第53話

「ディハルト嬢。・・・もし、まだ相手が決まっていないのであれば、私のパートナーとして一緒に卒業パーティーに参加していただけないでしょうか?」


「・・・折角のお誘いですが、卒業パーティーは友人と参加する約束がありますのでお断りさせていただきます。申し訳ございません」


「3年生の先輩方もチャレンジャーですよね。さっきの方で何人目でしょうか?」


「最後の思い出作りとか?」


「それにしてもヴィーってモテるわよね」


「特定の相手がいないから仕方ないんじゃない?」


もう、みんな好き勝手なこと言って!

今回の卒業パーティーだって、卒業生以外は自由参加なんだから、私たちだって別に出なくてもいいのに"来年の本番の為に雰囲気を味わっておきたい"って言うから参加することにしただけなのに、なぜか私を誘ってくる人がいるのよね。


「そんなこと言って、みんなも誘われていること知っているわよ」


そうなのよね。

ジュリア以外はアリスもマーリンもチェルシーも婚約者がいない。


この国の女性の結婚適齢期が17歳から24歳だということもあり、学生の間は家同士の政略的な繋がりが無い限り婚約をしていない生徒も意外と多かったりする。


まあ、高位貴族の家の跡を継ぐ令息や令嬢には婚約者がいることが多い。


男性に至っては適齢期がさらに高くなる。

だからルイス兄様にも今まで婚約者がいなかったし、リアム兄様にもまだ婚約者がいない。


それに婚約者がいない令嬢は、学院を卒業してから文官になる人だとか、王宮や高位貴族の家で侍女として礼儀作法を学ぶ人もいたりする。


私たちの祖父母世代よりも上では、政略結婚も多かったし結婚適齢期も低かったと聞いている。

が、低すぎる年齢での妊娠出産は女性に負担が大きいのも事実で、今ほど医療が発展する前は出産で命を落とすことも多かったそうな・・・。



まあ、そんな理由で私も婚約者がいないことに焦ったりしていない。


相手が見つからなければいつか生まれるであろう、ルイス兄様とお義姉様の子供の世話をしたいと思っているぐらいだ。


本音は私も好きな人と結婚して好きな人の子供を産みたいと思っているけれど、今のところその相手はいない。

それに今は結婚願望もそれほどはない。


そのうち社交界にでも頻繁に出るようになれば・・・見つかるかもしれないと、少しだけ期待はしている。



「ディハルト様!」


ん?


「ディハルト様!わたくしはカトリーナ・ソルトと申しますわ」


振り向けば・・・

小さい女の子が仁王立ちして下から睨んでいた。

え?ここにいるってことは学院生?

ってことは17歳?

小学生ぐらいにしか見えないんだけど!


いやいやソルトってソルト伯爵家の令嬢よね?

ソルト家ってジョシュア殿下の婚約者のお家よね?

その下はまだ学院に通えるような令嬢はいなかったと記憶しているけれど・・・

それに制服を着ていないし・・・とりあえず挨拶はしておこう。


「ヴィクトリア・ディハルトですわ」


「大事なお話がありますの!」


大事な話しとは?


「ドルチアーノ様と婚約するのはわたくしですわ!」


「・・・そうですか」


だから何?


「ですから今度の卒業パーティーではドルチアーノ様のパートナーはわたくしが務めますわ!」


子供でも参加出来たっけ?


「よろしいのでは?」


「・・・」


いや、睨まれてもね?


「・・・」


「ソルト嬢!やっと見つけた!」


そこへ慌てたように走ってきたドルチアーノ殿下。


「ドルチアーノ様!!今ディハルト様に宣戦布告をしておりましたの!」


え?これって宣戦布告だったの?

それになんで私?


「勝手に離れたらダメじゃないか。ヴィクトリア嬢すまないね。それから宣戦布告とは何だい?」


「決まっておりますわ!」


決まっているの?


「ドルチアーノ様の婚約者になるのはわたくし!卒業パーティーのパートナーもわたくし!それをディハルト様に邪魔されたくないですもの!」


「・・・君は何を言っているんだ?」


あら?

ドルチアーノ殿下は呆れたような顔になっているけれど・・・この状況は面白いわね。


「私はお2人の邪魔をする気は一切ありませんわ。それにドルチアーノ殿下にこんな可愛らしいお相手がいたなんて知りませんでしたわ」


「ち、ちが「ふふん、分かればよろしい」


ドルチアーノ殿下の言葉に被せてきたけど満足そうなお顔ね。


「用がそれだけなら私は失礼しますわ」


私たちの会話を待っていてくれたチェルシー達も小さいソルト様を微笑ましく見ていたようだ。


あと数年もしたら彼女も立派な淑女になるだろうし、ドルチアーノ殿下も彼女が成長するまで待つのだろう。


うんうん。

自分好みのレディに育てる。

夢があっていいではないか。

それまでは2人仲良く頑張ってほしいものだ。

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