第21話

新学期当初はアレク様とマーガレット王女を会わせないようにする為に、私が3年の教室まで迎えに行っていたが、王女から接触がないことで、アレク様が迎えに来てくれるようになっていた。


私が迎えに行ってもアレク様が席を外していることが多くなったからだ。

だから、私のクラスで待つようになったのだ。

待つと言っても、せいぜい30分程で1時間近く待たされたのは数回程度だった。


"3年にもなると忙しくなるんだな" ぐらいにしか思っていなかったのに・・・




その日の朝も、アレク様はいつものように迎えに来てくれた。


「ヴィー悪い、今日も少しだけ待たせることになりそうだ」


「最近忙しそうですね。私のことは気にしなくて大丈夫ですよ」


アレク様と話す時に感じる少しの違和感・・・

前世でも同じ違和感を感じたことがあったと思い出したのは2ヶ月程前。


それに・・・学院が休みの日にも我が家に訪れていたアレク様の訪問が減ったこともそうだ。


一番はアレク様の目に前ほどの熱が見えなくなったのだ。


そこに気付いてしまえば私のアレク様に対する信頼と好感がスーと減っていった。

いえ、今は無いに等しいが正解か。


私の気の所為なら疑ったことを反省するけれど、でも私の想像している事は当たっている自信があった。


「アレク様、登下校を別にしませんか?私もお友達とのお付き合いもありますし、アレク様もそうですよね?」


アレク様は少し考えてから「それがいいかもしれないな。じゃあ明日からそうしようか?」と答えた。


やっぱり・・・疑惑が確信に変わった。


「いえ、今日は私用がありますので我が家の御者に迎えを頼んでいますので帰りの迎えを気にしなくていいですよ」


そう言って笑顔を作ってみた。


「分かった。だが登校時の迎えは行ってもいいだろ?」


「それも大丈夫ですよ。ルイス兄様やリアム兄様が王宮への出勤時に私を送りたがっていますので兄様たちにお願いします」


「そ、そうか残念だな。じゃあ明日からは別々になるな」


全然残念そうな顔をしていませんよ?


もう私を真っ直ぐに見ていない事にも、アレク様は気付いてもいないのでしょうね。






放課後、こっそりとアレク様の跡を追った。

もう、考えるのが面倒くさくなったし、ハッキリさせて、スッキリしたかったのが本音だ。




アレク様は旧校舎の中に入っていった。

遅れてマーガレット王女も・・・


成程ね。ここはもう使われていない校舎だから、生徒が近づく事もない。

逢い引きするには持ってこいの場所だ。


それに旧校舎は裏門から馬車が出入りできるし、馬車止めも近くにあるものね。


「ディハルト嬢?」


突然後ろから声をかけられビクリと肩が上がる。

恐る恐る振り返るとドルチアーノ殿下が、困った顔をして立っていた。


「こんな所で何しているの?」


「あ、あのドルチアーノ殿下は何故ここに?」


「いつも堂々としている君がコソコソしているのが見えたからね、気になって追いかけてきたんだ」


私のこっそりはコソコソしている様に見えたのか・・・。

私に隠密は向いてないようだ。

仕方ない、正直に話すか・・・


「アレク様を追っていたんです」


「アレクシスが旧校舎に?」


「ええ、入って行きました。・・・その後マーガレット王女も・・・」


口を開けてドルチアーノ殿下の驚いている顔が可笑しくて、つい笑いそうになってしまったのを俯いて耐えた。


「・・・それでディハルト嬢は2人の現場を押さえようとしたの?」


「いいえ、逢い引きしている所を目撃し、アレク様を見限る理由が欲しかっただけですよ」


「そ、そうなんだ」


何でドルチアーノ殿下の顔が引き攣っているんだろう?


「じゃあ僕も付き合うよ。証人は必要でしょ?」


こんな事に殿下を付き合わせるのは申し訳ないけれど、ドルチアーノ殿下が証人だとアレク様も後々言い訳する事も出来ないだろう。

私の目的もバレた事だし、もう遠慮せず頼んじゃおう。


「ありがとうございます」


「ディハルト嬢、どんな光景を見ても音と声を出さないよう気を付けてね」


頷いて了解する。

それを合図に旧校舎の人影の見える窓に近付いた。


『アレクシス様、会いたかったですわ』


『昨日も会っただろう?』


すでにアレク様とマーガレット王女は抱き合っていた。

しっかり声も聞こえるし、姿もはっきり見える。


『それでもわたくしは毎日でもアレクシス様にお会いしたいのです』


そう言ってマーガレット王女がアレク様を上目遣いで見上げれば、顔が近づきキスをした。

これは、1回や2回の逢い引きじゃないわね。

冷静に考える私の横にいるドルチアーノ殿下は息をのみ、拳を震わせていた。


『アレクシス様、今日も少ししか一緒にいられる時間はないのですか?』


『いや大丈夫だ。もうヴィーと登下校はしない事になった』


バッと私を見下ろす殿下に頷いて本当だと答える。


『では!今日はお時間を気にしなくていいのですね』


またまたキス。もう一つキス。


ん~最初にマーガレット王女を見た時は、とても"愛らしく儚い庇護欲をそそる"女性だと思ったけれど、今はあざといとしか思えない。


『王女との関係は留学が終わるまでの間だけだからな。それまでは付き合ってやるよ。俺にはヴィーがいるからな』


何を偉そうに言ってるのだか。


げぇ~ないない!

舌を出して吐くマネをする私をドルチアーノ殿下が心配そうな顔で見てくるけれど、全然平気なんだよね。


『それに、俺は王女と体の関係までは持つつもりはない』


はいはい、持っても持たなくても好きにしたら?

期間限定と言わず、そのまま永久に付き合っちゃえばいいのに・・・

アレク様ってバカだったのかな?

うん、バカだったのね。


もうこのぐらい見ればいいか、とドルチアーノ殿下の袖を引き、覗きを終了する合図を目で送ってその場をあとにした。

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