6
お姉ちゃんと影山先生は、時間をずらして一人ずつ自分の部屋に戻って行った。
午前3時過ぎにお姉ちゃんが、そして、それから20分ぐらい後に影山先生が自分の部屋に入る様子が監視カメラに映る。
そのカメラに映っていなかった間、二人が何をしていたかは全くわからない。
そして、気づけば外はすっかり太陽が昇り、朝を迎えていた。
「————って、もうこんな時間! やばっ……!」
今日は伊沢さんは午前中から、須見下さんは午後から仕事らしく、伊沢さんは出勤の準備、須見下さんはもう流石に限界が来たみたいで、ふらふらと自分の部屋がある隣のアパートへ歩いて行った。
「葉月ちゃんも、お姉さんのことが気になるのはわかるけど、寝た方がいいよ。昼休みに一度こっち戻ってくるからさ、続きはその時に話そう」
「わ、わかりました」
伊沢さんはそう言って、目の下にクマができた顔で走って行く。
ここから警視庁まではそんなに遠くないから、通勤はいつも徒歩らしい。
食パンを口にくわえたまま通勤する人を、私はこの日初めて見た。
私は伊沢さんを見送った後、ココに朝ごはんをあげて、すぐに眠りについた。
色々考えすぎて、頭がおかしくなりそう。
影山先生が犯人で、お姉ちゃんがその共犯者————だと仮定すると、監視カメラの映像をカットして、偽装しているのは誰だろう?
やっぱり、一番怪しいのは日吉さんかな。
最初はレオンの可能性を疑ったけど、それなら、レオンは自分がお母さんと不倫していた映像も消しているはず。
それをしていないから、やっぱりお姉ちゃんと影山先生の関係を知っている人ってことになる。
お祖父様の別荘の映像も消している。
二階堂家で起きた出来事のその全てを把握している人といえば、メイド長の日吉さんくらいしか思い浮かばなかった。
お姉ちゃんが自分で消している可能性もあるけど……
私はお姉ちゃんが管理室の近くにいるのを見たことないし……
そもそも、お姉ちゃんと日吉さんが話しているところもあまり見ないな。
常にレオンがそばにいたから、何か用があるなら、レオンの部屋に行くか呼ぶはず。
レオンの部屋は、日吉さんの部屋や管理室がある場所からは少し遠い。
映像を消したのは日吉さんだとして、それじゃぁ、レオンはお姉ちゃんを庇うために、罪を被った?
影山先生とレオンが話しているところは見たことがないから、多分お姉ちゃんを庇ってるんだと思う。
でも、いくら執事でもレオンは他人。
家族みたいに一緒にはいたけど、仕事として執事をやっていたはず。
連続殺人犯の罪を代わりに被って、レオンに何のメリットがあったんだろう?
それも、結局は自殺して、雇い主であったお祖父様もお姉ちゃんも、不倫していたお母さんも、誰もレオンのお葬式をしてあげなかった。
遺骨も引き取りにも行かなかった。
そんな酷い目にあってまで、お姉ちゃんを庇う理由は?
お母さんとの不倫を隠すため?
でも、不倫より殺人の方がよっぽど不名誉なことだと思うんだけど……
わからない。
直接本人に聞けたらいいのに、もうレオンはこの世にいない。
どうしよう。
わからないことだらけだ。
何で死んだのよ。
バカな男ね、本当に。
あれだけ有能な執事だったのに……
いつの間にか私は意識を手放して、眠りについていた。
多分、いくつか夢も見た。
レオンが出て来た気がしたけど、よく思い出せない。
どんな夢だったかわからない。
何かの物音が聞こえた気がして、私は目を開ける。
マンションのインターフォンの音だ。
時計を見ると、時間は昼の12時を少しすぎたあたり。
伊沢さんがお昼休みに一度戻ってくるって言ってた。
私は起き上がって、まだ眠い目をこすりながら玄関横のインターフォンのカメラを確認する。
映っていたのは、伊沢さんじゃない。
紙袋と、それを持った白い手が映っていた。
伊沢さんなら、鍵を持っているはず。
わざわざインターフォンを鳴らす必要もない。
顔を隠している誰かだ。
いや、隠しているというより、紙袋をカメラに見せている?
「ど……どちら様ですか?」
通話ボタンを押して聞いてみると、紙袋はさっと下げられる。
『あ、葉月? 私よ』
お姉ちゃんだ。
お姉ちゃんが、何かを持ってこのマンションの入り口の前に立っている。
『会いたくて来ちゃった。開けてくれる? プリン持って来たの』
「う……うん、今開けるわ」
プリンなんて、今はどうでもいい。
会いたくて来ちゃった?
冗談じゃない。
共犯者かもしれないお姉ちゃん本人が、この部屋に入るの?
事件を調べていることを、犯人に知られたらどうする……!?
怪しまれないように解錠のボタンを押して、私は急いで、テーブルの上に電源を入れたままにしていた伊沢さんのPCの電源を落とした。
そして、慌てたせいで足に延長コードが引っかかって、私は転んだ。
「ぎゃっ!」
ブサイクな悲鳴をあげて、思いっきり顎をフローリングの床にぶつける。
多分ちょっと擦りむいた。
ヒリヒリする。
痛い。
「あら……どうしたの葉月、大丈夫?」
ドアを開けて入って来たお姉ちゃんは、玄関前で痛がっていた私を不思議そうな顔で見下ろしていた。
(7 Luna 了)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます