私はお祖父様の車の移動記録を確認した。

 別荘で録画された日付と照らし合わせると、やっぱりお祖父様はあの場にいたことがわかった。

 真犯人を知るためとは言え、今まで知らなかったお祖父様の一面が見えて何度も吐きそうになる。


 ずっと、お祖父様は立派な人だと思っていた。

 代々続く二階堂総合病院は、これまで数々の社会貢献やボランティア活動をしていたし、国から表彰されたこともある。

 震災の時には、医師を無償で派遣し、お祖父様自身もその手で何人もの患者の命を救ってきた。


 そんなお祖父様が、孫の私とたいして変わらないような年齢の若い女の子たちを集めて、こんなことをしてるなんて……

 とても信じたくはなかったけれど、私は知らなかっただけで、二階堂家に踏み込んだことのない部屋がたくさんあるように、お祖父様にもお母さんにも私の知らない一面があるのだと知った。


 私が見つけた映像の日以外にも、年に数回別荘に行った記録は残っている。

 でも、この日以外は特に変わった様子はない。

 集まりがあったのは、記録が残っている五年間の中で、この日だけだった。


「……去年のイブは、お祖父様は家にいるわ。隼人のお姉さんを車に乗せたのは、別の人……」


 あのドライブレコーダーの男は、もしかして真犯人ではなくて、共犯者かもしれない。

 お祖父様が、お金で雇ったとか……?

 もし、隼人のお姉さんも希星きてぃさんのような集まりに参加していたのなら、目的は口封じのため……とか?


 お祖父様が真犯人だと仮定すれば、二階堂家の地下での犯行も、この男に運ばせて秘密裏に行なっていたと考えられなくもない。

 レオンに罪を着せることも、簡単にできる。


 でも、口封じのために殺したのなら、わざわざあの絵の通りに飾り付ける必要は?

 買春の事実を隠すためなら、死体は見つからない方がいいに決まってる。

 アート作品のように、飾り付ける理由がわからない。

 そんな人目につくようなことをして、詳しく調べられた方が困るはず。

 左手の薬指を切って、瓶に保管していた理由は?

 わざわざそんな証拠が残るようなことを?

 どうして?


「……やっぱり、お祖父様じゃない?」


 お祖父様が参加したのが、あの一度だけなら、ただの偶然ってことになる。

 別荘の映像で顔が確認できたのは希星きてぃさんだけ。

 他の被害者が中絶手術をした時期とはずれている。

 お祖父様が犯人じゃないなら、やっぱり影山先生?


「————お祖父様? なになに、葉月ちゃん、何の話?」

「い、伊沢さん。お帰りなさい」


 その時、伊沢さんが帰ってきた。

 時計を見れば、もう夜の7時前だった。


「えーと、そのちょっと気になることがあって……」

「気になること?」


 伊沢さんは手に持っていたビニール袋をテーブルの上に置いて、私の隣に座った。

 中身はおそらく、牛丼だと思う。

 袋にオレンジの文字で有名な牛丼チェーンの店名が入っていた。

 私は一度も食べたことがないけど、よくドラマとかで出てくるやつだ。


「そ、それより、影山先生のお姉さんの取り調べは、どうなりました……?」

「そっちは検察の方で動いてると思う。須見下は捜査会議が長引いてるみたいだから、帰ってきたら聞いてみよう」

「は、はい」

「あーそれとね、影山姉弟について調べ直していたらちょっと気になることがあって……」


 伊沢さんはカバンからタブレット端末を出すと、画面を私の方に向けて置いた。

 影山先生の経歴が書かれている。


「影山大志くんの出身校……成蓮高校なのよ。山下希星きてぃさんと同じ。影山くんが卒業した後に、山下希星きてぃさんが入学してるから、同時期に在籍していたわけじゃないんだけどね。でも、事件の最初の被害者・伊藤るなさんは、影山くんが所属してた演劇部の後輩だったわ」

「演劇部?」


 影山先生の高校時代の話を、私は聞いたことがない。


「ちょっと当時のこと調べたんだけどね、影山くんどっちかというとイケメンじゃない? 女子から結構モテていたらしいわ。影山くん目当てで演劇部に入った女子も多かったんだって」

「そう、なんですか……」


 最初の被害者と、影山先生は知り合いだった。

 さらに、伊沢さんたちが被害者たちの接点を調べてみると、全員に共通しているのは二階堂総合病院の産婦人科で中絶手術を受けていることだけだったけど、何名かに絞れば、繋がりが見えてきたらしい。


「この一番目のるなさんが高校三年の頃、五番目の希星きてぃさんが一年生。それから、八番目の被害者・水瀬苺愛まいあさんとは、同じ中学出身だったわ。るなさんが一年生の頃、苺愛まいあさんが三年生でね」

「それじゃぁ、この三人には面識があったんですか?」

「そこまではわからない。でも、るなさんを介してなら繋がってはいるでしょう? それと、六番目の篠田娘々ここさんは影山くんと同じ大学よ。学部は違うけどね」

「え……?」


 八人の被害者と、影山先生とが次々に繋がっていく。

 伊沢さんは、キャスター付きの大きなアクリルボードを壁の隅から引っ張り出して、被害者と容疑者の写真を貼り、わかりやすいように相関図を書き始めた。


 影山←高校の先輩後輩→1月←高校の先輩後輩→5希星←中学の先輩後輩→8苺愛

 影山←同じ大学→6娘々←高校の同級生→3愛来←去年まで同じマンションの住人→4夢姫


「まぁ、繋がっているのがわかっているのは今の所、こんな感じね。他はまだ調査中。でも、こう見ただけでも、やっぱり影山大志は怪しいと思わない?」


 私は深く頷いた。

 きっと、この推理は正しい。

 影山先生が、真犯人……もしくは、共犯者の可能性が一番高い。


 そんな人間と、お姉ちゃんが恋人同士だなんて……

 私は早くこの事件を解決するため、今日見つけた別荘のことを伊沢さんに全部話した。


 身内を疑いたくはないけれど、やっぱり、お祖父様もこの事件には深く関わっているようにしか思えない。

 それに、本当に影山先生が犯人だとしたら、早く真実を明らかにして、お姉ちゃんと別れさせなくちゃ……

 私はその一心だった。



(6 Mire 了)


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