第31話 リヒトの戦い② 終結
事態は思った以上に簡単に終わった。
教皇を殺してしまったので、忠誠心が高い聖騎士が動く…そう思っていたが違っていた。
ローアン大司教は俺と密談をする為に下がらせたのだが…
「リヒト殿、貴方がやった事は正しい事だ…俺にはそれが出来なかった…尊敬する」
恐らく騎士団長と思われる人物にそう言われた。
可笑しな事に聖騎士の殆どが俺に敵意の目を向けずに会釈をして寂しそうに去っていった。
その背中には何故か哀愁が漂っている。
意味は解らない。
だが、揉める気が無いのは俺にも解った。
問題は此処からだ。
◆◆◆
「ロマーニの件はこれでおさまった…それでリヒト殿、どうしても勇者パーティに戻る気はないのですか? 私が教皇になるからには貴方にも『充分な支援』を約束しましょう?」
まだ、この話は終わってない…
「ローアン大司教、いや教皇様…不敬を承知で言わして貰っても構わないでしょうか?」
「構いません」
言うしか無いな…
「悪いが賭けても良い…カイト達勇者は、魔王軍に確実に負ける…だからついて行きたくはない! 俺には、勇者より世界より守りたい人間が居る…だから諦めてくれ」
「勇者が負ける…?」
「ああっ、はっきり言わして貰えば『勇者』に1番に絶望したのは俺だ…仲良くはないが同郷の仲間だ、出来る事なら勝たせてやりたい…だが、努力を怠り腐らせちまった…あれは勝てない」
「ですが、リヒト殿より遥かに強いのでしょう…そうは」
「それじゃ駄目だと思う…はっきり言えば、俺がもう1人居ればカイトに勝てる…現実問題として俺に聖騎士を20人貸して貰えれば、あのパーティは皆殺しに出来る…そんな奴に魔王と戦えるとは思えない…どう思う? 聖騎士20人で倒せる奴に世界なんて任せられるか」
「そこ迄、見込みがないと言うのですか」
正直言えばこれは方便だ。
だが、本当に彼奴は『勇者』としては弱い。
余程の事が無い限り…意識が変わらない限り無理だな。
「傍で見ていた俺が保証する…だが、それ以前に俺は『栄光』も『地位』も要らない…ただ平凡に暮らしたいだけだ」
「そうですか…そこ迄恵まれた才能を持ちながら勿体ない…それで今後はどうするのですか? 」
「教会が絡んで来ないなら、此処聖教国のバカンスエリアに小さな家でも買って、生活したい…無理なら帝国にでも行こうと思っている」
「そうですか? それなら此処聖教国でゆっくりと暮すのが良いかと思いますよ…帝国は治安が悪いですから…勇者様達には『故郷を滅ぼした賊を退治して出て行った』そうお伝えしておきます。今後は普通に暮らすと良いですよ…そうだ、賊のロマーニが持っていた別荘があるから…そちらを今回の手柄として差し上げましょう」
「よいのか?」
「はい…賊を討伐したら、その財産を貰えるのは当たり前ですから…それでは、今までお疲れさまでした」
「本当に良いのか?」
「はい…今回教皇になれたのは貴方のおかげ…ロマーニの方が年下だから、本来私は教皇になれず人生が終わる筈でした…この位の恩返しはさせて頂きます」
「ありがとう」
こうして、俺達にとっての最大の危機は去った。
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