第36話 〜天才✖天才〜
「どうでしたか?」
ライムを抱えながらララは尋ねてきた。
「良かったのじゃ。今のを舞台で出来たら完璧なのじゃ」
「クロエの言う通りで,本番で出来ないと意味がない」
「そうですよね……」
「大丈夫ララ自信を持って! ララの歌声は素晴らしい。レストランに訪れるお客全員を度肝抜いてやろう!」
「そんな事……私に出来るんですか?」
「ああ出来るさ俺が保証してやる! その為にもう一曲覚えてほしい曲がある。曲は俺が教える。けれど,今歌った曲の続きをララに考えてもらいたい」
「続き……ですか?」
「ああ,ララが思う歌詞を考えてきてほしい。俺がその後にピアノの音を被せるから」
「なんだかカナデ面白い事になってきたのではないか」
「出来るでしょうか?」
「大丈夫! きっとやれる。それにクビにはなりたくないんだろ!? 俺もついてるし頑張ろう」
「じゃあそろそろ戻ろうか? ララいつだったら練習時間取れる?」
「いつでも大丈夫です」
「分かった。なら準備が出来次第ララの家に向かうから、歌の続き頼んだよ」
「分かり……ました」
教会で俺達は別れ、宿へと戻った。
ミーナとロイはすでに起きていて、俺達に文句を吐く。
「ちょっとどこ行ってたのよ! 私達を置いて勝手に出かけて」
「オイラ達を置いて勝手に美味いもの食べに行ったとかじゃないよな!?」
「違うよ! ララの所に行ってたんだよ。時間ないからな」
「そうなの!? それで!? どうなの!? なんとかなりそうなの!?」
「ん~まあなんとかなりそうかも! なあクロエ!」
「二日後が楽しみじゃ」
「それで? 当日まで私達は何をすればいいの?」
「何か特別な事なんてないさ。俺とララは当日の練習があるけれど,ただその間に当日の俺とララの衣装を用意してもらいたいんだ」
「なんだそんな事か! 余に任せろ」
「私に任せなさい」
「フフフ! オイラのセンスを見しちまう時がきたか」
本当に大丈夫かこいつら!?
俺はララと当日に歌う内容と演奏の準備に取り掛かった。
他の皆は市場の方へとそれぞれ出掛けて行った。
練習と準備をしていたら,あっという間に勝負の日になった。
お昼過ぎにララと合流し、ミケラルドの店に早めに行き,準備する事にした。
お店自体も開店記念だからか、開店は夕方なのにすでに沢山の店員が居て準備に追われているようだった。
「なんか旨そうな匂いがしてきたのじゃ」
「相変わらず緊張感がないなぁ」
「なんじゃ? 緊張しとるのか?」
「緊張じゃないが俺のヴァイオリンとララのクビがかかってるからな」
「大丈夫だって。気楽に行こうぜ!」
「そんな事よりカナデ本当に一位を取れるの?」
「勿論! まあ後はララの本番次第かな!?」
ララは緊張して震えていた。
「駄目だなこりゃ!」
「ララ緊張しすぎじゃ」
「それより、衣装は用意してくれた!?」
「勿論じゃ」
「勿論よ」
「カッコいいの持ってきぜ」
それは見事に全員違った衣装を用意してくれたようだ。
人の事を言えた立場ではないが,全員センスは無いようだった。
「ララ……どうする? どれ着る?」
「私はミーナさんの選んでくれたのにします」
「いい選択ねララ。緑のドレスはララに似合うと思ったのよ」
緑のドレスって……なんかララが着るとレタスの精霊みたいな感じに……
「それで?? 俺の衣装はどうなの?」
全員自信満々に見せつけているが,どれも愚者が着そうな衣装だった。
ミーナは緑のドレスと合わせてか,緑の衣装で,とある絵本に出てきそうなキャクターのような衣装だった。
クロエは全身黒のタイツとはまでは言わないが,よく分からないそんな衣装をどこで見つけてきたのか,本当に俺が似合うと思って買ってきたのか? と疑いたくなる。
ロイが持ってきたのは,ピエロが着そうなカラフルで目がチカチカしそうな色使いの衣装だった。俺が手にとって眺めてると……
「派手でカッコいいだろ!?」
とロイは自信満々に言う。
どれも全部着たくはないが,百歩譲ってロイの衣装を俺は選んだ。
「オイラのセンスが一番いいだろ?」
「もし今度,同じような事があったら俺は必ず自分で買いに行くことにするよ」
俺とララは衣装に着替えて,出番を待った。
店が開店し,お客さんがぞくぞくと入り,席は満席で大好評のようだ。
その埋まった席の数を舞台裏から見たララがさらに緊張してるのが見て取れる。
「大丈夫か?」
「大丈夫……です。今日はカナデさんも一緒ですから頑張ります」
一番初めに舞台出る人が舞台へと出ていく。
ララは目を瞑り,歌を口ずさんでいた。
正直言うと,俺は楽しみでしかなかった。ララの歌声が世間に羽ばたく様を最も近い場所で聴き,感じる事が出来る事と思っているからだった。
とうとう俺達の出番になった。
俺とララはライトに照らされた舞台へと出ていく。
俺はピアノに着席し,ララの合図を待つ。
しかし,ララは微動だにせず,俺に合図をくれない。
演奏が始まらないから少し会場がざわつく……
すると,ぴょんぴょんとライムが舞台上に入ってきて,ララの胸に飛び込む。
「ライムちゃんどうしたの? ハハハ,くすぐったいよ! ありがとう」
ララがこちらを向いて合図をくれた。
「♪〜♫〜♫♪」
俺は演奏を始め,ララが歌い出す。
「♫〜♫〜」
ララが歌う一曲目は,彼女の母親から歌って貰っていた子守唄だ。子守唄というのは,どこの世界でも優しい旋律をしている。ララが歌うとより一層際立つ。
ララに俺はこの歌の題名を訊いてみた。
すると彼女は少し考え,こう答えた。『テレジア』――――と。
彼女の母親の名前だそうだ。
なんともララらしいと俺は思った。
彼女と母親が紡いだ歌詞と音,歌声が会場を包み込んでいく。
彼女の一曲目が歌い終わる。
続けて俺は演奏を始める。
「♫♪♫♪♫♪♫♪♫♫」
「♫〜♪〜♪〜〜♫〜」
シューベルト作曲『エレンの歌第三番 通称はアヴェ・マリア』
少し大人な歌だと思うが,ララなら歌いこなせるし,素晴らしい歌声を披露してくれる。
あ〜きっとこの瞬間に,観客はララの歌声の虜にきっとなっているだろう。
ずっと聴いていたくなるようなそんな声をしている。
そんな至高の時間もあっという間に過ぎていく。
演奏と歌声が終わる。
終わった途端,レストランに居るとは思えない程の静寂に包まれる。
パチパチパチ……
拍手が聞こえ,音の出処の方を見ると,ミケラルドが立ち上がって拍手をしている。
その音に呼応するかのように拍手が続き,鳴り止まない拍手が会場を包み込む。
ララが初めて日の目を浴びた瞬間だった。
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