ユウ
「あの子はどうしているだろう。」
朝起きて一番に思うのはあの子の事。小さかったあの手。
「今日は何したかな。」
夕方5時に街に流れる童謡を聞いて思うのもあの子の事。半分ランドセルの後ろ姿。
「そろそろ布団に入ったかな。」
お風呂上りにふと時計をみて思うのもあの子の事。所在なげな一人ブランコ。
最後に話したのはもう何年前になるだろう。いつも手提げに違う駄菓子を二つ入れて会いに行き、二人で食べた。あの子の好みはだいたい分かっていたけれど、選びそうにない種類をわざわざ用意した。私のも必ず味見するから、小さな冒険を忍ばせたかった。お菓子を口に運びながらあの子は少しだけ自分の事を話してくれた。会いたい思いは日々募るけれど、近づいちゃいけないと言われている。
「あなたには危害を加えるつもりはない。それはよく分かりました。悠人《はやと》君とも話しましたし、あなたが良心であの子の事気に掛けてるのも分かっています。でもね、何度も言いますけど、先方が、迷惑、と言えば、迷惑になるんですよ。これ以上あの子には近づかない事。あの子もね、あなたと話したりするとお家の方に厳しく叱られるって言ってましたよ。あの子のためにもね。分かりましたか。」
乱れたくせ毛の警官が少し申し訳なさそうに言った。ただ、言い含めるように少し声高にゆっくり話す声は高圧的で有無を言わせない響きがあった。
それからは、極力会いに行かないようにしていた。でも、ある日、悪い予感がして、遠巻きからでも無事を確かめたくてどうしようもなくなり、ユウの学校の
ユウはあの子の命名の紙に書かれた漢字を見て、私が早とちりでユウトと読み間違えてから勝手に使っている呼び名だ。あの子と私には確かな繋がりは何もなくて、私にはあの子の心配をする法的な権利はない。ただ、ユウを初めて見た時、なぜか不幸せが歩み寄ってきている様な気がして、『この子を守りたい』、と強く思ったのだ。降ってきたその感情は驚くほどハッキリとしていて、もっともな理由など何も無くても疑う余地など何処にもなかった。なのに、バカな私はユウを遠くから見守る
でも、ユウはもうすぐ20歳。大人になれば、誰に会うか会わないか、決めるのは自由になる。そう思って指折り数えていたのだ。
必ずあなたを見つけて会いに行くよ。
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