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お母さんは、離れの捜査を拒否していたけど、地下室にある被害者達の薬指を見て、これはもうそう言う次元の話ではないと判断したみたい。
連絡を受けて慌てて戻って来たレオンが、ショックでめまいを起こしたお母さんを支えて、部屋に連れ帰って行った。
伊沢さんと同じ鑑識の人たち、それから数人の刑事さんが二階堂家の離れにどんどん集まって来て、現場写真を撮影したり、残っていた証拠品を回収して行くのを、私は少し離れたところから見守っていた。
「一体、どういうことなんでしょうか? あの絵、アート殺人事件の画像にそっくりだし……」
少し落ち着いたのか、それまでずっと金魚みたいに口をパクパクさせているだけだった柴田さんは、地下室から運び出されていく絵を見て、驚いている。
それに、ちらっと見えたけど、須見下さんが言っていた指の入った瓶も回収されている。
腐らないように何か液体の入った瓶の中に、赤いネイルの指が一本入っていた。
あれは多分、三人目の被害者・松本
ネットに上がっていた画像で、唯一派手なネイルをしていたのが
「柴田さんは、あの離れに地下室があること、知っていた?」
「まさか……知りませんよ。私、離れに入ったこともありませんし。お嬢様が中を見たいと言われるまでは、鍵の場所も知らなかったんですから」
地下室の存在は、お母さんも知らなかったみたい。
床に扉があるのは知っていたけど、床下収納か、点検口だと思っていたみたいで部屋に戻る前に開けたことは一度もないと、須見下さんに話していた。
誰があの地下室の存在を知っていたのかわからないけど、地下から二階堂家の塀の向こうへ出ることができるのなら、離れに入るのもそこからできる。
離れの床の扉は閉まっていても、下からでも簡単に開けられるようにできていた。
上に敷いてあった絨毯に、切れ込みが入っていて全部めくらなくても地下室への出入りは簡単にできるみたい。
「————何この騒ぎ……一体何があったの?」
いつの間にか、影山先生が私の隣に立っていた。
気がつけば、もう影山先生が来る時間だった。
でもこのままじゃ、また私は勉強に身が入らないと思う。
「
「地下室で……?」
屋敷に残っていた他の使用人たちも、不安そうに屋敷の中や外から離れを見ている。
昨日から二階堂総合病院は外来の受付を開始していた。
年始で患者さんが多いかせいか、お父さんもお祖父様もなかなか家に帰って来ない。
日吉さんも、毎年この5日と6日はかならず有休で二階堂家にいない。
みんなどうしたらいいかわからず、ただただ、状況を見守ることしかできなかった。
私もそう。
どうしたらいいかわからない。
ただ、地下室が殺害現場であることが証明されれば、この事件はどうしたって二階堂家と関わりのある事件ということになる。
世間から騒がれることは間違いない。
二階堂家に関わりのある人間を、きっと世間は犯人だと思うだろう。
一体誰が、あんな残酷なことをしたのか……
私には全く予想もつかなかった。
「葉月、これは一体どういうことだ? お前が、警察を呼んだと珠美に聞いたぞ」
お祖父様が私にそう尋ねて来た時には、すでに警察が帰った後。
私はお祖父様に、焼却炉で見たセーラー服や拾った三角ネクタイ、離れの絵のことも、改めて最初から全部話した。
お祖父様は黙って私の話を最後まで何も言わずに聞いてくれたけど、連続殺人犯が二階堂家に関わりがある人物である可能性が高いことに、ショックを受けているようだった。
「お祖父様は、離れに地下室があることを知っていたんですか?」
恐る恐る尋ねてみると、お祖父様はゆっくりと頷いて、昔のことを話してくれた。
「あの地下は、元々は戦時中防空壕として使っていたんだ。私の祖父があの離れを立てる時、整備して今の地下室になったと聞いている。またいつ戦争が起こるかわからないからと……」
でも、結局、それから戦争は起こらなかった。
その代わり、戦争で親を亡くした若い芸術家を住まわせて、書生さんとしてしばらく置いていたそう。
お祖父様はその書生さんの描く絵をすごく気に入っていて、昭和の終わりの建て替え工事の時に、その離れだけは残して置いて欲しいって、頼み込んだらしい。
書生さんが住んでいたのは、数年間のことだったけど、お祖父様には思い出の場所だったそう。
まだ子供だったお祖父様の、いい遊び相手になってくれていたらしい。
地下室のことも知っていて、よく二人で屋敷を抜け出して外に出ていたんだとか……
「あの人が結婚して独立し、二階堂家を出て行ったのは私が中学生の頃だ。結局、画家として大成はしなかったが、あの人の描く絵は本当に美しかった。今は奥さんの実家の方の墓に入っているそうだ」
お祖父様は、そんな大事な思い出の場所を、殺人事件の犯行現場にされてしまったことに酷く心を痛めていたようだった。
そうして、それから数日後、あの地下室が犯行の現場であることが確定する。
瓶に詰められた指も、被害者のものと一致。
残された血痕も、被害者のものと断定された。
重要参考人として、二階堂家の男の使用人、それから、お父様とお祖父様も警察署で任意の取り調べに応じる。
お祖父様は警察への協力を惜しまない姿勢を見せていた。
そして、警察が犯人として逮捕したのは、レオンだった。
テレビもネットニュースも、レオンが犯人だと騒ぎ立てる。
でも、私にはレオンが犯人だったなんて、とても信じられない。
それはお母さんも同じで、そんなはずはないと、何度も再捜査を望んでいた。
確かに、年齢的にはドライブレコーダーに写っていた犯人と一致する。
三十五歳で、男性。
運転免許も持っているし、人一人楽に抱えられる筋力も持っている。
だけど、ドライブレコーダーに映っていた犯人は、レオンより背が低かった。
それに、映っていた犯人の髪は、映像で色の判別は難しいけど、金髪じゃない。
黒か茶色の、暗めの髪色だった。
それに、レオンなら、私がわからないわけがない。
生まれた時からずっと、毎日見てきたレオンに気づかないわけがない。
私は須見下さんにもう一度、ちゃんと事件を捜査して欲しいと頼んだ。
でも……
「俺も、あの執事さんが犯人だとは思っていない。でも、一課長が……————」
上層部がレオンが犯人ということで事件を終わらせようとしているみたいだって、困った顔で、そう言っていた。
(4 Ally 了)
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