2
レオンが逮捕されてから、明らかに変わったことが三つある。
一つ目は、クラスの他の子達。
昔から私たち姉妹のことを知っている子なら……特に、女子からレオンは人気があった。
イケメン執事だの芸能人よりかっこいいだの、今まで私にレオンのことをあれこれ聞いて来た子達が、何も言わなくなった。
おそらく、隣のクラスのお姉ちゃんに対しても同じだと思う。
私たちがいる前では気を使って、レオンのことも
二つ目は、隼人。
隼人にとって、レオンはお姉さんを殺した男。
小学生の頃から同じクラスの腐れ縁で、隼人は唯一気兼ねなく話せるクラスメイトだったのに、私とは何も話さなくなった。
目も合わせてくれない。
多分、私を見ると必然的にレオンのことを思い出して、怒りが湧いて来るんだと思う。
私は、レオンが本当の犯人じゃないと思うと、何度か隼人に話したけど、聞く耳をもってもくれなかった。
そして、三つ目は、お姉ちゃんの執事。
ずっとお姉ちゃんの執事をしていたレオン。
私よりも長い時間一緒にいたはずのお姉ちゃんは、レオンの逮捕に何も感じていないのか、すぐに新しい執事・
新しいといっても、元はお祖母様の執事をしていた男で、昔から二階堂家に仕えている執事の一人。
年齢的も五十代後半で、おそらく、今後雇う新しい執事が育つまでの間だけだろうけど……
でも、お姉ちゃんは今までレオンに対して接して来た態度と、何も変わらない。
まるでただ執事が変わっただけ、何を気にする必要があるの?という感じだった。
自分の執事が連続殺人の殺人犯として逮捕されたというのに、恐怖だとか、裏切られたとか、そういう感情がまるでないみたい。
それは、他の二階堂家の使用人たちもみんな同じで、レオンについて、おかしいだとか、悲しいだとか、そういう話は一切出てこなかった。
多分、お祖父様がレオンについて口に出さないように命じたんだと思う。
唯一お母さんだけは、二階堂家の使用人がそんなことをするわけがないと言っていたけど、それも最近大人しくなっている。
「————あーきたきた。こっちこっち」
学校近くの喫茶店。
2月中旬の放課後、私は伊沢さんに呼び出されて、一人でそこへ行った。
昭和レトロな雰囲気が漂う、昔からある老舗の喫茶店で、かなり前にお祖母様と一度来たことがある。
入り口のすぐそばの水槽では金魚が泳いでいて、テーブルの上にはルーレット式の赤いおみくじ器が置いてある、そんなお店だった。
伊沢さんは先に注文してくれていたみたいで、席についてすぐにメロンソーダの上にバニラアイスとチェリーの乗った昔ながらのクリームソーダが二つ届く。
「まぁ、まずは飲んで飲んで。ここのは絶品だから」
「はぁ……いただきます」
本当は、メニュー表の写真にあるプリンが食べたかったけど、私は勧められるがまま長い銀色のスプーンでアイスを少し沈め、ストローに口をつけた。
伊沢さんはニコニコと笑いながら、自分も一口飲むと、すぐにテーブルの上にタブレット端末を置いて私に見せる。
「実は、あなたに聞きたいことがあってね」
そこに写っていたのは、芸術殺人事件と同じように、セーラー服を着た、左指のない女の人の死体だった。
私は思わずメロンソーダを吹き出しそうになったのをぐっと、こらえて、咳き込む。
「ああ、ごめん。びっくりしたよね? 大丈夫?」
「何考えてるんですか!」
離れの地下から指が見つかった時は、私に配慮して写真を見せてくれなかったくせに、今日はいきなりそんな写真を見せられた。
驚かない方が無理がある。
それも、こっちは受験勉強の最後の追い込みの時期で、今日は影山先生が休みだから、私もたまの気分転換にと、ここに来たのに…………
「これ、似てるよね?
「……ええ、確かに」
花やリボンなどの装飾がされているところも、
でも、日付がつい最近のものだった。
「これさ、まだ警察で発表してないんだけど……模倣犯ってことに一応なってるわけ」
「模倣犯……?」
「そう、実は、あの執事————満島レオン容疑者が逮捕された後も、公表していないだけで、同じような死体がいくつか見つかっているの」
「……そうなんですか?」
伊沢さんの話によると、話題にならないのはすでに犯人としてレオンが捕まっていることと、他の死体はどうもあの絵を再現したものと違って、美しくないせいらしい。
「こういうのもまぁ、不謹慎な話なんだけど、やっぱり何か違うのよ。花の色使いというか、置き方なのか、活け方なのか……なんか違うなって思うわけ。
それに、見つかった遺体のいくつかは、性的暴行を加えられた跡が見受けられるそうで、そういう点でも、別の事件として処理されているらしい。
被害にあった人も、年齢は同じくらいだけど、顔つきは様々だった。
「それにね、この左手の薬指の切り方、断面から左利きじゃないかって説が出ていたの。満島レオン容疑者も左利きだから、その点でも犯人てことで一致はしてるんだけど、模倣犯のものは切り口からして、右利き。それで、昨日新しく見つかったのがこれなんだけど————」
伊沢さんが画面をスライドして、次の画像が表示される。
それは、これまで見せられた元は比べ物にならないほど、美しい、まるで絵画のような写真。
「これ、同じなのよ。指の切り口も、装飾の美しさも……何より、あの絵の一枚とも一致しているの」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます