第32話

毎朝の登校時にルイス兄様とリアム兄様が交代で送ってくれるのは相変わらず続いていたし、ドルチアーノ殿下に会えば軽く言葉を交わすし、たまにハイアー様が話し掛けてくれば作り笑で聞き流していた。


新学期が始まって1ヶ月ほどたったある日、あれ?と、普段と変わらない日常に少しの違和感を感じた。

何がどうとは分からないが何かが違う・・・


チェルシーを含む友達もクラスメイト達とも変わりなく仲良く出来ているのに、一歩教室から出たら少しだけ学院の雰囲気が変わったようなそんな感じ。


これは今期編入してきたチェルシーにすら感じられるようで、ジュリア達も私と同じように違和感に首を捻っている。




今日も食堂で仲良し5人でランチを取ったあと、テラスに移動してお茶を飲みながら他愛のない話しをしていると、何処からかボールが飛んできて私たちのテーブルに当たってしまった。

カップは割れ、お茶は飛び散り、私たちの制服は汚れ、散々な目にあった。

幸いお茶も冷めていたから火傷もしなかったし、割れた容器で怪我をする事はなかったけれど、ボールを投げた本人は姿も見せなかった。


替えの制服は鍵付きのロッカーに予備を置いていたので各自着替えることは出来たが、ボール遊びしていただろう人が謝りにも来なかったのは気分が悪かった。


それを境に、庭園を歩いていたら水がかかったり、廊下で突然飛び出してきた人にぶつかられて転んだり、いつも一緒にいる私たち5人はその度に2,3人もしくは全員が巻き込まれることになっていた。


たまたま・・・そう、たまたまタイミングが悪かっただけで、個人を狙っているような感じはしなかった。

私が被害に遭わないこともあったから、本当にタイミングが悪かったとしか思えなかったのだ。



そして、秋から冬に差しかかる気温も下がり肌寒くなってきた今日は上から水が降ってきた・・・


ジュリアとアリスは日直でマーリンとチェルシーと3人で馬車止めまで幾つかある庭園を眺めながら歩ていた時、後ろから「ディハルト様」と呼び止められた。


マーリンとチェルシーも一緒に付き合おうとしてくれたけれど、「今日はここでお別れしましょう。また明日ね」と先に帰ってもらった。

まあ、結果から言えばこれが失敗だったんだけどね。


呼び止めた令嬢は校舎と校舎を繋ぐ渡り廊下から動かないため、私が彼女の傍まで行くことにした。


顔は何度か見かけたことはあるが、クラスも違えば、まだ話したことのない令嬢だな、と思った時には遅かった・・・


突然上から落ちてきた冷たい水に、一瞬何が起こったのか分からず心臓が止まるかと思うほど驚いた。


顔を上げた時には目の前には15、6人の男女がおり、私を睨んでいた。

中には木刀を持った男子生徒もいる。

それを私に使ったりしないよね?


それでも"よかった"と思えたのは、その中にクラスメイトが1人もいなかったから。


別のところから視線を感じて見てみればほくそ笑むマーガレット王女がいた。

すぐに理解した。

これがマーガレット王女のやり方だと・・・

目が合うと小馬鹿にしたような顔で私に小さく手を振ってどこかに行ってしまった。

どうせ行き先は旧校舎だろうけれど。


「いくら公爵令嬢とは言え思い合う2人の邪魔をするのはお止め下さい」


突然の訳の分からないことを言う令嬢に理解ができない。


「・・・なんの事かしら?」


「シラをきるつもりですか!!」


髪から落ちてくる雫が目に入り、目を閉じた瞬間誰かにドンッと強く肩を押さた。

後ろに倒れそうになったけれど、頑張って踏ん張ったんだよね。

案の定、無理して踏ん張ったせいか左足首にピキって痛みが走った。

グキって音すら聞こえた気がする。

でも、絶対に痛みを顔に出すつもりはない!


これは挫いたな。と冷静に考える私はやっぱり図太いんだろうな。


「何を言っているのか分からないのですが?」


「マーガレット王女様とハイアー様のことです!なぜ2人の邪魔をするのですか!」


「2人は思い合っているんですよ!」


「ディハルト様が身を引けば2人が結ばれる事がわからないのですか!」


なんだそれ?

次々、好きなことを言っているが、中には調子に乗るなだとか、性格が悪いだとかの罵声も入っている。


だが!前世でブラックな会社で揉まれに揉まれた私には屁でもないのよ!


「身を引けと言われても、私とハイアー様とは何の関係ありませんよ?ですから邪魔をする理由もありませんが?」


この子達、彼が私に公開プロポーズした事を知らないの?


「ディハルト様が嫌がるハイアー様を無理やり婚約者にしたとお聞きしています!」


誰にだよ!


「公爵家の力を使って婚約を強制するなんて最低な女だな」


おいおい、君たち。

周りをよく見ようね?

他の生徒たちも見ているよ。

君たちは公爵令嬢の私に何をしているのかな?


集団だと強くなった気になるのかな?

それとも、これがスカーレット王女の言っていたマーガレット王女の誘導で動いているのかな?


そうだとしたらマーガレット王女をこのままにしておくとダメだ。


こんな人目のあるところで公爵令嬢の私に水をかけ、集団で囲み、脅すような言葉を投げたことは、間違いなく噂になる。

それも学院内だけでなく社交の場でもだ。

それがどういう事かこの子達は分かっていない。


家族に迷惑をかけたこの子達の居場所がなくなる・・・

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