彼女と僕のありふれた。でも、かけがえのない恋の話

瀧平淳陽

恋を始めたい

 新しく買おうとしている日記帳は、ビビッドなイエローではなく、淡いエメラルドグリーンの表紙の日記帳だった。

 『なんで、私はこういう色に惹かれるんだろう?』

 日々、こんな疑問ばかりが頭をグルグルしているわけではないけれども。

 最近になってなんだか、【自分の選択】に、確認を取るようになってきたのである。

 今夜は偶々時間があるので、仕事帰りに書店に足を運んで、のんびり新刊を眺めながら、ついでに新しい日記帳も買うことにしたのだ。

 四・五年前に出来た洒落た書店の店内には、何時だってハイカラな文房具も揃っている。

 眺めていた日記帳シリーズには、幾つものカラーが揃えられている。それこそ、色とりどりの。

 なのに私は、一歩さがって様子をみてるかのように、落ち着いた色合いのものばかり選んでしまう。

 でも、淡くて綺麗な色が多いかも。

 最近は、百貨店でピンクベージュの春物コートを買った。仕事の昼食に、桜海老のちらし寿司を食べてみた。気になってる映画は「藤トンネルでつかまえて」だっけ。………ーーー。

 いわゆる、フェミニンなもので構成されてるのかな…?

 ミーハーな、はしゃぎ立てる気持ちとは全く違ってるんだけど。

 静かに、キュンとする。みたいな。

 私は、手に取ったエメラルドグリーンの日記帳をレジで、購入する。

 家に帰るまでには、この喉に引っ掛かっているモヤモヤを、言葉に表したい。

 「女性向け雑誌に、結構載ってるような。」

 店内の雑誌ポスター群を眺めてみて、ヒントはないか探してみる。


 あっ、これがピンと来る。

 【大人可愛い】だ。


 でも、【大人可愛い】が印されているポスターには、唇を尖らせたハイブリーチのモデルちゃんが載っていて。

 言葉は合っていても、イメージはこれじゃない。


 これからも私は、私の人生を選択していく。

 今、二十五歳。

 そろそろ恋路が来てもいい頃なのに。

 私は、落ちられる恋ができるのだろうか?

 しっくりくるイメージの男性と逢えればいいんだけど。

 『心が望む方へ、自分で行けますように。』

 エメラルドグリーンの日記帳を心臓の上に当てながら、靴の踵を三回鳴らした。

 

 

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