黄色い線の向こう側には

村長

春一番

「はっくし」


ズズっと鼻を啜って

ティッシュに手を伸ばす君を見て、

今年も春が来たな、と実感する。


窓から差し込む暖かい太陽と、

麗かな声で昨日より気温が上がることを告げる天気予報士を睨む君。


その目が真っ赤に染まっているのを確認し、

不憫に思いつつ目薬を手渡す。


ありがとうの代わりに

もう一発クシャミをすると、

もう我慢ならんと目を擦り始めた。



「今日は一段ときつい…」

「目、そんなに掻かない方がいいよ?」

「うぅぅ、分かってるけど…

 あーー目玉取り出して洗いたーい」


その物騒な願いに思わず笑ってしまった。


目薬を点した方が楽だと判断したのか、

上を向いて目を瞬かせる。

瞼と連携して手までパチパチとする癖が

愛おしい。


苦しそうに花粉と対峙する君を見て、

神様は本当に不公平だな、

なんてメルヘンチックなことを考える。


だって、君はアウトドアな一方で、

こっちはインドアなんだから。


いっそ、交換してあげられたらいいのに。


割と本気でそんなことを考えながら、

桜前線より早い春の知らせを、

そっと抱きしめた。



おわり。

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