魔力適正ゼロの俺が大賢者になって勇者パーティに復讐するって話

ノヒト

最終節・魔王の玉座の前で。


 ――あぁ、さようなら俺の右腕。


 きりもみ回転しながら、それでもしっかりと大賢者の杖を握り続けている右腕を見ても、痛みや喪失感を覚える前に、冷静に心の中でお別れを告げられた俺は、やはり何処か壊れてしまっているんだろう。


「今だケレル!!」


 叫んだのは俺の右腕を斬り飛ばした剣士(♂)……あー、名前なんだったかな。剣の腕はホントに一流なんだけど。


「ケレルさん! トドメを!!」


 各種身体能力上昇のバフ魔法を多重展開マルチキャストする癒術師(♂)……コイツも名前とかどうでも良かったな。惜しいなぁ、魔術の腕は良かったんだけど。


「ここで消えてもらうぞ! 大賢者ぁッッ!!」


 勇者の鎧(笑)、勇者の盾(笑)、勇者の兜(笑)を身にまとった壮麗な男は猛然と加速する。

 肩書きだけの勇者に、最早名前なぞ必要ない。仲間(笑)の援護を借りて、その手の勇者の剣(笑)を大上段から振り下ろす愚かな勇者(笑)に、俺は我慢ならず笑いが溢れた。


使なんて誰が決めたんだ?」


 その場でバランスを崩し、勇者(笑)は俺の足元にヘッドスライディングよろしく滑り込んできた。

 その顔は驚愕に歪んでいる。


 そりゃそうだ。

 いきなり両足がんだからなぁ。


「右腕はワザとくれてやったんだよ。……勇者を殺すんだ。精霊サマ達に代金くらいは払わねぇとな?」


 自分の両腿から溢れる鮮血と、青ざめる勇者(笑)の顔を見下ろしながら俺は背後の魔王に向けて振り返りもせずに言い放った。


「忘れんなよ? 世界の半分だぞ」




 ――これは、このシーンに辿り着くまでのお話し。


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