第33話 〜消えたヴァイオリン〜
「ふぅ〜。美味しかったわ! それじゃあそろそろ行きましょうか」
「ミーナ本当に大丈夫なのか? 分かるのか?」
「大丈夫よ」
ミーナが俺達を先導していく。街の中を歩いていると――
「♫〜♫〜♫」
「あれ? なんか歌聞こえないか?」
「別に聞こえないけど」
「クロエは聞こえるか?」
「いや聞こえないのじゃ」
「オイラもな〜んも聞こえないぞ」
「♫〜♫〜」
「ほら! 今聞こえた」
「そんなの気にしてないで,早く行くわよ」
俺はその歌声が気になったが,微かに聞こえたその歌声は綺麗で儚く,透き通った声で興味を惹かれた。
街の中心地からどんどん離れていき,雰囲気も暗く湿っぽい,そして人の気配がどんどんなくなり,建物も荒れているのが目立つ。
「本当にこの近くに盗んだ奴がいるのか?」
「勿論よ。この先にいると思うわ」
そんなスラム街を進んでいくと,一軒のあばら
「ここにいるのか?」
「ええ中にいるわ」
「なんじゃ。ボロボロの家じゃの」
ミーナがドアをノックする。
すると中からロイと同い年位の少年がドアを開けてきた。
「だれ??」
俺達の姿を見ると何かを察してすぐにドアを閉めようとしたが,ミーナが足でドアをロックした。
「盗んだ物返しなさい。別に何もしないから! 返して欲しいだけなのよ」
「あれは,俺にとって大事なものなんだ。返してくれないか?」
「返せって。もう売っちまったから返せねえよ!」
「え!? 売ったって!?」
「ああもう金に替えちまったから,俺は持ってない」
「どこに売ったんだ?? あれは俺にとって本当に大事なものなんだ」
「大事なものだったら盗られるなよ!」
「はっはっは! まあその通りじゃな」
「カナデは抜けてるからなぁ〜」
「それで!? どこに売ったんだ?」
「ちぇ! まあ別に教えても問題ないからいいけどよ。ちょっと待ってろ」
少年は中へと戻ると,家の中にもっと小さい子供が見える。
何か話しかけてドアの方へと戻ってきた。
「案内してやるから付いてきな」
その少年を先頭に俺達は後を追う。
「家に残してきたのは妹達か?」
俺は少年に訊ねた。
「あ!? お前らに関係ないだろ?」
「生意気だなお前!!」
「ロイよ。お主もさほど変わらんぞ」
「え!? オイラはここまで生意気じゃない」
「どんぐりの背比べだな」
「着いたぞ! 俺はここで売った。後は知らない。俺は帰るからな」
「分かったありがとう。気をつけて帰れよ」
案内された建物は,掘っ立て小屋と呼ぶに相応しい程ボロい。が中へと入る。
「いらっしゃい」
中に入るとよく分からないものから日用品ぽいものまで売られている商店のようだった。
「あの〜こいつと同じ位の背格好の男の子が,こんな箱に入ったこんな形の不思議な道具みたいなの売りに来ませんでした?」
「あ〜きたよ」
「まだ置いてありますか?」
「いや,とっくに売っちまったよ」
またか……
「どこに売ったんですか?」
「それは言えないねぇ。こっちも商売で取引先と信頼関係があるからね」
クソクソ……まさか戻ってこないのか??
「本気で探し回ればどこかで見つける事が出来ますか?」
「どうだろうね。売った後の事は分からないからね。ただこのベルドーの街にまだあるという事だけは確実に言えるね」
「カナデどうするのじゃ?」
「とにかく今日はもう日が暮れるから宿に戻ろう……」
怪しい商店を出て来た道を戻り,俺達は宿屋へと戻る。
俺はベッドに深く腰を落とす。
「なあ〜飯食いに行こうぜ」
「そうじゃの。腹が減ったのじゃ」
「……俺はいいや! ミーナ……一緒に行ってきたらどう?」
「え? ええ……そうするわ」
「カナデ行かないのか?」
「ああ……悪いが俺は先に寝るよ」
三人は食事する為に部屋を出ていく。俺は落ち込んでふて寝する。
気が付くと朝になっていた。俺は皆を起こさないように起きて,少し時間があるから外を散歩する事にした。
昨日の気持ちからまだ晴れた訳ではないが,人がいない朝方の街を歩くのは気持ちがよく心が少し軽くなった。
宿に戻ると皆が起きていた。
「カナデよ,昨日皆で話したんじゃが,皆で頑張って探そう。という事になったのじゃ」
「オイラも頑張るぜ」
「私も付き合うわよ!」
「えっ!? いいのか!? どの位かかるか分からないぞ,特にミーナ」
「確かにそうだけれど,カナデがやる気がない方が問題だわ」
「あれがないと聞けるカナデの音楽も少なくなってしまうからの〜」
「皆で手分けすればすぐに見つかるんじゃねえの?」
「そういう事になったから,今日は皆で探そうとなったのよ。だから今日は一日探しに行くわよ」
「ありがとう……」
カウンターで宿屋に泊まる日数を追加し,俺達は宿屋を出る。
「それじゃあとりあえず太陽が丁度てっぺんになるまで探すのはどう? 見つかっても見つからなくても一度集まって情報を共有して,それからまた探しましょう」
「「「分かった」」」
「じゃあまた昼間に」
それぞれ分かれて探す事に……
俺は街の露店をメインに探し始めた。この世界にヴァイオリンを価値ある物と判断されないんじゃないか? と思った俺は,なんてことはないただの露店の
しかし,どこを探しても俺のヴァイオリンを見つける事が出来なかった。
そろそろ太陽が昇りきる時間帯だったので,俺は宿屋へと戻る。
すでに俺以外は集まっていた。
「カナデどうじゃった?」
「全然駄目だった。手がかりすら掴めなかったよ。皆は?」
「余も同じじゃ」
「オイラも駄目だった。でもミーナが手がかりを見つけたみたいだぞ」
「本当に!?」
「うん――行ってみる価値はあると思う」
「それで? どこにありそうなの?」
「そこにはないと思うんだけど,よく分からない変な商品が売れた。というような話を聞いたのよ。だからそこへ行けば何か分かるかもしれない。場所はザール商会」
「ザール商会? とりあえず行ってみようか」
「そうね」
ザール商会へと足を運ぶ。ザール商会着くと,とんでもなく大きい店だった。入り口には護衛だと思われる屈強そうな男二人が入り口を守っている。
店に入ろうとすると,彼らは紳士にドアを開けてくれた。
「いらっしゃいませ」
これまた紳士の店員に挨拶された。
「ちょっと聞きたい事があるんですけどいいですか?」
「なんでしょうか?」
「昨日ここに変わった商品がこなかったですか? それで売れませんでした?」
「変わったと言いますと?」
「これ位の箱に入ったこんな形の変わったもので,音が鳴る楽器なんですが……」
「もしかして昨日領主様が買っていかれた物かもしれません」
「領主ですか?」
「ええ。領主様は珍しい物や新しい物が大好きで,よくわからない商品を頻繁に喜んで購入していきます。なのでそういった商品でしたら領主様でしょうきっと」
「なるほど分かりました。ありがとうございます」
「情報を差し上げたんです。何か買っていかれないんですか??」
「……。商売上手ですね」
「ありがとうございます。ちなみに領主様の家はよく見えるあの城ですので」
「ではこのバッグを……」
俺は乗せられてバッグを購入した。
「ん~なんか面倒くさそうな事になったな!」
「領主の手に渡ってたらそんな簡単に返して貰えそうにないわね」
「見つけたら余が力ずくで奪ってもよいのじゃぞ」
「それをしたら後々もっと面倒くさい事になるよ。下手したらこれから行く帝国内で顔バレしちゃうかもしれないし、そもそもの目的のエルフの救出の妨げになるかもしれない」
「まあとにかく行ってみようぜ! 行かないとわからないだろ」
高台の上に建つ大きな城を目指す。入り口の門には男の人が二人立っていた。
「お前達なんの用だ?」
「領主様に用事があるんですが」
「約束はあるか?」
「ないです」
「約束がないなら帰ってくれ」
「そこをなんとか……領主様にとっても大事な事なんです!」
俺は食い下がった。
「伝言だけは伝えてやる。伝えたい事はなんだ!?」
「昨日手入れた珍しい商品の正しい使い方を知っています。是非会って下さい! と伝えてもらますか?」
「分かった。一応伝えよう」
片方の男の人が敷地内へと入っていく。
しばらくすると男が戻ってきた。
「領主様がお会いになるそうだ。良かったな! 中に入れ。案内してやる」
男の後をついていく。
「会ってくれて良かったわね」
「ああ。でもここまで来てヴァイオリンじゃなかったら最悪だけどな」
敷地内の屋敷に入り,進んでいくと大きな扉の前で立ち止まった。
「ミケラルド様。先程お伝えした者達を連れてきました」
「入れ」
扉を開けて中へ入ると,絵やら壺,よく分からないガラクタがそこら中に飾られた部屋だった。そして大きな肖像画の前に同じ顔の人が立っていた。彼がきっと領主だろう。
ロイがこそこそ話で言葉を発した。
「おい見ろよ。あのおっさんすげ〜髭してんぞ! ドワーフも髭が凄かったが,あのおっさんの髭はオイラ達を笑わそうとしてんのか!?」
ミーナを見ると笑いを堪えていた。領主のミケラルドはそれはそれは見事なカイゼル髭を蓄えていた。
「ようこそ。私は領主のミケラルドだ。君達は私が買った商品について使いこなせるようだと聞いたのだが」
「カナデと言います。ええ,そうです! それで買った商品を見せてもらえますか?」
ミケラルドが
「これはきっと楽器であろう? しかしどうやって音を出すのかがよく分からない」
「ミケラルド様はこれを見て楽器だと分かったんですか?」
「あくまで予想なのだが。楽器なのだろう?」
ミケラルドはケースからヴァイオリンを取り出し,自己流で弾いてみせる。
「ギーギギーギギギ」
酷い音しか出ない。
「酷い音じゃ!」
「なんだそれ」
「これはどうやればいいのだ??」
「ちょっと貸してもらえますか?」
俺はヴァイオリンを手に取り軽く弾いてみせる。
「♫〜♫〜」
「おおおお! この楽器はそんな綺麗な音が出るのか」
「カナデとおっさんだとこんなに違うのか!」
「素晴らしい! 実に素晴らしい」
ミケラルドは興奮気味だった。
「ちょっといいかい?」
ミケラルドは俺の弾き方を見様見真似でヴァイオリンを弾こうする。
「こうか? こうか? こうか!」
「ギーギーギーギー」
ヴァイオリンはそんな簡単に弾ける楽器ではない……
「何故私には上手く弾けないんだ?」
「そう簡単に弾ける楽器ではないんです。何年も練習しないと上手く弾けないですよ」
「何年も……」
「ミケラルドとか言ったな。お主が買ったその楽器はカナデが元々持っていたものなんだ。盗まれて売られて探してたのじゃ。返してくれんか?」
「それは嫌ですな! こんなに素晴らしい音が出ると分かったら余計に手放したくない」
「でもおっさんじゃあ弾けないじゃん」
「だから君達全員,私の元で働かないか?」
「そうすれば,この楽器をいつでも弾かせてあげよう。そしてこの楽器の事をもっと教えてほしい」
「それは残念ながら,出来ない注文ですね。いくらでもお金を払いますからヴァイオリンを返してもらえませんか?」
俺は頭を下げた。
「私にとってもこの楽器との出会いは素晴らしいものなんだ。ではどうだ? 君の音楽の才能を見込んで私と賭けをしないか?」
「賭けですか??」
「そうだとも。付いてきたまえ」
付いて行くと屋敷出て用意された馬車に一緒に乗り込む。どこへ向かうかは分かっていない。
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