俺だけ永久リジェネな件 〜回復魔法に比べて役立たずだとパーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われています!〜

早見羽流

第1話 俺はどうやら役立たずらしい

「みんな喜べ! いいニュースがある!」


 その日、拠点にしていたギルドハウスに入ってきたパーティーリーダーのクリストフ青年は上機嫌だった。何か美味しい依頼でも入ってきたのだろうか?

 が、赤髪ツンツン頭のクリストフはもったいぶるように間をとると、入り口のドアの向こうへ声をかけた。


「入っていいぞ!」


 直後、入り口を開けて現れたのは……。

 ――おおぉっ!?

 俺を含む全員が感嘆の声を上げた。そこには、純白の聖女のような衣装に身を包んだ金髪碧眼の少女がいたからだ。

 年齢は17か18くらいで、身長160cm弱くらいだろうか。顔立ちはとても整っており清楚な雰囲気を感じさせる美人だ。


「今日から新しく仲間に迎えることにしたアリシアだ」

「アリシアです。よろしくお願いします」


 クリストフに紹介されたアリシアと名乗る少女は深々と頭を下げた。突然の美少女のご登場に俺たちは色めき立った。


「おいおいおい! クリストフ、この子は?」


 真っ先に口を開いたのはスキンヘッドのシーフ、ダドリーだ。その興奮気味の様子を見て、クリストフが得意げな表情になる。


「まあ話は最後まで聞けって。──アリシアは聖フランシス教団出身で、なんと『回復魔法』が使えるんだよ!」

「な、なんだって!? じゃああの噂に聞く『回復術師』だってのか!?」


 ダドリーの言葉に、アリシアは頷いた。


「はい。そうとも呼ばれています」


 その昔、女神が人々に『ステータス』と『スキル』を与えてから、命と直結するHPヒットポイントを回復させる手段は、休息による自然回復とクソ不味いポーションしか無かった。回復魔法が開発されたのはつい最近のことで、それを操ることができる人間は限られている。

 しかも、戦闘時に咄嗟とっさに使用して瞬時にHPを回復させるような高度なものとなると更に数が減る。噂には聞いていたが回復術師の実物を見るのは初めてのことだった。


「マジかよ……こりゃ大した拾い物だぜ……」


 ゴクリと喉を鳴らす音と共に呟くダドリー。他のメンバーたちも一様に驚いている様子だ。無理もない『回復術師』の育成に特化した『聖フランシス教団』出身ともなれば実力も折り紙つきだ。


 ちなみに俺はというと、「すっげー可愛いじゃん!」とか「マジ天使」とか「結婚してくれえぇ!!」などとどうでもいいことを考えていた。……あれ、俺いつの間にこんな気持ち悪いことを考えるようなヤツになったんだろうか?


「おいみんな! 聞いてくれ! これから大事な話をさせて貰うぞ! 特にリック!」


 急に名指しされてビクッとなる俺。他のみんなからは「何事か?」といった視線が集まってきた。だが、次のクリストフの言葉は浮かれ気味だった俺を一気に地獄に突き落とすようなものだった。


「お前は今日限りでパーティーをクビだリック。アリシアが加入した今、『ポーション生成師』のお前にもはや用はねぇ!」


 ……はい? はぁ!?


「ちょ、ちょっと待ってくれよ! いきなりそんなこと言われても困るって!」


 もちろん俺は慌てて反論した。いくらなんでも急すぎる。俺はこいつらとずっとパーティーを組んできたはずなのに!


「うるせぇ! 元々テメェは俺たち冒険者パーティーにとってお荷物だったんだよ! それを今日まで使ってやってたのは、貴重な回復要員だったからだ! でももう必要ない! というわけで明日以降は来なくていいぞ! 今までよく頑張ってくれたなお疲れさん!」


 一方的にまくし立てるクリストフに仲間たちもうんうんと同意するように首を縦に振る。まあ、普通に考えてクソ不味いポーションを飲むよりもちょちょいと回復魔法をかけてもらって回復する方が100倍楽だろう。それにアリシアは非の打ち所のない美少女だ。俺に勝ち目はない。でも……!


「なんだよそれ! 横暴すぎるだろ!? いきなりクビになって、明日からどうやって生きていけって言うんだ!?」

「知るか! そんなん自分で考えろよ!」

「今までお前らのためにどれだけポーション作ってやったと思ってるんだ!」


 俺はすがるような目でアリシアを見た。彼女から何か言ってもらえれば、クリストフは考え直すかもしれない。しかし、アリシアはまるでゴミを見るような目を俺に向けてくるとこう言った。


「回復は全て私がやりますので、役たたずの『ポーション生成師』さんはパーティーから外れていただいても問題ありませんよ?」


 そしてクリストフたちは「ざまあみやがれ」というような顔で笑い合う。……これはダメだ。完全に終わっている。どうあがいても覆せない。


「さて、辛気臭い話は終わりだ! みんな今日は盛大に飲もうぜ!」


 クリストフは上機嫌で宣言すると、皆俺のことを無視しはじめやがったので、俺は黙ってギルドハウスを後にした。



 ***



 落ち込んだ気分のまま、最近借金をして手に入れたばかりの小さな家に帰ると、倉庫に入れてあった溢れんばかりの薬草を見てため息をつく。

 ポーションを生成するのも別にタダでできるわけじゃない。薬草は栽培から採取まですべて自分で行う必要があるのだ。だからこうして毎日のように集めて貯蓄していたのだが……。パーティーとしてクエストに同行できない以上、もうこの薬草も無駄になってしまうのだろうか。


「……とりあえずしばらくはポーションを町の薬屋にでも売って食いつなぐか」


 薬草のままではそこまで日持ちはしないが、幸いポーションに加工して瓶に詰めておけば保存はきく。そこまで大量の瓶は用意できないけれど、明日町に買いに行けばいいだろう。

 そう決めたところでふと窓を見ると、外は既に真っ暗になっていた。


「徹夜でポーション作って、明日売りに行こう」


 今日一日で、一体どれほど失望させられたことか。少しでも現実逃避しようと、早速作業に取り掛かった。そして、ありったけの薬草を使って大鍋に一杯のポーションを生成した頃にはすっかり夜が明けていた。翌日、まだ寝ぼけた頭でポーションの瓶に蓋をしたところではっと我に返る。


「しまった! こんなに作ってもし売れなかったら……?」


 嫌な想像を頭の中から追い払い、荷物をまとめて近くの町へポーションを売りに行くことにする。だが、恐れていたことが現実になってしまった。

 俺の作ったポーションは薬屋で買い取ってもらえなかったのだ。

 なんでもここ最近、この町をはじめ国の各地で聖フランシス教団出身の回復術師が活躍していて、回復ポーションはほとんど売れないらしい。いよいよもって俺のポーションはゴミに成り下がってしまったというわけだ。結局、その日の俺は町中をうろうろとさまよっていただけで何もせずに過ごした。そのせいか、いつの間にか夕方になり腹の虫が鳴る音が聞こえてきた。


「なんか食べないと死ぬな。食えるもんあるかな?」


 HPバーを確認すると、空腹のせいかジリジリと減っている。女神の恩恵のせいで、HPバーが見えるようになったのはいいが、こうも生々しく突きつけられると少し嫌な気もする。まあ、HPが0にならなければ死なないのだし、腹の足しにはならないけれど、ポーションを飲んで回復すればいいか。そんな風に軽く考えていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る