第37話 ドルチアーノ殿下視点あり

それから3日間、朝と昼は微熱程度まで熱が下がり、夜になれば熱が上がるのを繰り返した。

その間も入れ代わり立ち代わり、両親と兄様たちが看病してくれた。


学院にはお母様が風邪で休むと連絡を入れてくれて、お見舞いに来てくれたチェルシー達にもうつるからと丁寧に面会を断ってくれたらしい。


そして、彼ら彼女たちの処罰が決まった・・・とお父様が教えてくれた。


まず、水を上から落とした令嬢は成人した大人ならば寒い時期に全身がずぶ濡れになればどのような結果になるか想像ができたはず。

よって悪質な行為として留年。


次に、突き飛ばした令嬢も学院では皆平等と掲げているが、暴力を振るうことは貴族、平民関係なく罪に問われる事であり、許されるものではない。

よって留年。


そして、木刀で無手の私に危害を加えようとした彼は、当たりどころが悪ければ殺人を犯した可能性もあり殺人未遂と判断され退学。

ここからは学院ではなく、法廷での話になるそうだが、実際には王族のドルチアーノ殿下に傷を負わせたことで死刑まではいかなくてもかなりキツい刑罰が与えられる事になるそうだ。


それからその他の者には、集団で無抵抗な人を取り囲み、嘘の情報を確認することなく脅しに近い行為は悪質だと判断され謹慎を申し付けられたそうだ。

それも2ヶ月間。


留年の2人は私たち2年生が3年に上がるまでは自宅で謹慎だ。


停学や謹慎だけでも婿に入ることや、嫁ぎ先が無くなると言われているのに、留年するなんてこの先貴族でいられるかも難しいと・・・。


今回の件で学院は謹慎と留年と判断したが、要は学院を辞めさせて、廃嫡にするか修道院に行かせるかを親が選ぶのだろうと・・・。


高位貴族の令嬢に絡んだのだ、もう学院に帰ってくる子はいないだろうと・・・。


それでも、行動を起こすことを選んだのはあの子たちだ。


世の中には取り返しのつかない事がある。と、あの子たちも身に染みて分かったことだろうと・・・。


ここまでは学院で決まった処罰だが・・・

公爵家としてお父様がどうするのか・・・

私は口を出するつもりは一切ない。


今回のことは、あの場でドルチアーノ殿下が箝口令を敷いたことで学院でもまだ公表していないそうだ。

見せしめに公表する案もあったそうだが、何かしらの思惑があってのことだろうとは思う。


今の学院の状態がどうなっているのか分からないが、マーガレット王女の取り巻きが一斉に減ったことで何か感じる人もいるだろう。


マーガレット王女が今回のことで幽閉されるのか、まだ泳がせるのかはカサンドリア王家とトライガス王家で判断すると聞いた。



出来ることなら少しでも早くマーガレット王女にはこの国から去ってもらいたい・・・





~ドルチアーノ殿下視点~




あの日、学院から王宮に帰るため馬車止めまで友人たちと歩いていた時、友人の1人が慌てた様子で駆け寄ってきた。

彼は僕とヴィクトリア嬢が会えば軽く会話をする友人だと認識しており、その彼女が集団に取り囲まれていると知らせに来てくれたのだ。


嫌な予感がした。

彼女に何かあったら・・・。

場所を聞いて走り出した僕をただ事ではないと友人たちも一緒に走り出してくれた。


!!

ヴィクトリア嬢の後ろ姿が見えた!

彼女の前には20人近くの男女が彼女に向かって罵声を浴びせている。

僕に目を向ける者も居ないぐらい、彼女に集中しているようだ。


いつも真っ直ぐなヴィクトリア嬢の姿勢が僅かに右に傾いている。

左足を庇っているのか?

まさか!何かされたのか?

距離が縮まると見えてしまった。

ずぶ濡れの彼女が・・・


彼女の話し声も聞こえてきた。


あと少しまで近づいた時、1人の男子生徒が木刀を振りかぶった!

まさかそれを彼女に?

もう何も考えられなかった、2人の間に割り込み腕でガードした。

頭に少しだけ衝撃があった気がしたが掠った程度だ。


彼女の声に反応して振り向いて、ずぶ濡れで真っ青な彼女に上着を脱いで肩からかけた。血が出ていると教えくれたけど、僕は男だからね顔に傷が残っても大丈夫なんだよ?


僕の登場で、自分たちが何をしてしまったのか分かったのだろう。

だがもう遅い。


すでに僕の友人達は一人一人に聞き込みをしてくれていた。


周りを見渡せば何人かこの状況を見物していたようだ。

こんな状態の令嬢を助けもせずにだ!

この場にいる全員に箝口令をしいて、彼女に足首の怪我を指摘すると、驚いた顔をしていた。気付かれないと思っていたのだろう。


そして、ごめんねと伝えて抱き上げた。


初めて触れた彼女は折れてしまいそうなほど細くて軽かった。

降ろしてくれと、自分で歩けると慌てる彼女。遠慮なんてしなくてもいいのに。


馬車に乗り込み、備え付けの毛布で包みそのまま彼女を膝に乗せて抱きしめた。

だって仕方ないだろう?

唇も紫色でガタガタ震える彼女を少しでも温めてあげたかったんだ。

もちろん下心などない!


王宮に着つなりルイス殿に奪われてしまったが、僕の治療を先にしている間に彼女は風呂で体を温めると言われれば、僕に出来ることはもうないと、ディハルト公爵に勧められるまま治療を受けた。

そこで腕の骨にヒビが入っていると言われた。痛みなんて言われるまで感じなかった。


治療後、兄上の執務室に呼ばれリアム殿にはすぐに腕の怪我を見破られてしまったが、彼女には秘密にしてくれると約束してもらった。

頭の傷は見られたから隠しようもないけれど、それだけでも彼女は優しいから責任を感じてしまうだろう。


それにカッコ悪いじゃないか!




少し雑談をしているとルイス殿に抱かれてヴィクトリア嬢が入室してきた。

うん。顔色はマシになったね。


それから何があったのか、兄上が詳しい説明を求めた。

すると、彼女は経緯からあの場での会話を一語一句、口調まで真似て話してくれたから、ちょっと笑いそうになったことは秘密だ。

あと、マーガレット王女の含み笑いまで話し終わる頃にはルイス殿とリアム殿の後ろには黒いオーラが見えた気がしたのは目の錯覚だと思う・・・。そう思いたい。



話し終わると、静かに僕たちの話しを聞いているのかと思えば『兄様、ヴィー頭が痛いの』ってリアム殿に潤んだ瞳で抱きついていた。

その口調は幼く、甘える姿もなんとも愛らしい。

リアム殿はメロメロ顔で抱き上げ、ルイス殿は自分が抱き上げたかったかのように羨ましそうに見ているし、兄上は・・・うん、兄上はもの凄い衝撃を受けたような顔になっていた・・・。


リアム殿に抱かれヴィクトリア嬢が退室したあとは兄上が大騒ぎし、ルイス殿には『王家には渡さない』とクギを刺された。


1日に2度も同じことを言われた・・・



・・・そんなこと言われなくても僕が一番わかっているよ。


僕にそんな資格がないことは・・・分かっているんだ・・・

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