朝日の差し込む窓から君と 〜異世界に生きるあなたと何気ない日常を楽しみます〜

南蛮蜥蜴

第0話 ~つまらない日常の終わり~



「――以上を以てして、我々は異世界の存在を証明した次第に御座います」



 壇上に巨大な円形の機械を規則的に並べた海外の科学者が偉そうに御託を述べ、カメラの前で大見得を切りながら演説を続ける。



 異世界の存在を証明する。



 詐欺かカルトの類いとしか思えないクラウドファインディングを奇跡的にも成功させ、訳の分からない理論を元に変な機械を造り続けた酔狂すぎる男。



 そんな彼を、世界中の人間が生暖かい目線で見守っていた。



「なぁ飛鷹さん、あんた異世界って信じるかい?」


「言われるまでもないな……、そんなもん都合が良いフィクションに決まってるだろ」



 大手配信サイトを通じ、そのライブを見ていた友人が半笑いでメッセージを送ってくるが、別の作業をしていた俺はツンケンと冷たい言葉を返す。 珍しい物好きの友人との付き合いで以前1000円程度の寄付をしたものの、内心詐欺に遭ったような気分で渋々金を振り込んでいたのが事実だった。



「おっ、いよいよ異世界との次元接続マシンとか言うガラクタを動かすとか言ってるぜ」


「結果は明日聞かせてくれ。 久々の休みだし今日はゆっくり寝ていたい」


「はいはい了解了解、そんじゃ良い夢見ろよ」



 俺が全然乗り気じゃないことを察したのか、空気の読める数少ない友人は爆笑のエモートを送ってきた後に通信を切ってくれた。



「馬鹿みたいだなホントに。 そんなモンが本当にあるならもっとデカい団体がとっくに存在を突き止めてるだろ」



 ヘッドホンから聞こえてくるのは、作業用BGMとして使っているさざ波の音だけ。 それに耳を傾けながら俺は残った作業を一気に片付けると、マグカップに残っていたコーヒーをゆっくりと飲み干す。



 そう、この世の中に体の良い幸せなんて有り得ない。 あるのは金持ちと権力者にツテのある人間の踏み台にされ、決して届かぬ天を仰ぎながら地を這い回る人生だけ。



「これで終わりっと、さぁ寝るか」



 資料の最後に己の名前“鷹見怜二”と書き込みながら、俺は起動していたパソコンを閉じてふと天井を見上げた。



 最後に輝かしい人生に思いを馳せたのはいつだろうと、やりがい搾取の標的にされて月20万にもいかない給料で扱き使われている己の現状を冷笑しながら席を立つ。



「大きい図書館の先生になりたかった……だったかな……」



 明日が休みだからといってやることは代わりない。 いつもより遅く起きて筋トレして散歩して友人とダベって旨い物喰って寝る。 あまりにも平凡で、夢もない日常を送るだけ。



 そんなことを考えながら寝る前の支度を済ませた後、俺は寝床に横になる。



 意識が闇に沈む寸前、遠雷が轟くような音が聞こえたが、気にせず眠ることだけに意識を集中する。



 夢などない、希望などない、ましてや輝かしい未来などあるはずがない。



 そう悲観的に考えながら、俺は眠りに落ちていった。



 誰かに寝顔を見つめられているような、そんな有り得ない気配を微かに感じながら。

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