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