第30話
結局、私が領地に行っている間に彼からの手紙は1度も届かなかった。
私はまったく気にしていないどころか、私が彼を思い出すことすら無かったけれどね。
それに気付いたのも王都に帰ってきてからお父様や兄様達に聞かれてからだったもの。
私が留守の間、我が家に訪問してきたのも一昨日が初めてらしく、彼が私の帰ってくる日すら知らなかった事に驚いていた。
次に訪問してきたのは新学期が始まる前日・・・今日の事だったらしい。
そして私が彼の訪問を知ったのは、夕食も済ませた後で『疲れが出ているから休ませている』と面会を断ったことを教えられてからだった。
対応したお母様も、彼を信用していただけにかなりご立腹ですからね。
お父様と兄様たちは言うまでもなく大激怒!って感じだけれど・・・。
朝、侍女に起こされる前に自然と目が覚めた。
カーテンを開ければ真っ青な空にまだ早朝の新鮮で冷たい空気が気持ちいい。
制服に着替えるにはまだ早い時間だから、ワンピースに着替えて庭園に散歩に出てみればリアム兄様が剣の素振りをしていた。
ルイス兄様と並ぶと華奢に見えるリアム兄様だけれど、こうやって見ると背も高いし、肩幅も広い。
今なんて薄着だから引き締まった身体に、無駄のない筋肉があると分かるけれど、ジャケットを着ちゃうと着痩せして見えちゃうんだよね。
それにしても、リアム兄様って前世のアイドルやハリウッドの俳優さんとかよりカッコイイのよ!
頭脳明晰!眉目秀麗!温柔敦厚!
もう!完璧なの!
ルイス兄様だってそうよ?
2人ともお父様似だけど、ルイス兄様の方がガッチリ体型で、眼力?が強いんだよね。
「ん?ヴィーもう起きたの?」
邪魔にならないようにこっそり見ていたのに気づかれたようだ。
(やはり私には隠密は無理っぽい)
「お邪魔したようでごめんなさい」
「そんな事ヴィーは気にしなくていいよ」
おおう!
朝日を浴びたリアム兄様の笑顔が眩しすぎる!
「ヴィー?ちょっと話そうか」
そう言って側にある木陰にあるベンチまで手を引いてくれて並んで座った。
「ヴィーが領地に行ってすぐに、以前にきていたハイアー家からの婚約の申し込みは父上がハイアー侯爵に直接断ったよ。」
「はい」
「それでね、断わる理由にマーガレット王女とのことを話したんだよ」
「はい」
「侯爵もマーガレット王女の留学理由や、祖国での素行を知っていたらしい。」
「・・・はい」
「侯爵もアレクシスがそんな馬鹿な息子だとは思わなかったとかなり怒っていたようでね、本人が己の誤ちに気付くまでアレクシスには知らせない事にしたんだよ」
「ええ」
「ここまでは手紙で報告したよね」
「はい」
「今日から新学期だけどヴィーは本当にアレクシスの事はもういいの?」
「最初は彼の気持ちを信じていましたよ?でも2ヶ月もしない間に変わってしまった彼を信じる事はもう無理です。それに現場を見てしまいましたからね。・・・結局彼は一途だった訳ではなく、人の話を聞かない頑固者だったのでしょうね」
そう、本当に彼に惹かれていた気持ちが・・・欠片も無くなったんだよね。
それに彼もまた、私を見る真っ直ぐな目も、気持ちを伝えてくれた言葉も無くなっていた。
「そうだよね。ヴィーが無理して本当の気持ちを隠していないならいいんだ」
そう言って頭を撫でるリアム兄様の手は優しい。
「さあ、朝食を食べに行こうか。今日は僕がヴィーを送って行く日だからね」
私が無理していないか、ずっと心配してくれていたんだね。
差し出してくれた手で立ち上がり、そのままリアム兄様の腕に私の腕を絡めて、「ありがとうリアム兄様」と甘えれば「しょうがないなヴィーは」と、はにかむ笑顔を向けられた。
うっ!・・・実兄じゃなければ惚れちゃうよ?
危ない危ない、私も大概ブラコンだよね。
支度をする為に部屋の前で別れて朝食の席に着けば、リアム兄様の王宮騎士団の制服姿が拝める。
はぅ、尊い・・・。
「ヴィーは騎士団の制服が好きだよね」
「違いますよ?騎士団の制服を着ているリアム兄様が大好きなんです!」
「分かった。私も王太子の側近を辞めて騎士団に入るとしよう」
ルイス兄様!な、何を言ってるの?
冗談か本気か分からないからやめて!
「ルイス兄様、私は王太子殿下に恨まれたくはありません!」
「父様もあと20歳若ければ騎士団に入るのだが・・・」
お父様までや~め~て~!
「あなた達馬鹿なこと言ってないで早く食べて仕事に行きなさい!」
うん、いつもの日常だ。
「「リアム、ヴィーのこと頼んだぞ」」
「はい、お任せ下さい」
お母様の喝が入ればこの通り、素敵なお父様とルイス兄様に早がわりするのだ。
家族と使用人達に見送られてリアム兄様が出勤するついでに学院まで送ってもらった。
学院に着いて窓から少し覗くと、人集りが出来ていた。
休暇前によく見られた光景だ。
あの中心にはマーガレット王女がいる。
リアム兄様もそれに気付いたのか「ヴィーは領地から帰ってきたばかりで疲れているだろ?僕が教室まで送っていくよ」と、私の鞄を持って、手を差し出してくれた。
つい4、5ヶ月前までここに通っていたリアム兄様の登場に正門前は大騒ぎになってしまった。
主に令嬢たちの悲鳴で・・・
やっぱリアム兄様は目立つんだよね。
少し離れたところで彼を見つけた。
彼が見ている先にはマーガレット王女のいる人集りがあった。
両思いみたいでよかったよかった。
私は2人の邪魔を致しません!
だから、あとは2人でラブラブイチャイチャご自由に!
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