魔法少女、ぷりぷりプリン。メタモルフォーゼ! 魔法少女に変身よ。

山口遊子

第1話 魔法少女誕生


 自称魔法少女ぷりぷりプリンこと桜野桃子は14歳。中学2年生。某有名私立女子中学校に通うごく普通のハイスペック美少女である。


 桃子の家庭は桃子のほか、両親と、同じ女子校の高等部に通う姉の4人家族だ。父親は都内の会社に勤めており、母親はローン返済のためパートで働いているごく普通の家庭である。ただ一つ異なっていたのは、桃子が魔法少女にあこがれていたことだけだった。


 物語はある冬の土曜日の夜。桃子の両親が東京のベッドタウンにローンで購入した一軒家の2階、桃子の部屋から始まる。



 時刻は午前0時。よい子はとっくに寝ている時間だ。桃子は午後10時にはベッドに入っていた。


 ジジジジジー。


 目覚まし時計の音が鳴る。ベッドから手を伸ばし、ベルを止め、桜子はすくっとベッドから起き上がった。


「出動時間だわ。行くわよ」


 記念すべき魔法少女ぷりぷりプリンの初めての出動だ。


「魔法少女ぷりぷりプリン、出動! メタモルフォーゼ!」


 メタモルフォーゼの掛け声と同時に、桃子はピンクのパジャマを脱いで、魔法少女のコスチュームに着替え始めた。


 まずはバトルスーツだ。


 もちろん魔法少女ぷりぷりプリンのバトルスーツなので、ピンクを基調としたミニのワンピース。スカートのすそにはヒラヒラがちゃんとついている。スカートの丈は膝上何センチというより股下から測った方が早い。もちろんぷりぷりプリンのパンティーは見せてなんぼのものなので、桃子は今はいているパンツの上からピンクのアンダースコートをはいた。


 このバトルスーツは小学校6年生の時、夏休みの自由研究としてお母さんと一緒に製作したものだ。桃子はデザインだけを担当し、お母さんが夜なべをして縫い上げた逸品だ。当時、将来を見越して胸元は大きめに作ってもらったのだが、それから2年ちょっとの歳月を経た現在、不思議なことにまだまだ胸元には余裕がある。そのままだと胸元がヘナヘナになってしまうのでワタを詰めてカッコよくしたうえ、胸元に大き目のピンクのリボンを付けて誤魔化している。


 それから白いニーソックスをはき、肘まである白い手袋を着けた。手袋と言っているが、手の部分はなく手首から肘の近くまでしかないのでサポーターのような物だがちゃんと飾りとして袖口カフスがある。そしてピンクの魔法ステッキ。どれも今日というか昨日学校帰り寄り道してドン〇で購入したものだ。桃子はやっとイメージ通りの小物が手に入ったことで、今夜の変身メタモルフォーゼを決意したのだ。


 最後にこれも自作したお団子付きツインテールのかつら。ドン〇で購入したピンク糸の毛糸をふんだんに使ったものだ。



 今は冬なので、桃子改め魔法少女ぷりぷりプリンは厚手のコートを羽織って、音をたてないように、こっそり2階の部屋から1階の玄関まで下りて、そこでピンクのスニーカーを履いて、音をたてないようにドアを開けて外に出ていった。


 冬の夜空は星が輝いてきれいだが、その分キンキンに冷えている。


「ウォー、寒いー! マフラーしとけばよかった」


 いったん外に出たもののあまりの寒さに体じゅう鳥肌が立ってしまった。


「魔法少女に鳥肌はないよね」


 そう言ってぷりぷりプリンはドアを開けて玄関に入り、2階の自室に戻っていった。



 部屋に戻ったぷりぷりプリンは、洋服ダンスの中から接着テープ付き使い捨てカイロを取り出し、軽く振ってスカートをまくってお腹に張り付けて、マフラーを首元に巻きつけ再出撃していった。



 ぷりぷりプリンは玄関のドアを開け、再度家の外に出たのだが、足元の玄関ポーチに何やら丸いものが転がっていた。

 

「さっきはなかったのに。

 だれよ? こんなところにゴミを投げ入れたのは」


 女子校では美化委員をしている関係で、桃子はゴミの投げ捨てなどは我慢できないのだ。しかもゴミが投げ捨てられているのは自分の家の玄関先だ。


「そうだ! このゴミを投げ捨てた真犯人を見つけてオシオキよ」


 ぷりぷりプリンの頭の中には真犯人と犯人は明確な区別がある。が、しかし、それを明確な言葉として表すことはできない。いちおう、真が付くと英語でいうVERYと同じで強調の意味があると思ってはいる。


「オシオキの前にゴミは捨てないと」


 オシオキの前に真犯人を見つけなければならないが、魔法少女にとって真犯人を見つけることなど造作もない。と、ぷりぷりプリンは何の疑いもなく思い込んでいる。それどころか、魔法少女には不可能はないとまで思っている。メタモルフォーゼしてぷりぷりプリンが学校のテストを受ければ、全教科満点をとれるハズと思っている。しかし、自分が魔法少女ぷりぷりプリンであることは絶対秘密なので、残念だが試すことはできない。



 ぷりぷりプリンは丸いゴミをつまんでゴミを拾いあげようとしたところ、丸いゴミがしゃべった。


「いたい。もっと優しく扱ってよ」


「なに? いま誰かしゃべった?」


「僕だよ。きみがつまんでいるのは僕だよ」


「うぁー、ゴミがしゃべった!」


 ぷりぷりプリンはつまんでいたゴミを隣の家の庭に向かって思いっきり投げつけた。


 ヒョエーーー!


 風の音がぷりぷりプリンに聞こえてきた。


「いけなーい。

 隣の山田さんのおうちにゴミを投げ入れちゃった。テヘッ」


 ぷりぷりプリンは可愛い舌をだしてテヘペロをした。可愛いは正義なのだ。


「でもさっきのは何だったんだろうな? まっ、いいか。

 それじゃあ、さっそく真犯人を捕まえてオシオキよ」


 ぷりぷりプリンは自動車用の門扉の隣りの人の出入り用の門扉を開けて真犯人を求めて夜の道に出ていこうとしたら、後ろから声をがした。


「待って」


 びっくりして振り向いたら、さっき隣の山田さんの家に庭に投げ込んだハズのゴミが宙に浮いていた。


 ギョエー!


 悲鳴を上げてぷりぷりプリンは家の中に駆けこみ、靴を投げ捨てるように脱いで、階段を駆け上がった。自分の部屋に駆け込んだぷりぷりプリンは部屋の中からカギをかけてベッドの布団にもぐり込んだ。


 ギョエーではなくキャーなら別の対応があったかもしれないが、桃子の家も含めて近所の家からは誰も何が起きたのか確かめようと寒空の下、わざわざ外に出てくる者はいなかった。



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