食事を一緒にしてみようと試みる
アデル様と私は別々に過ごしている。ホントに無関心。契約だけの夫婦。顔を合わせることもない。さすがに私を連れてきたこと覚えているわよね?と不安になってきた。
私は孤児院では、いつも賑やかで、皆とご飯を食べていた。ここで豪華で美味しいものを食べたところで、なんだか味気ないのだった。
アデル様と一緒にご飯を食べても構わないかしら……一人でご飯食べるより良いわよね?迷ったけれど、頼んでみることにした。
行動を起こす力が今の私にあるはず。大人しい王女様じゃないし、待ってるだけや人任せでは何も進まないと自分を励ましてみた。
……でも冷たい態度をとられるかもしれないと覚悟しておこう。
「おかえりなさい。アデル様」
コートを脱いで、私に渡そうとして、アデル様は手を止め、メイドに渡した。
「なにをしているんだ?メイドではないんだ。好きにしてていい」
「お仕事から帰ってきた時に、お迎えするのも妻の役目かな?と思いまして……」
「そんなことしなくていい。何か用なんだろ?なんだ?」
無機質なガラス玉のような紫の目は揺らぐことがなく、私を見る。見透かされてるような気持ちになる。
「あの……一緒に食事をとってもかまいませんか?……私、1人で食べる食事は慣れてないのてす」
「そんなことか。かまわないが、オレと食べても楽しくないと思うぞ」
そう言い残して、さっさと部屋に着替えにいった。食事、意外とあっさりオッケーだった。言ってみるものね。
食事を用意するメイドにはめんどくさそうな顔をされたけれど、仕方ないわ。
ロウソクを灯し、静かな食卓……には豪華な食事が並んでいた。あれ?これ、私が食べてる食事より豪華な気がするんだけど?3品ほど多い?
メイドが私から目をそらす。……なるほど。私の食事を質素なものにしていたらしい。嫌がらせの類だったのかしら?でも私にしたら、十分豪華だったので気づかなかった。そのことを口には出さず、アデル様と食事を続ける。
「アデル様はどんな仕事をされてるんですか?」
「魔物の討伐だ」
「好きな食べ物は?」
「なんでも食べる」
「ご両親は?」
「父は亡くなった。母は都にいる」
「ご兄弟は?」
「いない」
私の質問に義務的な感じで答えていく。
シーンと静かになり、食事をとる音だけになる。
これは私の負け!?負けてる!?
勝手に勝負にしている私だった。これでは楽しい食事には程遠い。一人で食べてるのと変わらない。
空気が重い。打開策を考えようとお肉をナイフで切り、一口食べて、モグモグする。
少しして、意外にもアデル様から声をかけてきた。
「家庭教師から、おまえの教育はあまり必要ないと言われた。確かに先程から食事のマナーを見ていても、悪くない。むしろ手慣れている。なぜだ?」
「知識で補っているのです。私は本を読むのが好きでしたから」
ミランダに言ったことと同じことをアデル様にも言う。
「本……か。あまり教育が必要ないなら、時間をもてあますだろう。書庫がある。良かったら使え」
「良いんですか!?嬉しいです!」
これは嬉しかった。本は好きだし、夜の長い時間を潰すには読書は最適なことだと思う。私が喜ぶと、アデル様はなぜか気まずそうにフッと視線を外す。
「好き過ごせ……ただ、街の鐘が鳴ったら地下室へ走れ」
「地下室へですか?」
アデル様は魔物が来るからなとそう言うと、その後は再び、静かな食事に戻ったのだった。
そう言えば……私の前世であるセレナの時はこの世界に魔物なんて存在しなかった。いつから魔物が闊歩する世界になったのだろう?あの頃の戦争は終わっていた。だけど次の恐怖の対象ができていた。この世界に平穏な時はいつ来るのかしら……そんな複雑な気持ちを抱えて、アデル様の顔を見たが、こちらをまったく見てくれない私の仮の旦那様だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます