第32話 〜森をぬけるとおかしな街に辿り着きました〜
「ほら,早く付いて来て」
「いや……無理だって」
「日が暮れちゃうわよ!」
「カナデは体力ないから無理だぜ?」
「今日中には森を抜けたかったのに,このままだと抜けれないわよ」
「ちょ,ちょ,ちょっと休憩しないか?」
「さっきしたばかりじゃない!」
「カナデだらしないぜ!」
「よく……ロイは平気だな」
「村に居た頃は毎日森で遊んでたしな。慣れてるよ」
そういや,そんな事言ってたな……
「とにかく頑張ってついてきて」
「おう……任せろ!」
俺はとにかく森の中を掻き分けながら進んでいく。同じような景色が続いて本当に進んでいる方向が合っているかどうかさえ分からない。それでもミーナは迷いなく進んでいく。
森育ちのミーナのスピードに簡単に付いてくロイとクロエ。
エルフの里を朝一で出発したが,森を抜ける気配が全くしない……
だんだんと日が暮れて夜が近くなっていく。
「頑張って! もうちょっとで森を抜けて道に出るわ」
「やっと……か」
やっとの思いで,森を抜ける事が出来た。
「あ〜〜。俺はもう動けない!!」
俺はその場で倒れた。
「もう夜ね。ここで野営するしかなさそうね」
「飯にしようぜ!」
「じゃあ私が作ってあげるわ」
「「「えっ!?」」」
「何よ皆してその反応。料理位作れるわ」
「ちゃんと作れるのか?」
「作れるわよ! いつもお母さんの手伝いしているもの。あなた達普段の食事はどうしてるのよ」
俺とロイ,クロエは全員ライムを指差した。
「何? スライムが料理するの? 聞いたことないわよ」
「ライムの料理は美味しいのじゃ。酒にも良く合う」
「オイラはライムの料理を楽しみにしてんだなけどなぁ〜」
「いいわ! 私が作ってあげるわよ。スライムなんかに負けないわよ」
クロエがミーナに食材と料理する道具を渡す。
「カナデよ、ミーナは大丈夫なのか?」
「分らないよ。まあでも俺の料理より酷くなる事はないだろ?」
「もし不味かったらどうするんだよ~カナデ!」
「美味しいことを願おうロイ」
少しすると、いい匂いがしてきた。
「出来たわよ!」
「おお。いい匂いがするのじゃ」
「何作ったんだ!?」
「エルフにとっての家庭料理かな?」
鍋の中身を覗くと見た目と匂いはとても美味しそうなスープだった。
ミーナは皆にスープよそってくれて、俺はミーナの作ってくれたスープに口をつけた。意外や意外で、ミーナの料理は美味しかった。
腹が減っていた俺は料理にがっつく。
「「「おかわり」」」
「どう!? 意外と美味しいでしょ!?」
「ミーナよ。お主やるな」
「ミーナの姉ちゃんのこれ美味しいぞ」
俺達はミーナの作った料理を貪った。
腹が満たれたら、疲れていた事もあり、急激な眠気に襲われた。
「クロエ……馬車出してくれない? 中でもう俺寝るわ」
「なんじゃカナデもう寝るのか? まだまだ夜はこれからじゃぞ。余の酒に付き合え」
「移動で疲れたから寝たいんだ」
「仕方ないの~」
クロエはアイテムボックスから馬車を取り出した。
「馬車なんて持ってたのね! じゃあ明日からは移動が楽ね。それじゃあカナデの代わりに私が付き合うわよクロエ」
「なぬっ!? ミーナ飲めるのか!?」
「飲めるわよ」
「おおよいの! じゃあどんどんいくぞ!」
「いいなぁ~オイラも早く酒飲みたいな」
「ロイはこいつでも飲んでおれ」
「ジュースか。まあ仕方ないな」
俺は馬車に乗り込み,中で寝る準備をする。
「「「カンパ~イ!!」」」
皆が宴を始め出した声を聞きながら俺は眠りにつく。
ガタンッ!!
衝撃で俺は目を覚ます。
「あれ? やっと起きたのね」
「ん??」
身体を起こすと,馬車が動いていてすでに出発しているようだった。
「カナデ。やっと起きたか! ずっと起こしても全然起きないから出発しちゃったぜ」
「そうなのか,ロイ悪かったな……」
「もうお昼に近いけど,後少しで街に着くからこのまま街を目指しましょう」
「街か〜,そいつは楽しみじゃの」
「おい! なんかすげ〜のが見えてきたぞ!」
ロイの言葉に反応して前のめりに外を見ると,高い壁が見えてきた。
「なんじゃ!?」
「私も初めてだけど,城塞都市ベルドーという街よ」
「それにしてもたっかい壁じゃの〜」
「そうだな〜」
と言葉を漏らしながら,全員が壁を見上げていた。
街の入り口で検問にあう。
「何か身分を証明出来るものを見せろ!」
俺達は冒険者のプレートを見せる。するとミーナも冒険者のプレートを提示した。
「ミーナ冒険者だったのか」
「一応ね! だから私が選ばれたってのもあるのよ」
検問を無事に突破し街の中へと入る。
街の象徴かのように大きな城が遠くに見える。城を囲うように造れている街と壁がまさに城塞都市ベルドーの名に相応しい街並みをしている。
「飯食いに行こうぜ! 飯が先だよな!?」
「酒じゃよ。酒が先じゃろ!?」
「宿屋をまずは探さないと」
こうもまとまりがない仲間ってのも中々珍しいんじゃないか。
「カナデよ。どうするのじゃ!?」
「そうだなミーナの言う通り宿屋探しから食事にしようか。その方がゆっくり回れそうじゃないか」
「そうじゃな」
「そうしよう」
俺達は街に入って最初に見つけた宿屋に決める事にした。
馬車から降りてドアを開ける。
「いらっしゃいませ! 宿屋バンジーへようこそ!」
「宿泊したいんですけど,いくらですか?」
「素泊まりでしたら一泊四千コルトです。朝夜と食事付きは八千コルトになります」
「ミーナ何泊するつもりなんだ?」
「とりあえず二泊するわ」
「じゃあ素泊まりで二泊お願いします」
「お部屋はどうされますか?」
「ミーナ。一部屋でいいか?」
「いいわよ」
「じゃあ一部屋で」
「ありがとうございます。お客様ご案内しま〜す!」
二階へと上がり,部屋に案内される。四つベッドが並べられ,簡素な部屋ではあったが,ベッドは清潔で悪くない。
「馬車で来たんですけど,馬車を置く場所ってありますか?」
「店の裏に
「分かりました」
「おいカナデ。ベッド中々いいぞ!」
「ベッドで遊ぶなって」
「泊まる所も決まったことだし,外に繰り出しに行こうかの」
俺達は街を散策する事になり,街へと繰り出す。
街の中央通りにはあちこちに屋台が出ていて,人で溢れかえり賑わっていた。
食べ物を扱う店も多く,いい匂いを漂わせている。
「あ〜どれから食べる??」
ロイがよだれを垂らしながら,物色している。
「ミーナは? 何か食べたいものとかないの? せっかくだしミーナが選んでよ」
「私が!? そうね〜」
と言いながらミーナは一つの店の前に立ち止まる。
「私がここがいいわ」
「じゃあここにしようか」
店の横にテーブルと椅子が用意されているので,そこに座りミーナが注文をしてくれているようで,食べ物が来るまで待っている。
「ミーナここは何の店なんだ?」
「へ!? 私もまだ良くわかってないわ――」
パッと見は美人なミーナ。ツンとした表情が多いから近寄りがたい雰囲気を
「おまたせ!! ゆっくりしていきな」
店主が持ってきた食べ物の匂いを嗅いで,そういえばこの世界に来て初めて嗅ぐ匂いだと俺は思った。
「なんだこれ」
「ん〜!? なんじゃ!?」
運ばれてきた食べ物は甘い匂いを漂わせ,パンケーキのような形と姿だった。
「パンケーキって呼ばれているらしいわ。とりあえず食べましょ」
一口食べると,俺が知っているパンケーキより生地は硬いが,かけられている液体が不思議な甘さで良くパンケーキと合う。メープルシロップに近いだろうか。
久しぶりの甘味だからか,疲れているからか分からないが感動を覚えるほど美味しい。
「ウマッ!!」
「なんじゃこれは!」
「美味しい!」
皆びっくりしている。ミーナも小さな子供かのように興奮している。
ロイとクロエは一心不乱で食べている。
「こいつはおかわりじゃ!」
「オイラもオイラも」
「私も」
「俺も」
皆でおかわりをする。
新しいパンケーキが運ばれてきて,久しぶりのデザートを堪能していると――
「!!!!!!」
横に置いていた,ヴァイオリンケースを突然盗まれた。
「おい! 待ちやがれ!」
俺は慌てて走り出す。相手の背格好からして子供そうだ。
しかし俺の身体能力じゃあ追いつくどころかあっという間に離されて見失った。
大事なヴァイオリンを盗まれた事に俺は焦った。とりあえず皆の所へ戻ると,全員口いっぱいにしてパンケーキを頬張っていた。
「なんじゃカナデ。捕まえられなかったのか?」
「カナデ@#$%&@#」
「飲み込んでから喋れよ」
「カナデは遅いから無理でしょ」
「大丈夫よ。魔法で盗んだ人に印を付けておいたからすぐに追えるわよ」
「そうなのかミーナありがとう! じゃあ早速だけど
「分かったわ。でもその前に――」
「「「おかわり」」」
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