二階堂家では再び、家宅捜査が行われた。

 押収された管理室のPCから、編集される前の監視カメラの映像データも復元され、影山大志と二階堂美月の密会の様子、美月が夜中に外へ出ていた証拠も見つかる。

 これらの映像の消去を行なっていたのは、やはりメイド長の日吉薫だった。


 しかし、薫はあくまで自分は命じられたまま、二階堂家の秘密を守るのがメイド長としての役割だと言い張る。

 それは情報提供者が言った通りの答えだった。

 別荘で未成年を買春していた二階堂章介の映像を消し、他の大物たちの映像だけは残していたのは、映像データがあることで十分な抑止力になる。

 秘密クラブのメンバーから優位に立つために残されていた。

 これは、レオンと珠美の不倫がわかる映像を残していたのと同じ理由である。


 そして、薫は事件が影山と美月の犯行であることも把握していた。

 後継者である美月が共犯と分かれば、二階堂家の名に傷がつく。

 さらに、その被害者が皆、現在の当主である章介が金で買った少女たちだと判明してしまえば、二階堂家の名は地に落ちる。

 全ての罪が明るみになったあと、次期総理大臣と噂されていた男は更迭され、弟の罪を隠そうとした警視総監は辞職、ダイオウデパートでは不買運動が起き、経営陣が一層される。

 息子が事件の犯人と知った影山の父親は、全て自分のせいだと首をつって自殺。

 秘密クラブに関わった全ての大物たちが、第一線から退く事態となった。


「それで、その情報提供者って、一体誰なんすか?」


 後日、須見下は新しく捜査第一課長に就任した男に尋ねる。


「ああ、院長の息子だ。長男の二階堂和章氏が、全ての情報を提供した。この機会に親父の罪を暴いてくれってな……。それとな、もう一人……全ての罪を被って、自殺した満島レオンだ」

「満島レオン……?」


 何故そこで死んだ男の名前が出てくるのか、須見下にはわからなかった。


「まぁ、いろいろあって……としか言えないな。それより、よかったな」

「何がですか?」

「時枝さんだよ。何かされたわけじゃないんだろ?」

「ああ……まぁ、そうすっね」


 須見下は時枝の部屋を家宅捜査した時に見た押収品を思い出して、顔を歪める。

 明らかに盗撮されたと思われる自分の写真と、いつ捨てたかわからない割り箸や空のペットボトル等々が時枝の自宅から出てきたのだ。

 まさか、自分がストーカー被害に遭うなんて考えもしていなかった。

 伊沢と付き合っていると嘘をついた後から、どうも態度がおかしいと思ってはいたが……


 交通課にいた須見下を引き抜いた時枝。

 その運転技術を買われて……————だと誰もが思っていたが、実は彼には下心があった。

 地位も名誉もあって正義に熱い男だったのに、独身だったのは彼が密かに須見下に好意を寄せていたからだ。

 このことを警視総監が知っていたようで、時枝は脅されていた。

 バラされたくなければ、従うようにと。


「今時、男が男を好きだろうと関係ないっすけど、ストーカーはアウトっすよ。さすがにあれには、俺も引きました」

「そうだな、犯罪は犯罪だ。それじゃぁ、鑑識課の伊沢とは別に付き合っているわけでもないんだな?」

「当たり前じゃないすか。ただの同期っす。あんな変人と付き合うとか想像しただけでも虫酸が……」

「そうか? 俺は結構お似合いだと思ってたんだけどな。確かに伊沢は変わっているけど、可愛いじゃないか。胸もでかいし」

「……一課長、それセクハラっすよ?」

「ああ、すまない。今のは聞かなかったことにしてくれ」


 須見下は新しい一課長を睨みつける。

 セクハラも、パワハラも御免だ。


「まったく、これだから男は……」


 たまたま近くを通りかかった女性管理官が、くどくどとセクハラについて厳重に注意する。

 一課長は何度も「すみませんでした」と頭を下げていた。



 *



 一方、二階堂家に戻った葉月は、珍しく葉月の部屋に来た和章から真実を告げられる。


「それじゃぁ、情報提供者って……」

「ああ、俺だ。俺はずっと、父さんあの人の罪を暴こうと思っていた。あの秘密クラブは、おそらく戦前からあった。先代か先先代から始まっている。忌まわしいクズの集まりだよ」


 和章は、章介が買春をしていたことや、金に物を言わせていろいろと悪事に手を染めていたことを知っていた。

 だが、決定的な証拠はいつもメイド長である薫が握りつぶして、隠してしまう。

 どうすべきか考えていた時、影山と美月による殺人事件が始まった。


 薫の動きが怪しかったため、最初、和章は犯人は章介なのではと思った。

 離れにある絵を、美月が知っているとは思っていなかったからだ。

 珠美の娘である美月は、珠美の部屋に自由に出入りしても何も言われない。

 こっそり合鍵を作って、離れに出入りしていたらしい。

 そこで、あの十二枚の絵に魅了された。

 そこからが、全ての始まりだった。


「影山と知り合ったのは偶然だったようだ。全部レオンに調べさせていた。あいつが有能なのは、お前も知っているだろう? まぁ、珠美とのこともあったし、動かしやすかった。それに……これは、お前にだけ話そう。珠美も知らないことだ」


 和章は繭子が入れたダージリンを一口飲んだあと、二階堂家のもう一つの秘密を口にする。


「美月とお前は、父親が違うんだ————」



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