第2話 真・魔法少女誕生


 ベッドの布団にもぐり込んでしばらく震えていた魔法少女ぷりぷりプリンだが、お腹には使い捨てカイロを張っているし、厚手のコートも着込んだままだ。部屋の中はエアコンで暖房もしているので段々と暑くなってきた。自慢のピンクのかつらは布団にもぐり込んだ時に外れてしまっているので現在桃子の設定上ではメタモルフォーゼは解けている。


 布団から出たいけど出るのは怖い。


 それでも勇気を出して被っていた布団をはだけた。


「ふー。暑かった。

 さっきはびっくりしたけど、アレってきっと空耳よね。ゴミがしゃべるはずないものね」


 少し落ち着いたら尿意を催してきた。


「まだちょっと怖いけど、家の中ならだいじょうぶ」


 桃子は自分に言い聞かせ、コートを脱いで部屋の鍵を空け、階段を下りて1階のトイレに入ってすっきりした。トイレの中でさっきのは風の音かコスチュームがこすれた音だったと頭の中で折り合いをつけた。




 部屋に帰った桃子はすっかり立ち直り、パジャマに着替えようとしたところ、ピンクのカーテン越しに声がした。


「ひどいじゃないか。この窓開けてくれる?」


 さっき声を聞いた時はものすごく驚いてしまったのだが、今回はなぜか平気で怖くはなかった。窓から聞こえてきた声がどこか動物アニメかなにかのキャラの声に似ていたからかもしれない。


 桃子は覚悟を決めてピンクのカーテンをおそるおそる開けると、窓の外にあの毛玉が浮かんでいた。部屋の明かりではっきり見えた毛玉には目と口と耳が付いていた。そのうえ、短いながらも手足も生えていた。よく見れば愛嬌があって可愛い。かも?


 何であれ、自分の部屋をのぞいていることにはかわりない。


「あんた、なに? レディーの部屋をのぞいていいと思っているの!?」


「ごめん。というか、驚かないの?」


「驚いたけど、あんたがそこにいる事実は変えられないじゃない」


「ごもっとも。のぞいていることは謝るけど、きみと話がしたかったんだ」


「謎生物がなんでわたしに?」


「ぼくは魔法少女の精霊。ぼくと契約すると本物の魔法少女に成れるよ。きみならぼくとの契約をオーケーすると思って」


「どうしてわたしなの?」


「きみぐらいの歳でその魔法少女っぽい格好を真面目にしてる子っていないんだよねー。変身した後の魔法少女の強さはその思いに比例するんだ」


「思いって?」


「魔法少女になりたいって思い。魔法少女なんだって思い。

 きみは心の底から魔法少女になりたいんでしょ?」


「う、うん」


「じゃあ、ぼくと契約しよう。

 精霊との契約には当然対価が必要なんだ。それは理解できるよね?」


「うん」


「でもだいじょうぶ。ぼくがきみに求める対価はただひとつ」


「なに?」


「魔法少女の格好で魔法少女になることだけ」


「それだけでいいの?」


「だれもそれだけは嫌だって断るんだけどね」


「そ、そうなんだ。

 それくらいなら契約してもいいわよ。

 でも、魔法少女になれば何ができるの?」


「変身すれば魔法はもちろん使えるし、体はきみの最盛期の姿にかわる。20年後変身しても最盛期の体を取り戻す」


「そうなんだ。

 ちなみに契約解除はできるの?」


「きみが敵と戦って敗れて死んでしまえば契約は自動的に終わる。死んだ後のきみを、きみの魂を含めてどうこうすることはない」


「ふーん。

 わたしから契約解除したい場合、解除できないの?」


「きみから契約解除したい場合は対価が必要になる」


「どういった対価なの?」


「そうだなー、きみが今着ている生コスチュームをぼくがいただくというのはどうだろう?」


「そんなのでいいの?」


「それで十分」


「あなたがわたしのコスチュームを何に使うのか分からないけど、それならいいわ」


「じゃあ、契約しよう。

 窓を開けてくれるかい?」


「うん」


 桃子は毛玉のためにすぐに窓を開けたやった。冷たい空気と一緒に毛玉あらため自称魔法少女の精霊が部屋の中に入ってきた。桃子はすぐに窓を閉めピンクのカーテンも閉めた。


 部屋の中に入った魔法少女の精霊は桃子のベッドの上で浮いている。


「それで、どうすればあなたと契約できるの?」


「『魔法少女契約に同意するか?』とぼくがきみにたずねるから、『同意します』と答えれば契約は成立する」


「なんだ、簡単なのね」


「あまり複雑なのはこのご時世だし好まれないんだ。本当はスマホのアプリ化したいところなんだけど、残念ながら精霊界にそういったスキルを持った精霊はいないんだよ。

 それじゃあ、

 魔法少女契約に同意するか?」


「同意します」


「うん。無事に契約できた。

 それじゃあ、魔法少女の特典を教えていくからよく覚えておいて。ぼくはこれからきみと一緒だから忘れても教えてあげるけどね」


「わたしと一緒って?」


「ふだんはこの部屋の中で、ぬいぐるみのマネをしておいて、きみが魔法少女に変身したら、元の姿に戻ろうと思ってる」


「それならいいわ。

 それで、魔法少女の特典って何?」


「まず、その衣装なんだけど、キーワードですぐに着替えることができるようになる。

 キーワードのお勧めは、『変身!』とか。

 そういえば、きみには魔法少女になった時の名まえってあるの?」


「魔法少女ぷりぷりプリン」


「いいねー。なかなかいい名まえだ。

 じゃあ、着替える時のキーワードは『魔法少女ぷりぷりプリン!』にするかい?」


「うーん、それもいいけど『メタモルフォーゼ』がいい」


「分かった。じゃあ『メタモルフォーゼ』で。

 元の服装に戻る時は『メタモルフォーゼ解除』だ」


「わかった。

 じゃあ試しに解除してみる。『メタモルフォーゼ解除!』」


 桃子の声と同時に、魔法少女ぷりぷりプリンのコスチュームが消えた。当たり前だが桃子は下着姿だ。目の前にいるのがただの毛玉なのでぜんぜん恥ずかしくはなかった。


「今度は『メタモルフォーゼ』を試してみるね」

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